テラーノベル
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ああ、腹の奥がフツフツ煮えてる。
申し訳無くも翔太くんの声を完全にBGMにし、俺の意識はソファに並んで腰掛ける二つの影へ向かう。
…心做しか寄り添っているようにも…っ、まただ。煮えはドロリと泥味を帯び、腹から胸へ広がって行く。
〝阿部ちゃん借りるよ?〟
含みを孕んだトーン。笑っているフリをした、俺だけを射貫く眼。
何だ?一体何が起こった?…いや、何の意味かは分かる。初めて見る佐久間くんの威嚇に怯みはしたが、その後は上手く出来た。愛する人の手助けも。
引っ掛かるのはただ一点、俺達の関係を知っている流れからのアレだ。ようするに…、…だよな。優秀ではないと自負している頭でも簡単に思い至れる。
佐久間くんも、阿部ちゃんを……。
遠い視線の先、焦がれる人の安心しきった微笑みを愛しくも焦れったく思う。
全然気付いてないから、あんな顔を無防備に向けられるんだろうな。あーあ…阿部ちゃんの事見っぱなしじゃん。デレデレしちゃって、さっきの肉食獣みたいなのは何処行ったんだよ。でも、
「阿部ちゃん、可愛い…和む」
勉強が出来て気も利くのにちょっと鈍い、そんな阿部ちゃんに心奪われている俺の目は意識外で横へ滑った。捉えたが最後、到底の事では外せない。
…ま、佐久間くんもそうなんだろうけど。だから気が合うのかな。ライバルっていうか戦友?派手な喧嘩した後笑顔で握手出来そう、なんて余所事は隣からの怪訝な問いで途切れた。
「……は?お前俺の話聞いてる?」
「はは、ごめん。つい出ちゃった。ちゃんと聞いてるよ、新作のグミが大当たりだったんでしょ」
「お、そーそー。阿部ちゃんにも教えようと思って鞄に…、あれ?持って来なかったっけ」
がさごそ鞄をまさぐる姿を後目に、結局阿部ちゃんに繋がるんじゃん、と笑いが零れた。
無事収録が済んだが、俺は次も仕事がある。
メンバーも帰宅するなり現場へ向かうなりで、身支度を終えた人から去って行く。
阿部ちゃんは…この後無しか。有り難い忙しさが今は恨めしい。オフ被りが見当たらないスケジュールを映す液晶画面を爪先で叩き、双眸を跳ね上げる。
バッチリ目が合った。なんてタイミング。
ほわぁん。春の花のような綻びを咲かせた、控えめに言って尊い恋人とのアイコンタクトだけで恨めしさが吹っ飛んだ。…癒し効果ぱねぇな。
衝動的に床を蹴り、駆け寄る手前でピンク髪が視界端に入る。あっ…ぶねぇ、阿部ちゃんの頑張りを台無しにする所だった。澄まし面で帰ろうとしていました体を装い、歩先を扉へ。
「お疲れ様でした。お先に失礼します。…じゃあ、また」
「蓮、お疲れー。撮影気張って来いよ!」
「お疲れ様。何時も何時も頑張ってて本当に頭が下がるよ。行ってらっしゃい、気を付けてね」
…なんなんな…~っ、んであんな言葉がすらっと出て来るんだあの人は!?
はぁ…しんどい、好き。心臓うるさい…好き。抱き締めたくて堪んない…ちゅうしたい、好き、ちゅう…。
フラっフラ千鳥足で廊下を歩く顔は程良く火照り、熱発と勘違いしたマネージャーに心配された。
自室の時計の針は二本とも天辺に近い。今日も今日とてハードワークだった。疲弊に軋む心身を励まし、辛うじてシャワーを浴び終える。後はもうどうでもいい…俺にとっての風呂は、不思議とそんな心地にさせてくれるもの。
パンツ一丁で濡れそぼる髪をガシ拭きする姿は立派なおっさんだな、胸中ツッコミで吹き出しながらミネラルウォーターを片手にソファへ沈む。
ペットボトルの蓋を開栓し、一気に乾いた喉へ流す…────っぐ、ごほぉっ!
僅かな噎せで零さず済ませた俺を誰か褒めて欲しい。
短い咳の合間口腔内を何とか空にし、数メートル先をただただ見詰める。
ちょい開いた寝室の扉から覗く、可愛いと綺麗とが仲良く手を繋いだあの顔……待てよ、生きてる?幽霊だったり?え、まじ本物?好き過ぎての妄想じゃなくて?二度目の巻き気味胸中ツッコミの間声はない、無音だ。しーん。
口火を切ったのは、気まずそうな表情の阿部ちゃん。
「あ……お邪魔してます、ました。えっと、これ、前めめくれたじゃない?来たい時来ていいよって。だから、そのぉ…き、来ちゃった」
細く長い指から垂れる輝きの正体は、俺が渡した合鍵で多分合ってる。…うん、事態は飲み込めた。けど頭が追い付かない、のに正直過ぎる体は動いた。
跳ぶ勢いで距離を詰め、扉から愛しい人を引っ張り出す。裸の腕を一回り華奢な肢体に絡め、想いのままに抱き締める…、…ふわ。馴染んだ甘い香りが鼻腔を擽った途端、指の先まで全身隈なく情欲が駆け巡った。もっと嗅ぎたくて、どうしようもなくて、一際掻き抱き匂いの濃い耳裏へ顔を埋める。吸う、吐く。
「…っあ、めめ…~ん、」
二色の荒い呼吸が漏れる中、パンツ一丁だった事を後悔する時間が訪れる。
続
#目黒蓮
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