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静寂の中、私はぽつんと立っていた。
どこか懐かしい空気。
古びた木の匂い。
黒板のチョーク跡。
机のガタつき。
──教室だ。
中学時代に通っていた、あの教室。
ふと、前を見た。
そこに、”あの子”が立っていた。
制服姿の、あの頃の私。
無表情のまま、静かに、じっとこちらを見つめている。
(……これは夢?それとも── 幻覚?)
息を呑んだ。だけど声が出なかった。
次の瞬間──彼女はぽつりと呟いた。
「……ほんとに、それでいいの?」
それは、私自身の声だった。
「誰にも嫌われたくないって思ってたよね。
目立たないように、空気読んで、笑って、あわせて……
でも、ほんとはずっと苦しかったじゃん」
教室の窓から射す光の中で、幻影の”私”が言う。
「……サクラとかさ、カエデとかさ。
友達がさ。ヘンで、ぶっ飛んでて、
でもまっすぐで──羨ましかったよね」
私は、口を閉じたまま、言葉を返せない。
「今でも覚えてる。
『また”いい子ちゃん”モード入ってんな。
そーゆーとこ、嫌いじゃねーけどムカつく』って、
サクラに言われたの」
制服のポケットから、中学生の”私”が取り出したのは──
ボロボロになったノートだった。
中二病まるだしの詩。
落書き。
黒い羽根の落ちる妄想イラスト。
そして、その隅にサクラの走り書きがあった。
【自分で選んだなら、それでいいんじゃね?胸張ってドヤれってのw】
──それを見た瞬間、私は自分の胸に手を当てた。
かすかに、昔の記憶がよみがえる。
「……あんたは我慢できる子だもんね」
母の声。
そう言って、母はいつも笑っていた。
褒められているはずなのに、私はなぜか泣きたくなっていた。
”我慢”が期待されるたびに、泣くことすら許されなくなった。
だから私は、笑うようになった。
仮面をかぶって、演じて──
でも、ほんとは──
”演じなくても笑える自分”になりたかったんだ。
「……私が、信じたもの……」
私が呟くと、過去の私が微笑んだ。
「”演じること”じゃないよ。
”逃げること”でもない。
きっと、私は……ずっと、
”本当の自分”でいたかっただけなんだよ」
その言葉が、頭に響いた。
──過去の私は、ふっと笑って消えた。
*
残されたのは、胸の奥に宿った決意。
教室の扉が、カタンと勝手に開いた。
私は、無意識に扉の外へと歩き出していた。
……気づけば、私は礼拝堂の前に立っていた。
*
街の広場。
カエデとローザが見守ってくれている。
信者たちのざわめき。
空の蒼さ。
すべてが、現実の色をしていた。
そうか。そうだね。
私は、もう──逃げない。
「私はもう、”聖女を演じる”ことはしない」
声に出した瞬間、胸の奥がスッと軽くなった。
「……だって、”ツバキ”として、生きていたいんだ」
「誰かの理想なんていらない。
私は、私のやり方で──誰かを救える人になりたい」
「だからもう、”聖女ツバキ”とは、さよならだ」
声は静かに、しかし確かに空へ響いた。
仮面を外した私は、ようやく”自分”になれた気がした。
……この胸の震えが、偽りではないことを願いながら。
──その瞬間。
沈黙が流れた。
そして──
口からビームが出た。
ビィィィィィイイイイイイイイイィィィィム♡
(な!なんでぇえええええ!?
聖女やめるって言ったのにいいいいいいい!?)
天を裂く閃光が走り、空に巨大な十字架が刻まれた!
風が巻き上がる!
教会の鐘が勝手に鳴り始めた!
信者のろうそくが全部着火し、七色に燃え上がる!
犬と猫が足下に集まってきた!
「ツバキ!?すごーい!わんわん!にゃんにゃん!」
カエデが叫ぶ。
ピョンピョン跳ねている。
「ツバキ様!まさに神の器……!」
ローザが何かをメモしている。
「あばばばばばばばばばばば!?」
私はパニックになった。
ビームが止まらない。
喋れない。
──恐れていた”巨神兵モード”が、覚醒してしまった──!
そして── !
シュンッ……!
空間が収縮した。
ビィィィィィイイイイイィィィム♡♡♡
両目とつむじからもビームが出始めた。
「めぇえええどぉおおあだまぁばばばばばぁあああ!!!」
前も見えない。
喋れない。
頭が熱い。
──そして、神光はさらに──鼻へと迫る!
(あれ?今度は鼻がむずむずしてきた……)
(やだやだやだやだやだーッ!!!
お願いだから鼻からだけは出ないでぇえええええ!!
女の子だからああああああああああ!
