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水瀬菜音
11,918
#岩本照
絶対辰哉
525
#BL
うさみみ
20
住処へ戻った途端、一枚の羽を前に静寂が降り積もった。
それでも照さんは、その朱と金が入り混じる炎そのものが形を成したかのように美しい羽を、パチパチと燃え盛る焚き火の中へと躊躇うことなく投げ入れる。
「!!照さん…!?」
思わず叫んでしまった僕に、照さんは振り返りもせずにその火を見つめていた。
「いいから見てろ。」
薪が爆ぜる音に紛れて、炎の中に太陽のような眩い光が混じり始めた。熱風が僕の頬を撫でる。次の瞬間、揺らめく火柱を破るようにして、ぽんと飛び出してきた小さな影があった。
そこには見覚えのある──けれど以前よりもずっと小さく、柔らかでふわふわとした羽毛を纏った雛鳥が居た。
地面にちょこんと足をつけると、鳥はくくっと首を傾げ、まんまるい瞳でそわそわと周囲を見回している。その健気な姿に胸を締め付けられ、思わず声を掛けた。
「こう、ちゃん…?」
雛鳥は僕と目が合った瞬間、ビクッと身体を小さく跳ねさせた。弾かれたような勢いで、よちよちと拙い足取りのまま木々の合間へと逃げていってしまう。
『…だれ…?』
樹の裏から聞こえてきたのは、怯えた様子のどこか舌足らずな声。それは、僕が彼と初めて出会ったあの日の声よりも、ずっと幼く聴こえた。
『康二、こっちにおいで。』
木立の奥から、蓮さんの静かで澄んだ声が響く。雛鳥は再び首を傾げ、暫く思案するようにじっとしていたが、意を決したように小さな翼を羽ばたかせた。バタバタとぎこちなく空を舞い、おずおずと降り立ったのは、彼の幼児期にいつもとまっていた、蓮さんの頭上に高く伸びる大きな角の先だった。
雛鳥──こうちゃんは不思議そうに蓮さんを見つめている。けれど蓮さんは、彼と視線を合わせようとはしなかった。すっと静かに目を閉じ、全ての感情を固い扉の奥へと押し殺しているかのような横顔。その切ない美しさに、僕は息を呑むことしかできない。
「佐久間、これ。」
不意に、照さんから一枚の紙を差し出された。受け取り、頭上の月明かりに翳して眺めてみる。そこには、幼い手で書かれた不揃いな文字が並んでいた。
“おんまさん、めめ。
おうかみさん、てるに。
ねこさん、りよたくん。
わんちやん、しよつた。
やさしいひと、だいちやん。
わすれちやだめ。”
ひらがなばかりの文面と、幼児らしい書き間違い。拙いタッチだけれど、特徴は捉えている僕達の絵が添えられている。何度も折り畳まれては開かれたのだろう、紙の端は柔らかく擦り切れ、彼の指の温もりが残っているようだった。
「フェニックスは全身を炎に埋めなくても、身体の一部…たった一枚の羽でも転生できる。俺達が生まれる前も…ずっと一人で生きてきたんだ。だけど康二は転生する度に、名前以外の記憶を全て無くす。それにあの性格だから、最初はいつもあんな感じだ。…毎回涼太が何とかしてくれるんだけどな、」
遠巻きに小さな鳥を見つめる照さんの瞳には、底知れない深い切なさが宿っていた。
無事に戻ってきてくれたことへの大きな安堵。これから先も繰り返されるであろう過酷な宿命を聞かされた胸の痛み。そして、その擦り切れた紙の上に、僕の名前──『だいちやん』の文字が新しく刻まれていること。
僕は、それが何よりも嬉しくて…哀しくて、
「今回からお前がその中に居る。佐久間…お前が康二を安心させてくれないか?お前には分かるだろ。康二は、自分で選んだ相手には直ぐ懐く。」
「…っ…はい…!」
その言葉に様々な想いが一度に押し寄せ、堪えきれなくなった目から、ぽろぽろと涙が溢れ落ちた。
「こうちゃん…これ…見てくれますか。」
僕は溢れる涙を袖で拭い、大切な紙が破れてしまわないよう、そっと両手で掲げて見せた。
