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トシ子とアスタの二人を乗せた軽トラ(4WD)は、幸福寺の駐車場から脇に抜ける農道を軽快に走り去って行った。
見送っていたコユキの目には車の上部に幾つも浮かんだ、桃色のハートマーク(聖魔力製)がハッキリと見て取れたのである。
隣に並んで見送っていた善悪が話し掛ける。
「いやあ、ドタバタでござったが、何とか騒ぎが今日中には収まって良かったでござるな、ね、コユキ殿?」
「へ? んまあ、早目に仲直り出来たに越した事無いわね」
言いながら庫裏(くり)へと戻った二人は、今度は本堂ではなくいつもの様に居間へと向かったのである。
コユキはすっかり慣れたいつもの場所にドッカリと座り込み、善悪が緑茶を淹れるのをぼうっと眺めていた。
「それにしても、さっきの言葉、流石でござった」
湯呑みをコユキの前に差し出しながら善悪が告げたセリフに、不思議そうに首を傾げるコユキ。
「さっきのって? 何か言ったっけ?」
「あれでござるよ! 地球ヤバイって僕ちん含めて皆絶望しきっていたでござるのに、たったの一言で場のムードを前向きに変えたでござろう?」
「ああ、その事か、んな大した事じゃないわよ」
「大した事でござる! 変に無理してるって感じじゃなかったでござるし、この先の漠然とした不安ではなく、目の前のやるべき事を皆に気付かせた語り口も見事だったでござる。 直前までコユキ殿も一緒に震えていたでござるに、周りの感情に気がついて咄嗟(とっさ)に切り替えたのでござろ? 中々出来る事ではなかろ? 並みの肝っ玉ではああはいかないのでござる! 流石はコユキ殿、肝も、いや、肝が太いのでござる!」
「ちょっと褒めすぎよ善悪! アタシは只、順番通りに進めなきゃって考えただけだもん、それに世界? 地球の事ならなんとかなるかなってね、思えたから」
「えっ? なんとかなるの? マジで?」
コユキの楽観的な言葉に目を白黒させている善悪、それ程アスタの話と照らし合わせた地球の現状がヤバイと感じていたからだ。
何となく、新約聖書のヨハネの黙示録とシンクロした部分が散見された事も、より恐怖を煽(あお)られた理由であろう。
驚かせた本人のコユキは、相変わらず気楽な感じで言うのであった。
「ほら、ノストラダムスの時だってそうだったじゃない、起きそうなんだけど案外大丈夫なのよ! 分かんないけど。 ツバルもベネチアも偶(たま)に浸ってるけど、本当なら海底に没してるんじゃなかった? 知らないけど。 外来種が増えすぎても水抜くと結構在来種もしぶとく生きてるし、タロとジロだって生きてたでしょう? だから大丈夫かもなって」
「えっ、そ、そんだけの理由なの?」
「まあね、それに」
「そ、それに?」
「寝て起きたら全部解決してるかもしれないじゃない」
善悪のガッカリは最頂点であった、付き合っていても仕方ないと考え、自分の仕事を片付ける事を優先するのであった。
「んじゃ、これ飲んでちょっと待っててねん、でござる、蔵を探す前に台所の仕事が残っているでござるから、少し時間が掛かるかも知れないから、なんなら昼寝してても良いのでござる」
そう言ってこれまたいつもの様に菓子盆に入れられた、コユキ曰く『坊さんのお菓子』を差し出すと立ち上がり居間を出ていく。