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「……それじゃあ、今日はそろそろお開きにしようか。長い時間、遅くまでありがとう。また何かあったら烏を飛ばしてね」
「御意」
障子越しに射し込む月明かりはすでに高く、少し肌寒い程の心地よい夜風が夜の深まりを感じさせる。時刻は21時を回り、実に八時間にも及んだ柱合会議がようやく幕を閉じようとしていた。膝を正したままの身体は痺れ、精神的にも疲労を感じられる。
「ふあぁぁ……」
「時透! 眠いなら今日はしっかり寝るといい! 成長期には睡眠は欠かせんからな!」
眠たげに涙目を擦り、大口を開けてあくびを漏らしたのは時透。まだ幼さの残るその仕草に、煉獄が朗らかに声をかけた。
「宇髄。遊郭への潜入任務の進捗はどうだ」
「あー……それがなかなか尻尾を出さないんですよね……巧妙に隠れてやがる。仕方ねぇからこれから嫁を内部に送り込む予定です」
一方悲鳴嶼と宇髄は任務の話をしている。宇髄の普段の派手な口ぶりとは裏腹に、その表情には苦戦を隠せない。悲鳴嶼もまた静かに頷き、困難な任務に立ち向かう宇髄を労うように肩に手をやった。
「そうだ! この前浅草でおしゃれな洋食屋さんを見つけたの! 伊黒さん、一緒に行きましょ!」
「……俺でいいのか? 甘露寺」
「もちろんよ! 私、明後日は任務があるから今週末にでもどうかしら?」
甘露寺が目を輝かせ、手を胸の前で組む。その声音に、伊黒は一瞬だけ鋭さを緩める。彼女を見つめる視線は、昼の裁判の時のようなネチネチして鋭いようなものではなかった。
「お館様。少しよろしいでしょうか」
他の柱も退出する中、久遠院は耀哉に声をかける。
「なんだい? 光継」
「竈門炭治郎なる隊士に仰っていた、珠世なる者のことについてですが」
「……それは内緒。」
ふふ、と耀哉が悪戯っぽく笑う。
「まあ、然るべき時が来たら皆にも教えるよ。今は気にしないでくれ」
「……御意」
耀哉の声色は変わらず柔らかさを纏っているが、その奥に一瞬だけ影のようなものが差した。久遠院は小さく息を呑み、深く頭を下げる。
「それじゃあ私も退出するね。皆お疲れ様。」
「ゆっくりお休みになられてください」
「お館様もお疲れ様でした!」
耀哉が部屋を去り、場の空気が少し緩む。久遠院は何やら考えこんでから胡蝶に声をかけた。
「胡蝶。竈門炭治郎の機能回復訓練が終わったら俺に烏を寄越してくれないか」
「? かしこまりました。何かご用件があるのでしたら私が竈門君に伝えておきましょうか?」
「大丈夫だ」
軽く言葉を交わすと、久遠院はすくっと立ち上がる。
「それじゃあ俺は明日任務に発つのでこれで。煉獄殿、明後日から宜しくお願いします」
「うむ! 久遠院殿は柱に就任してから初の合同任務だな! こちらこそ宜しく頼むぞ!」
久遠院を見送った宇髄は腕を組み、低く呟く。
「……本当にあいつ何者なんだろうな……入隊してから1週間で下弦討伐してさ……しかも黒刀で適正外の呼吸でだぜ? 派手に嫉妬するぜ」
「それに十二鬼月との遭遇率も俺達より断然高い……同じく黒刀と聞いている竈門炭治郎も、先の任務で下弦の伍と遭遇している……黒刀に何か特別な力でもあるのか?」
伊黒も顎に手を添え、眉間に皺を寄せる。
「……そういえば!」
何かを思い出したように煉獄が勢いよく顔を上げた。
「”始まりの呼吸の剣士”は黒刀だったと炎柱の書に書いてあった気がする!!」
「継国の兄弟……の弟でしたっけ?」
胡蝶が目を細めて思案する。
「とっても強かったそうね! 始まりの呼吸そのものは失伝しているんでしたっけ。どんな技だったのか、ロマンがあるわね〜! ワクワクしちゃう!」
甘露寺が弾む声で言い、頬を赤らめた。
「……もしかしたら、その始まりの呼吸に何か強くなる秘訣があるやもしれぬ。皆で手掛かりとなる資料を探そう。次の柱合会議で進捗があったら報告会をするか」
「それなら久遠院にも伝えとかねぇとなァ」
「……お館様にも協力を仰ぐとするか」
「決まりですね! よーし、頑張っちゃうぞ〜!」
それぞれの胸に新たな決意が宿る。場の空気は自然と引き締まり、ほんの数刻前までの疲労が吹き飛んだかのようだった。