目が覚めたら知らない天井だった、というのは名作アニメのセリフで俺の言葉ではない。
だが、今はあえてそう言わせてもらおう。
目が覚めたら、知らないドーム型天井だった。
――何で?
ドームと言っても東京ドームじゃない。
歴史の資料集に載りそうな、古い教会やお城を連想させる、荘厳な感じの天井だった。
見慣れた二段ベッドの底板とはえらい違いだ。
「良歌」
いつもは二段ベッドの上で眠っている妹の名前を呼ぶと、戸惑いを含んだどよめきに気が付いた。恐怖と焦りに満ちた声が、この場の危険性を物語っていた。
一拍遅れて、
「むにゃむにゃ、にいさぁん」
という能天気な声が聞こえた。
「いやひとりだけ呑気だな!」
ツッコミながら上半身を起こすと、高校の制服姿のクラスメイトたちが不安にざわめきながら困惑の表情を浮かべていた。
「あ、いけませんにいさん、わたしたちは兄妹といっても連れ子同士の他人、ためらわずにガッときてください、うぇるかむばっちこいもにゃもにゃ」
「目覚めのハンドキス」
「朝からアイアンクロー!?」
クラスメイトに聞かれたらお先真っ暗どころか漆黒の爆弾発言を漏らす妹の頭蓋骨に、五指を食いこませる。
すると、良歌は逆えびぞりからのナイス腹筋力で跳ね起きた。
「あれ? 修学旅行先のホテルってこんな感じでしたっけ!?」
「修学旅行……」
思い出した。
俺らは高校の修学旅行で飛行機に乗っていたんだ。
そこで急に白い光に包まれて……。
「よく来たな地球人たち。私は国際魔法教会理事長ベスティエ。ここは異世界、お前たちは二度と帰れない。諦めてこちらの段取り通りに動け」
マニュアル化したように滔々と口上を述べるのは、異世界転移系アニメに出てきそうなローブ姿の中年男性だった。
外見はどの人種とも違っていて、あえて言うなら2・5次元のリアルゲーム顔。
日本人が見れば欧米人に見えて、欧米人が見れば日本人に見える、某国民的RPGゲームに出てきそうな容貌だ。
何よりも、髪が緑色な時点で人種不明だ。周囲にいる部下らしき人たちも、髪は紫にオレンジ、青色とまるでコスプレ会場だ。
「お前らのことは良く知っている。地球人は何度も召喚しているからな。お前ら風にわかりやすく言うとお前らは異世界転移した。これから鑑定スキルでお前らの魔法適性を見ていくからおとなしくしていろ」
まるで100回以上読み上げたように慣れた口調で男が語ると、周囲にいた部下らしき連中が外側の生徒に近づいた。
その間に、一部の生徒たちは色めき立った。
「おい聞いたか? 異世界転移だってよ!」
「しかも魔法適性って王道じゃねぇか!」
「うぉお、これは異世界チートライフ来るか!?」
相変わらず能天気な連中だ。
一方で、俺はとてもじゃないけど喜べなかった。
こいつは言った。
「お前らのことは良く知っている」「地球人は何度も召喚しているからな」
つまり、こいつらは異世界転移と言う名の人さらいを、平然とやるような連中ということだ。
当然、それなりの理由があるだろう。
「あ、良歌。よかったここにいたんだ」
「あたしたちどうなっちゃうんだろう」
「安心してくれ! 良歌ちゃんのことは俺が守るぜ」
俺らが立ち上がると、クラスメイトの何人かが俺を無視して良歌に声をかけてきた。
良歌は愛想笑いを浮かべ、当たり障りのない返事をしながらも俺の手を握り、不安を押し殺すように力を込めてきた。
おかげで兄として良歌を守らねばという使命感が湧き上がり、俺を冷静にしてくれた。
「次はお前らだ、来い」
声をかけてきた生徒たちが連れていかれるや否や、良歌はそっと俺の腕を取って来た。
「兄さん」
良歌も俺と同じことに気づいたらしい。
さっきまでの寝ボケや愛想笑いが嘘のように怯えと警戒心が混ざり合った表情で、俺とだけは離れまいとしていた。
「安心できる状態じゃないけど落ち着け。魔法適性ってのが俺らの運命を左右するのは間違いない。みんなの適性を聞きながらシミュレートしとけ」
「はいっ」
俺の言葉に、良歌は眉をひきしめて頷いた。
素直な妹の頭をひとなでしてやると、顔がちょっと赤らんだ。可愛い。
というのはさておき、鑑定スキル?とかいうので生徒たちを鑑定していく様子に耳を傾けると、だんだんこの世界のことが分かって来た。
ここは武力が全てを支配する剣と魔法のファンタジー世界で、戦士=魔法戦士。
魔法の腕が強さに直結するらしい。
魔法のバロメーターはどんな魔法が使えるかという【魔法適性】と威力を決める【魔力強度】のふたつらしい。
「おぉ、これは素晴らしい。この者の適性は火属性の火炎系統、魔力強度は1500。こちらは同じく火属性の閃光系統、魔力強度は1400。どちらも小国ならトップクラスの人材です」
隣のクラスでは有名なサッカー部コンビがガッツポーズを取る。
その取り巻きらしき生徒が、これでもかとほめたたえている。
――こいつら、なんで誘拐されておきながら楽しそうなんだ?
