テラーノベル
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侑に情事を見られた事にハッとしたレナは、慌てて傍に放置してあったタオルケットを引き寄せて身体を隠し、シュナイダーは、侑に背中を向けながら、そそくさと服を着出して部屋から逃げ出した。
『ちっ……違うの! 侑、こっ……これは——』
『フンッ…………何が違うというんだ? 俺がいない間に男を部屋に連れ込み、俺の目の前でセックスしているって事は、完全にシュナイダーと関係があったという事だろ?』
侑の鷹のように鋭利な視線がレナを貫いた後、恋人を嘲笑するように唇を歪めさせた。
『恐らくだが、お前らの関係は、俺が留学を終えて日本に戻っている時から続いているんじゃないのか?』
恋人から妙に冷静に問われたレナは、凍てつくような侑の視線に、恐怖すら感じている。
『だって…………遠距離恋愛で侑に会えなくて…………寂しくて……つい……』
『ほぉ……。寂しいからといって、他の男の前で平気で脚を広げるのか。まるで売女だな』
汚らしい物を見るような侑の眼差しに、レナの身体がビクリと震える。
『俺とレナの関係はここで終了だ。後はシュナイダーと仲良くやれ。それに、俺のトランペットレッスンも、シュナイダーに引き継いでもらえ。俺の生徒たちには連絡をしておく』
『侑! 待って!! 話を聞——』
侑は、レナの言葉を最後まで聞くことなく部屋を出ていくと、自宅マンションに真っ直ぐに向かった。
自宅マンションへ戻った侑はパソコンを立ち上げ、早速レッスン受講者全員にメールで一斉に連絡を入れた。
急な事で申し訳ないが、響野侑のレッスンは諸事情により終了した事。
後任はオーストリア人トランペット奏者のシュナイダーが講師を担当する事。
これまでの感謝の気持ちと、これからも音楽を楽しみながら、レッスンを続けて欲しい、との一言も添える。
連絡が終わった後に、自宅マンションの掃除と片付けをする。
(何だったんだろうな、この四年間。日本に帰国しろって事なのかもしれんな……)
自嘲気味に薄ら笑いを浮かべる自分が惨めでもあり、虚しくも思う。
ここでの生活も潮時だと感じた侑は、航空会社のサイトにアクセスし、羽田行きのチケットを探した。
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