絵的にダメぇぇぇぇぇぇ!!)
(くっ……! 思い出せ……カイ様の名言を……!)
『神は言った。「鼻からは出すな」と。──私は、うどんを信じた。』
(うどんが我慢できるなら……光(ビーム)も止まるはずだァァァァッ!!)
──奇跡が起きた。
鼻からビームだけは、かろうじて踏みとどまった。
(っぶ、ぶなぁあああ……っ!
……お嫁にいけなくなるとこだったァァァ!!!)
──だが、その代償は耳にきた。
(……え?ちょっ、なにか耳がピリピリする──まさか……)
ビィィィィィイイイイイイィィィムムム♡♡♡♡♡
はい。耳からビームが出た。
私はここまでのようです。ありがとうございました。
(みぃみぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!?!
聞こえねぇえええええええええええええええええ!!!!!)
──私は人型の十字架になった──
──天の声補足──
ツバキは現在、視界ゼロ、発声不能、聴覚喪失。
よって、ここからは天の声も併用して実況する。
地面に謎の紋章陣が自動刻印され、回転を始めた。
鳥が列を成して飛び、空中に「†」のマークを描く。
花が一斉に開花してツバキの方向を向く。
その中心で──
「あぁぁぁぁぁ……ッ!! 尊い……ッ!
尊すぎて目が潰れるぅぅぅぅ!!」
ローザが膝から崩れ落ちた。
目からは滝のような涙。
呼吸は過呼吸寸前。
彼女は震える手で”極厚の書物”を取り出すと、
地面に叩きつけるように開いた。
「書かねば……ッ!
この奇跡を……一文字たりとも漏らさずにぃぃぃ!!」
「──カメリア聖典 第一五二四章んんんんッ!!!」
ガリガリガリガリガリガリッ!!!!
羽根ペンが折れそうな勢いで、羊皮紙を削っていく。
泣き叫び、鼻水を垂らし、嗚咽を漏らしながら、
彼女は鬼の形相で文字を刻みつけた。
『光を吐くは、偽りなき魂の証左なりッ!
あぁ神よ! 迷いの果てに覚悟せし者こそ!
真に! 真に聖なる器とならんッ!!
汝、カメリアの名のもとに世界を照らせぇぇぇぇ──ッ!!』
「……はぁ、はぁ、はぁ……ッ!
……記録、完了……です……ッ!!」
書き終えたローザは、白目をむいて天を仰いだ。
その顔は、恍惚と狂気の境界線で反復横跳びしていた。
「ツバキの顔がまぶしい!もはや街灯だね!!!!!」
カエデがぴょんぴょん跳ね続けている。
褒めているらしい。
「ひぃゃあああああああぁああああああ!!!」
ツバキの心の叫びが響く。
──すると!
ツバキの背中に天使の羽っぽいエフェクトが出始めた。
(なんか羽ァァァァァァァァァァ!?!?)
しかもその羽、高速で回転している。
「ツバキ!?羽!羽!羽ぇ!!すごい!すごい!すごい!」
カエデがピョンピョン跳ねる。
「ツバキ様ぁああああああああ!?」
ローザが恍惚の表情で腰を抜かした。
──そして、ツバキは宙に浮き、ゆっくりと回転をはじめた。
(私!?飛んだァァァァァァァァァァーーーーー!?!?)
「わー!回ってる!ツバキが!回ってる!私も回るー!!」
カエデが一緒にグルグルし始めた。
カオスである。
「ツバキ様!とうとう神になられたのですね……!」
ローザが気絶した。
(やめてええええええええ!!)
ツバキの心の叫びは、誰にも届かない。
──ツバキの内なる”決意”が、世界の”宗教”を書き換えていく。
*
私の意識が戻ってきた時、私は空中で回転していた。
視界が戻り、音が聞こえ、口が動く。
「……ちょっと待てぇえええええ!
聖女やめたのにぃいいいいいいい!!!」
これが、”私”として覚醒した結果……?
ビーム3WAY覚醒!?
「まって、これ信仰続くやつじゃん!!
やめたのにぃぃぃいいいい!?」
──神は、ツバキに戻るのを否定しているのだ。
それでも、私はツバキでいたい──。
(つづく)
──今週のカイ様語録──
『神は言った。「鼻からは出すな」と。──私は、うどんを信じた。』
(つまり人は鼻から何かを出してはいけない)
解説:
TVアニメ《堕光のカイ》第5067話より抜粋。
異界の審判に挑むカイ様が、五感を封じられながらも
唯一守り抜いた”鼻”と”うどん”への信仰を描く伝説のシーン。
「俺は、もう二度と──鼻に屈しねぇッ!!」
うどんは信仰。すすりは覚悟。
そして、鼻は──聖域。