一昔前まではアニメ視聴者=オタクだったけれど、昨今は某鬼退治作品の影響でアニメは老若男女見るようになったし、某スライム魔王作品や不死者の王作品の影響で異世界転移作品は一軍リア充の陽キャ様たちも良く知るところだ。
「兄さん、あの人たち、絶対に自分が勇者召喚された主人公だと思っていますよ」
「某盾の勇者アニメを思い出すな」
俺が辟易としていると、少し離れた場所で歓声の声が上がった。
「理事長! この者は鑑定スキル持ちですよ!」
「ほぉ、スキル持ちか。それは地球人の中でも珍しいな。しかも鑑定スキルか、これは盛り上がるぞ」
こうした会話から、魔法とは別にスキルという特殊能力が存在している事。異世界人よりも地球人の方が持っている人が多いが、それでも珍しい事。
そして鑑定スキルが貴重なスキルであることが推測できる。
もしも自分が鑑定スキルを持っていたら、そう考えていると、ややあって俺らの順番が回って来た。
すると、クラスメイトたちがいやらしくニヤついた。
「おいみんな、ジャナイが鑑定されるぞ」
「どうせ魔力強度5のゴミだろ」
「外れ適性けって~い」
「神谷兄妹の【妹じゃないほう】のジャナイくんだもんな」
「わらえるぅ~」
これが俺、神谷良治のスクールポジションだった。
自画自賛ではなく、妹の良歌は可愛い。超可愛い。
腰まで伸びた黒髪はCMのシャンプーモデルのように天使の輪を輝かせ、風になびく姿は映画のワンシーンを彷彿とさせる。
大きく柔和なタレ目は相手を威圧することなく、自分の全てを受け入れてくれそうな包容力と安心感を与えてくれる。
男でなくても自分だけのものにしたくなるし、したならば全力で甘えたくなってしまう。
人当たりも良く、誰からも好かれる。
良歌は、そんな稀有な美少女だった。
流石は俺と血がつながっていないだけはある。実の妹だったらこうはいかないぞ。
だが一方で、そんな良歌の兄貴である俺は小学生の頃から「神谷兄妹の妹じゃないほう」通称ジャナイと呼ばれてきた。
初対面の女子は皆、良歌に兄がいると聞けば「えっ!? 神谷さんってお兄さんいるの!? やっば、絶対イケメンじゃん!」と勝手に期待して、俺の元に押しかけて来ては「え~、あんたが神谷さんのお兄さ~ん? こんなの詐欺じゃ~ん」と罵ってくるのだ。
詐欺も何もそっちの思い込みだろう。
俺と良歌は偶然名前が似ていたため、みんな双子の兄妹だと勘違いするようだ。
俺からすればいい迷惑だ。もちろん良歌は悪くない。悪いのは全てクラスの連中だ。異論は認めない。
などと俺がヤキモキしていると、ローブ男が眼鏡の位置を治しながらまぶたを開けた。
「こ、この男の適性は火属性の火炎系統と風属性の烈風系統です!」
「え? 俺ふたつ持ち?」
「凄いです兄さん! 流石は私の兄さん! よっ、性格イケメン!」
さっきまでの警戒心はどこへやら、良歌は手を叩いて喜んでくれた。相変わらずアップダウンが激しいというか、俺のことになるとテンションが高い。
一方で、周囲の生徒たちは俺の二属性持ちに悔しげだった。
「嘘だろ? ジャナイが属性ふたつもちかよ」
「ずっる」
「ラノベかよ」
嫉妬の声が心地よい。俺も性格が悪いなぁ。
――どうやら、異世界で良歌の足を引っ張ることはなさそうだな。
などと喜んだのも束の間、ベスティエ理事長が侮蔑するように声を濁らせた。
「ちっ、冒涜者か。とんだハズレだな」
――ハズレ?