すると、蓮さんの角の上にいたこうちゃんがぴくっと反応した。警戒するように首を振るいながらも小さな翼をぴるぴると羽ばたかせ、ふわりと僕の目の前へ舞い降りてくる。
次の瞬間、空中でパチパチッと火花が彼の身体中を弾けた。光が収まった後にぴょんっと現れたのは、僕達が初めて会った時よりもずっと幼い、小さな子どもの姿だった。
「これにはね、ここに居る皆のことが書いてあります。」
目線を合わせるように僕がしゃがみ込むと、こうちゃんは首を傾げ、紙に描かれた絵をじっと覗き込んだ。
「…このおんまさん、いっしょ。」
小さな手で指差したのは、大きな角を持つユニコーンと思われる──蓮さんの絵だ。
「うん、そうですね。ここにはお馬さんのお名前…めめ、と書いてあります。」
「めめ…?」
その名に呼応するように、背後で蓮さんが深く息を吐き、静かに鼻を鳴らした。
「おっきいわんちゃんは…?」
彼の問いに応えるように、照さんがすっと姿を変える。一瞬で目の前に現れた巨大で力強い狼の姿に、
「ふぇっ!?」
こうちゃんは声をあげて驚き、咄嗟に僕の背中へと隠れて服の裾を小さな手でぎゅっと掴んだ。
「こ、こわい…っ!」
「大丈夫ですよ。とっても優しい狼さんです。絶対に噛んだりしないから、ちょっとだけ触ってみて?」
僕が後ろから優しく背中を支えてやると、こうちゃんは片手で僕の服をしっかり握り締めたまま、恐る恐る小さな手を伸ばした。そして、照さんの大きな黒い鼻先にそっと触れる。
「!、ふあふあ…!」
指先に伝わる温かく柔らかい毛並みに、彼の強張っていた表情が柔らかく緩んだ。
「怖いですか?」
「ううん、こわない…かわいい!」
そう呟くや否や、こうちゃんはちっちゃな両腕を目一杯広げて、ぎゅっと照さんのマズルに抱き着いた。
まさかの『かわいい』という評価に、威厳ある大きな狼の姿のまま、照さんは目をぱちぱちさせて完全にフリーズしている。そのシュールで愛らしい光景に、僕の張り詰めていた緊張が一気に吹き飛んだ。
「あっはは!そうでしょう?強くて、カッコよくて、可愛い狼さんです。ここには、てるにい、と書いてます。」
「てるに…じゃあ、このひとのえは…おにいちゃん?」
「はい。だいちゃん、です。」
「だいちゃん!」
僕が柔らかく微笑みかけると、こうちゃんは嬉しそうに何度も頷いた。
「ねこさんとちっちゃいわんちゃんは…?」
その声を聞きつけたように、いつの間にか近付いていた涼太さんと翔太さんが、するりとこうちゃんの両側から身を寄せた。鮮やかな赤毛の涼太さんと、深い青の毛並みを纏った翔太さん。二匹は鼻先を擦り寄せ、彼の小さな頬や手に優しく挨拶をする。
「わぁ…っ!おっきい!」
「ねこさんはりょうたくん、わんちゃんはしょった、ですね。」
「りょうたくん!しょった!」
『お帰り、康二。』
『お前また戻ったのかよー…遊んでやるの大変なんだぞー?』
きゃっきゃと声をあげて目を輝かせ、二匹の贅沢な毛並みを思う存分に撫で回すこうちゃん。僕はその微笑ましい姿を見守りながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じて、ほっと胸を撫で下ろすと同時に、再び涙が込み上げてくる。
その時だった。
楽しそうに二匹と遊んでいたこうちゃんが、ふと顔を上げる。じっと見つめる視線の先には、少し離れた大きな木の根元に静かに立つ、蓮さんの姿があった。
角から彼が離れた瞬間から、蓮さんは一度としてこちらへ歩み寄ろうとはしなかった。ただ静かに、輪から一歩引いた影の中で佇んでいる。
こうちゃんは一旦何かを察知したように首を傾げると、迷いのない足取りでとてとてと蓮さんの元へ歩いていった。
「こうちゃん?」
