テラーノベル
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ルーツ・ガーデンの理念は、海の手によって世界中に根を張り
かつての「強欲な数字」が支配していた社会は、静かに、しかし確実に形を変えていた。
格差が消えたわけではない。
けれど、どんなに貧しい場所にいても
「自分の誠実さは一円の価値として認められる」という安心感が、世界を少しずつ黒字に変えていた。
そんなある日、莉奈が私の相談所を訪れた。
彼女はもう、泥にまみれた掃除婦ではない。
ルーツ・ガーデンの地方拠点で
かつての自分と同じように迷える女性たちを支援するリーダーとして、独り立ちすることが決まったのだ。
「……詩織さん、ありがとうございました。私、一生かけて、あなたがくれたこの一円の重さを返していきます」
「返さなくていいわ、莉奈さん。……その一円を、次の誰かに繋いで。それが、私の帳簿の閉じ方だから」
莉奈を見送った後、私は久しぶりに黒いドレスを纏い、直樹の眠る墓地へと向かった。
そこには、かつて私を支配し、嘲笑い
そして最期に歪な愛を遺した男が、ただの石の下で沈黙していた。
私は、父の万年筆で最後の一行を書くために、手帳を開いた。
「直樹。……あなたの計算は、やっぱり間違っていたわ。人を支配するために使った数字は、結局あなたを独りぼっちにした」
私は、墓前に一輪の白い花と、あの一円玉を供えた。
風が吹き抜け、楠の葉が揺れる。
私はその場所で、直樹に対するすべての感情を0に戻した。
憎しみも、悲しみも、未練も。
すべてをゼロに還元することで、ようやく私は、本当の意味で自由になれたのだ。
帰り道
夕焼けに染まるルーツ・ガーデンの大樹の下で、海と陽太が待っていた。
二人の姿は、かつての直樹や父の面影を宿しながらも
全く新しい、誰にも支配されない光を放っていた。
【残り1日】
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