その言葉が生徒たちの間に疑問の静寂を生み、俺は首をひねった。
「あの、なんで俺がハズレなんですか? 火と風の両方を使えるなら、俺ってみんなの上位互換じゃないんですか?」
誘拐とはいえ、機嫌を損ねる愚策は踏まずに、俺は敬語で接した。
けれど、ベスティエ理事長は憎らし気に鼻で笑った。
「愚か者め。お前は両手に剣と槍を持つ者が剣士の上位互換だとでも思っているのか?」
「へ?」
「魔法は一点豪華主義。二心の浮気者が大成しないのは歴史が証明している」
「な……」
軽い絶望感に、俺は反論の言葉を探すもベスティエ理事長に機先を制された。
「そも、人間は神よりただ一つの魔法適性を賜り生を受ける。ならば二つ目の適性は悪魔に魅入られた不吉の象徴。これは盛り下がる」
――盛り下がる? そういえばさっきも盛り上がるって。いやそれよりも。
「なぁんだ、やっぱりね。そんなことだと思ったよ」
「だよねぇ、ジャナイがチートなわけないしね」
「まっ、いいんじゃない? どうせ良歌が守ってくれるんだろうし」
「おいおいあいつ異世界でまで妹に守ってもらうのかよ。ウケる」
周囲の反応に俺は恥ずかしくて、思考が停止するくらい惨めな気持ちになった。
こんな扱いは小学生の頃から慣れっこだし、可愛い良歌と比べられたら仕方ないと思えた。
でも、異世界という非日常的な状況に、逆転劇を期待しなかったと言えば嘘になる。
「兄さんをバカにしないでください!」
らしくない大声に顔を上げると、良歌がみんなを睨みつけていた。
こんな良歌は何年ぶりか。きっと小学生以来だろう。
「兄さんは、いつだって私を心配して守ってくれました! 誰よりも大事に、大切にしてくれました!」
幼い頃、良歌は俺をバカにするクラスメイトに突っかかっていた時期があった。
それをやめさせたのは俺だ。
可愛さ余って憎さ百倍。
俺に向けられる嗜虐心が良歌に向けられることを恐れた俺は、良歌に何があっても他人と喧嘩をしないようにと言い含めた。
おかげで、良歌は駄目な兄を持った美少女妹という立場でいられた。
なのに、
「兄さんは、貴方たちのように外見やラベルで人を判断する人にはない魅力があるんです! 私はそんな兄さんが大好きです! 兄さんは私が守ります。だって世界で一番の兄さんだから!」
良歌は、みんなからの恨みを買うのを承知で言い返してくれた。
その事を嬉しく思ってしまう俺は兄貴失格だなぁと思いながらも、胸の奥で惨めなわだかまりが溶けていくのを感じていた。
「さぁ! 早く私を鑑定してください! 兄さんを守れるようなチート能力を持っているはずですから!」
良歌の予期しない迫力に気圧される生徒たちから踵を返して、良歌は自ら魔法教会の職員の前で仁王立ちになった。
そして、ローブ姿の職員はさっと顔色を変えた。
「イレギュラー……死霊使いです……」
「え?」
良歌のあごがかくんと落ちた。
ベスティエ理事長や他の職員たちが嫌悪の眼差しで数歩後ずさった。
遅れて、クラスメイトたちも一気に下がった。
いつもは良歌をチヤホヤしていた男子たちが、今では良歌を中心に人垣の輪を作っているありさまだ。
おそらくは人生で初めてだろう、周囲から向けられる嫌悪の眼差しを見回しながら、良歌の膝が震えた。
俺は素早く良歌を抱き寄せて、みんなの視線から守るようにかばった。
「はっ、良歌の言う通りだな。いつも良歌に好きだのなんだの言っておきながら、死霊使いってラベルがついた途端それかよ」
腕の中でも何も言わずに身を硬くする良歌。
四面楚歌の状況に怯える良歌の緊張を和らげるように、俺は良歌を抱きしめる腕に力を入れた。
だからこそ、その言葉には驚いた。
「まったくだね」
声に振り返ると、人垣から一人のイケメンが姿を現すところだった。
入宮陽次。
うちのクラスの一軍リア充陽キャで長身イケメンでバスケ部のエースで読モまでやっている。男女問わず生徒たちの中心人物だ。
ただし、女癖の悪さは有名だ。
「死霊使いってようはネクロマンサーだろ? ゲームなら普通普通。安心していいよ良歌ちゃん。オレは別に偏見とかないから。カッコイイじゃん、ダークヒーローみたいで」
下心は丸出しだけど、影響力のあるコイツが弁護してくれるなら乗っかっておくか、一瞬そう考えるも、それは大きな間違いだった。
