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11:00 ─────── 王都・大聖堂
空はどこまでも高く、一点の曇りもないクリスタル・ブルー。
まるでこの日のために、世界中の濁りを取り除いたかのような蒼天だ。
王都中の鐘が、幾重にも重なる祝祭の旋律を奏でて鳴り響き
街の目抜き通りはリリアーヌの美しい髪の色を模した黄金色のリボンと
俺が職権乱用気味に世界中の市場から買い占めた純白のバラで埋め尽くされていた。
原作シナリオ。
かつての俺が画面越しに絶望しながら見届けた
あの凄惨な「断罪のギロチン」が置かれるはずだった広場は
今や色鮮やかな花びらが舞い踊る祝福の舞台へと変貌を遂げている。
俺が社畜時代にデスマーチで培った圧倒的速さの事務処理能力で国庫を潤し
リリアーヌを陥れようとした腐敗勢力を根こそぎ駆逐し
再起不能なまでに論破・解体した結果
そこにあるのはただ、耳を貫くような、溢れんばかりの民衆の祝福だけだ。
「……信じられませんわ。私が、こんなに多くの人に祝福されて、笑っているなんて」
隣を歩くリリアーヌが、震える声で小さく、自分に言い聞かせるように呟く。
最高級のシルクに、古代の魔石を粉末にして織り込んだ特製のウェディングドレスに身を包んだ彼女は
もはや「令嬢」などという安っぽい言葉では形容できないほど神々しく、眩しい。
サファイアブルーの瞳は、これまでの孤独や不安をすべて洗い流したような、希望の涙で潤んでいた。
俺はその白く細い手を取り、指を絡めて強く握りしめた。
「言っただろ、リリアーヌ。君を幸せにすると。君はこの国の、そして俺だけの、一番愛くるしい最高のヒロインなんだ」
「……デューク……っ」
彼女の瞳から溢れた一筋の涙が、ダイヤモンドよりも輝いて見えた。
◆◇◆◇
23:00 ───────王宮の寝室にて
祝宴の喧騒が遠のき、夜の帳がしっとりと降りた静かな寝室。
開け放たれた窓からは、完遂されたハッピーエンドを祝うような満月が差し込み
風に揺れるシルクのカーテンを白く、幻想的に照らし出している。
そこには、重い儀礼用の正装を脱ぎ捨て
薄いナイトドレス一枚になったリリアーヌが、落ち着かない様子で天蓋付きベッドの端に腰掛けていた。
薄絹の向こうに見える彼女の輪郭に、俺の理性が警告音を鳴らす。
俺はゆっくりと、彼女の隣に腰を下ろした。
シャンパンの酔いでも、式の高揚感でもない。
俺は今、人生で一番、静かで、そして真剣だ。
「……リリアーヌ。ようやく、二人きりになれたな」