僕が声をかけるけれど、それすら聞こえていないかのように一直線に進んでいく。誰の誘導でもない。それでも彼は蓮さんの直ぐ目の前まで辿り着くと、蓮さんを仰ぎ見て、尚もじっとその顔を見つめ続けた。
蓮さんは逃げることも拒むこともせず、ただ静かにその視線を受け止めている。
『…どうしたの、康二?』
静かな蓮さんの問いかけに、こうちゃんは直ぐに言葉で返事をしなかった。代わりに、ぐっと小さな両腕を上へと伸ばす。
「めめ、だっこ。」
その無邪気で真っ直ぐな一言に、その場に居た全員の息が止まった。
記憶を全て失った筈の臆病なこうちゃんが、自分から抱っこを強請ったのだ。その姿に蓮さんは一瞬だけ丸く目を見開いたが、
『…うん、おいで。』
次の瞬間には何も言わずに人の姿へと変わり、慣れた手付きで小さな彼の身体を優しく抱き上げた。
「うわぁ…たかい!こうちゃんおっきくなった!」
こうちゃんはまるで最初からそこが自分の帰る場所だと知っていたかのように、安心しきった様子で蓮さんの首へぎゅっと腕を回す。そして、そのしっかりとした肩へ小さな頬を預けた。
「めめ、すき!」
呟かれた言葉は、幼い心から溢れ出た、嘘偽りのない純粋な本音だった。
「………そう?」
蓮さんは短くそう答えると、大きな掌でそっとこうちゃんの背中を撫でた。その声は酷く穏やかで、けれどどこか今にも泣き出しそうに震えて聞こえた。
何故蓮さんの傍がこんなにも落ち着くのか、その理由なんてきっと彼自身にも解っていない。けれどこうちゃんは蓮さんの腕の中で、世界で一番安心したように満足そうに目を細めていた。
二人のその尊くも愛おしい光景を見つめながら、僕は目元を緩ませ、小さく呟く。
「…記憶じゃなくて、心が覚えているのかもしれませんね。」
僕の言葉に、蓮さんは何も答えない。ただ、こうちゃんの小さな体を支える腕の力だけが、二度と解けない魔法を守るように、ほんの少しだけ優しく強くなった。
──その時、二人の特別な距離感を目にして、僕はハッとした。
咄嗟に照さんへと視線を向けると、彼は眉間に深い皺を寄せ、辛そうに肩を上下させている。
照さんは一度だけ、蓮さんの腕の中で安心しきっているこうちゃんの姿をじっと見つめると、静かに口を開いた。
「っ…悪い、俺はもう戻る。明日には、ここに帰ってこれると思うから、」
「照さん、あのっ…、」
僕の言葉は、切羽詰まったように息を整えている照さんの右手で制された。
「悪い佐久間、また来た時に聞く。涼太、翔太、佐久間を送ってくれ。もう遅いから、近くになったら人の姿になれよ。」
『はぁい。』『ん。』
焚き火から暗がりを照らすカンテラを準備し始める涼太さんと、警護するようにそっと僕の足元に寄り添う翔太さん。照さんはそれを見届けると、さっさと背を向け森の更に深い闇の中へと消えていってしまった。
「だいちゃん…ばいばい…?」
蓮さんに抱っこされたまま、寂しそうに眉を八の字にするこうちゃん。
「うん、また直ぐ来ます。こうちゃん、またね?」
「ん…。」
遠慮がちに小さな手を振る彼に、僕も微笑んで手を振り返す。
《行こ?》
涼太さんに静かに促され、僕は照さんが消えていった森の奥を一度だけ振り返り、切なさを胸に抱えたまま帰路へと就いた。
【ひとりぼっちのフェニックス:康二】
生まれてからずっと転生を繰り返し、仲間も居ないまま過ごしてきた。炎と癒しの力を持つ。
擬人化すると基本成人男性の姿だが、転生後2ヶ月程度は雛~小鳥になり、その間は人見知りやビビり、泣き虫。転生後は名前以外の記憶は一切無くなる。擬人化中でも翼を出すことはできるが、成人の姿でないと飛べない。
変化すると、身長分の大きさの鳥。幼児期は雀くらい。
以下、幼児期(小鳥)の康二と蓮のサイズ感
※本当は康二、もう一回りくらいは小さいイメージです。学習的に無理でした()
※画像はAI生成です。
コメント
1件
こ〜ちゃん🧡のキュートさに乾杯🥂 💟めっちゃ押しときました✨ 愛い✨