「良歌ちゃん、オレの女になるなら守ってあげるよ。君の大好きな良治お兄ちゃんと一緒に」
「え?」
まさかの提案に、良歌は身を硬くした。
「オレの魔力強度、7900なんだよね。大国でも上位級って言われたよ。歴史に名前を残すのも夢じゃないって」
調子よく喋る入宮だが、目の奥には汚らわしい欲望が満ちているのが丸わかりだった。
「話は聞かせてもらったけど、君ら2人ともこの世界じゃ差別の対象みたいじゃん。だったら、オレの力が必要なんじゃないかなぁ?」
「お前ふざけるなよ」
「オレは良歌ちゃんに聞いているんだ。保護者面のシスコン兄貴は黙れよ」
「なら私が言ってあげます。私は貴方のモノにはなりません。貴方みたいに、カラダを差し出さないと人助けもできない人に守られたくなんてありません」
「夢見がちだなぁ」
「ッ」
言って、入宮が指を鳴らした途端に良歌が息を詰まらせた。
「良歌!? お前、良歌に何しやがった!」
「オレの力は風だ。手足の延長で空気を動かそうとしたら簡単に真空を作れたよ。まっ、これが初期魔力強度7900のセンスってやつかな」
入宮が自慢げに語る間にも、良歌は首を押えたまま膝を折り、床に倒れ、苦しそうに青ざめながら震えた。
「ッ、良歌! 良歌! おいお前いい加減にしろよ! 冗談じゃすまねぇぞ!」
「冗談はそっちだろ? ここは異世界。こんな危険な力を持った魔法使いがわんさかいる世界で、無力なお前らに何ができるんだよ。逆に、素直に頷けばこの力でお前らを守ってやるって言っているんだ」
「このッ」
吐き出したい悪態を呑み込んで、俺はわき目もふらずに入宮に頭を下げた。
「頼む! 俺はどうなってもいい! お前の舎弟でも奴隷でもなんでもやる! だから良歌にだけは手を出さないでくれ!」
「バカかお前? お前が良歌ちゃんの代わりになるわけないだろ? どんだけ自己評価高いんだよ」
すると、他の生徒たちもくすくすと笑い始めた。
――なんなんだこいつら。入宮は今、クラスメイトを窒息させようとしているんだぞ?
異世界という非日常がそうさせるのか、これも集団ヒステリーの一種なのか、早くもみんなは異質な空気に呑まれているようだった。
「ほらほら良歌ちゃん。我慢しないで頷いちゃいなよぉ」
「良歌! 良歌ぁ!」
何もできない俺は、ただ叫ぶしかなかった。俺も烈風系統が使えるらしいけれど、酸素の送り方なんてわからなかった。
やがて、良歌は動かなくなった。
「良歌ぁああああああああああああああ!」
俺が泣き叫ぶように声を張り上げると、入宮は舌打ちをした。
「たく、強情だな。ほら、空気戻してやるよ。これで喋れるだろ……あれ?」
良歌は動かなかった。
ぐったりとしたままの彼女の手首に手を当てると、俺は心臓が凍り付くような絶望感に打ちのめされた。
「脈が無い……」
入宮たちの口から「え?」という間抜けな声が漏れた。
「てめぇ! ふざけんじゃねぇぞ!」
俺が殺意を込めて怒鳴ると、さしもの入宮も戸惑っていた。
「いや、え、こんな簡単に、人って窒息しても数分なら息吹き返すんじゃ……」
「にい、さん?」
「良歌!?」
傷ついた天使のような肉声に、俺は感動で涙をこぼしそうになった。
良歌は風邪を引いたように弱々しく、だけど確かに目を開けて俺を見つめていた。
「よかった良歌! 生きていたんだな!?」
――でもさっきは確かに、脈の取り方を間違ったのか、いや、そんなことはどうでもいい。とにかく、良歌が生きていてよかった。
「な、なんだよ驚かせるなよ。じゃあ交渉決裂だな、じゃあな」
安堵の息を吐いてから、入宮は逃げるように俺らへ背中を向けた。
他の生徒たちも、無関係を装うように離れていく。
「あのやろうっ……」
確かに良歌は生きていた。でも、入宮が良歌を窒息させようとしたのは確かだ。それも、身勝手な理由で。
元から嫌いな奴ではあったけど、今では全身の血液が熱を帯びるほどの怒りが胸に渦巻いていた。
そこでふと、良歌が自分の両手を見つめているのに気が付いた。
「どうした良歌? だいじょうぶか?」
「え? あ、ああはい私はいつでも大丈夫ですよ。特に今は兄さんの腕の中なので元気百倍です」
いつもの笑顔でニッコリとガッツポーズを取る良歌に違和感を覚えながらも、俺は彼女の無事に胸をなでおろした。
入宮にも、入宮に追従するクラスメイトにも腹は立つ。
けど、今一番大事なのは良歌の安全だ。
余計な復讐心は封印して、俺は良歌に寄り添い続けた。
◆
ほどなくして、ベスティエ理事長が盛り上がるだの盛り下がるだのと言っていた意味がわかった。
「なんとかドラフトオークションの開始には間に合ったな」
俺らが案内されたのは、サッカードームの選手入場口のように長く広い廊下だった。
ベスティエ理事長を先頭に歩き続け、出口が見えるとそこは大歓声渦巻く大舞台だった。
「皆様お待たせいたしました! これより、国際魔法教会主催! ドラフトオークションを開催いたします! 今回も極上の地球人たちをご用意しておりますのでふるってご参加下さいませ! それではまず1人目! 適性は水属性の回復系統! 魔力強度は2000でなんと鑑定スキル持ちの美少女! 朝倉立花17歳です!」
舞台をぐるりと取り囲んだ階段状の円形客席は着飾った貴族風の紳士淑女で埋め尽くされ、皆、地球では見たこともないような容貌をしている。
そんな彼ら彼女らが次々札を上げながら値段を宣言する。
すると、より高い値段を挙げた上位5人の姿が空に映し出された。その横には、簡単な雇用条件が記載されている。
少しして、立花は家族連れの優しそうな紳士を指さした。
「スクアーマ伯爵! 帝国金貨6000枚で落札です!」
これがベスティエの言う【ドラフトオークション】だ。
参加者はオークションのように人材の落札金額を挙げていく。
人材は上位5名の中から希望の人物を指名し、仕官する。
落札金額の9割は魔法教会が貰うが、残り1割は契約金として人材が貰える。
貨幣価値は分からないけれど、会場の白熱ぶりから金貨6000枚がかなりの大金であることがうかがえる。
そうして、同じ学年の修学旅行生たちはみるみる落札されていった。
やがて、オークションの終盤。会場の加熱が収まってきた頃に俺の出番が回ってきた。
「では目玉人材も出そろったところで、ここからは蛇足ですが不良人材を。不良とは言っても地球人。魔力強度は折り紙付き! 本日、目当ての人材を得られなかった方々、是非とも旅の思い出に彼らをどうぞ」
ようするに、オークションの為に用意した金の余りでどうですかというわけだ。
考えてもみれば、目玉商品を最後に出してしまうと、みんな予算を温存するために出し渋る。当然の配慮だろう。
商品の立場で言うのもなんだけど、上手い方法だと思う。
「さて、次は火属性と風属性の適性者で魔力強度は……確か――」
「良歌」
「え? 兄さん?」
良歌の腕を取った俺は、ベスティエ理事長の言葉を遮るように前に出て声を張り上げた。
「俺は神谷良治! 風と火を使う冒涜者だ! 俺を雇う上でひとつ条件がある! 俺を雇うなら死霊使いの妹、神谷良歌も一緒に頼む! それ以外の仕官はお断りだ!」
これは、ドラフトオークションの話を聞いてからずっと考えていた言葉だった。
この世界で異端の死霊使いの汚名をかぶせられた良歌と離れ離れなんて、俺には耐えきれなかった。
もちろん、オークションのルールを無視した突拍子もないことなのはわかっている。
だからこそ、事前に相談はせず、ゲリラ的に行った。
でも、俺に手を取られた良歌は感極まったように瞳を潤ませていた。
「兄さん」
一方で、ベスティエ理事長は眉間にしわを寄せた。
「お前ら、何を勝手なことを……ただでさえお前ら二人は売れるかわからないのにセットだなんて……」
ベスティエ理事長の言う通り、札を挙げる人の姿はなく、むしろ嘲笑や失笑、どよめきが寂しく広がるばかりだった。
「言っておくが、売れ残れば奴隷商人に引き渡すぞ」
その一言で、俺は自分の考えの浅はかさを後悔した。
考えてもみれば、売れ残った俺らをそのまま魔法教会に置いてくれる保証なんてない。
だけど、早まったかと俺がうつむき歯噛みした瞬間、その声は挙がった。
「あの! て、帝国金貨10枚でも、い、いいですかッ?」
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あれ?マッシュルの制服((((((((殴