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久遠の光

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久遠の光

6 - 陸 邂逅

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2025年10月16日

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 那谷蜘蛛山の任務から、ちょうど一ヶ月が経った頃。蝶屋敷の病室には、微かに鬼避けの藤の花の香りと消毒液の匂いが漂っていた。

 炭治郎は布団の上に背筋を伸ばして座り、手元の新しい刀を磨きながら小さく息を吐く。

「はぁ〜……早く任務に出たいなぁ! 新しい刀も届いたし、訓練でだいぶ体力もついたし」

 その言葉に隣のベッドで跳ね上がったのは善逸だった。目を見開き、両肩を震わせる。

「うっそ!? 炭治郎は鬼怖くねぇの!? 俺は鬼も炭治郎も怖ぇよ!!」

 善逸の声が病室に突き抜ける。炭治郎は苦笑しつつ、刀を鞘に納めた。

「うーん……怖いといえば怖いけど、禰󠄀豆子が鬼にされたあの日より怖いことはないからな」

 善逸は口を開きかけて、俯き、肩をすくめた。

「あー……まあ炭治郎の場合はそっか……」

 はぁ、と長いため息。善逸は膝を抱え込むようにして蚊の鳴くような声でこぼす。

「俺さ、ちっちゃい時から怖がりなんだよな。怪談なんて聞いた日には夜1人で厠に行けなくなるし。鬼殺隊でこの先やっていけるか不安だよ〜……」

 炭治郎は真剣にその横顔を見つめ、きっぱりと断言した。

「大丈夫だ善逸! 善逸は強い。この先、もっと強い鬼が出ても善逸ならきっと倒せる!」

 それは善逸とずっと任務を共にしてきた炭治郎だからこその説得力のある言葉だった。

「たんじろぉぉぉ〜〜〜!」

 感極まったように飛びついて啜り泣く善逸。炭治郎はやれやれ、と微笑んでその頭を撫でる。

そのとき、病室の扉が控えめにノックされた。

「竈門君〜来客ですよ〜」

 胡蝶しのぶの穏やかな声が響く。

「えっ、しのぶさん?」

「来客って誰だろ。どうぞ〜」

 扉が静かに開かれる。差し込む光を背にして現れた人影に、炭治郎と善逸は同時に息を呑んだ。

六尺を超える身長、鍛え抜かれた体躯。赤みを帯びた長髪は艶を放ち、足元には磨き込まれたいかにも高級そうな西洋靴。立っているだけで病室の空気が一段張り詰める。

 その圧に、善逸が絶叫した。

「ヒイイイ!?!? でっか!?でっか!?!?」

 そして内心でもパニックに陥っていた。

(なんだこいつ!?音が全くしてなかったんですけど!?なんだこいつ怖っ!!!!)

「あ、あなたは確か……」

 炭治郎が恐る恐る口を開く。柱合会議で一度だけ目にした、新しい柱。

「ああ。1ヶ月振りか? 君と会うのは。改めて自己紹介をしよう。私は久遠院光継という」

 名乗る声は淡々としているのに、ひとつひとつの音が重い。炭治郎の背に張り付いたままガクガク震える善逸が、驚愕に目を見開き問いただす。

「えぇ!? 久遠院って!! お前こいつと知り合いなの!? あの1ヶ月足らずで柱になった天才と!?!?」

「え、あ、まあうんそうだけど……」

 気圧される炭治郎。

 見かねた胡蝶しのぶが善逸をずるずると引き剥がす。

「久遠院様は竈門君に用事があるんでしたよね! それでは善逸君と私は医務室にに移動しておきます!! 何かありましたらお申し付けください! ごゆっくりどうぞ!!」

「いやちょっと待ってくださいまだ炭治郎に聞きたいことがあまって強いこの人離す気ない怖い炭治郎助けて」

 イヤ゛ァァァァァァァァ! という善逸の情けなく汚い高音を最後に、扉がぴしゃりと閉じられる。炭治郎と久遠院が残された病室は、急に空気が静まり返った。

「あ、すみませんうるさくて……」

「いや、構わん」

 久遠院は一歩近づき、炭治郎のベッド横に置かれた椅子に腰を下ろす。床板が微かにきしむ音だけでも緊張が走る。炭治郎は思わず息を飲み込んだ。

「……それで、久遠院さんはなんで俺を訪ねてくださったんですか?」

「では早速本題に入るとするか。竈門炭治郎、君に聞きたいことがある。質問は3つ」

 重厚な声に、炭治郎は思わず背筋を正す。額に冷や汗がにじみ出す。

 久遠院の瞳が、炭治郎を真っ直ぐ射抜いた。その眼差しは炎のような灼熱さと氷のような冷徹さを併せ持っていた。

「……質問は3つ」

低く響く声に、炭治郎の胸がぎゅっと締めつけられる。

「1つ目。その耳飾りはどこで入手したか。2つ目。珠世という人物とどこで知り合ったか。」

 耳飾り、そして珠世の名。炭治郎の脳裏に、浅草での出会いや、愈史郎に言われた「決して外部に漏らすな」という忠告がよぎり、背筋に冷たい汗が一筋伝う。

(なぜ……久遠院さんが珠世さんの名を……? お館様も知っているようだったけど……軽々しく話していいことじゃない。俺が口を滑らせたら、珠世さんや愈史郎君を危険に晒すかもしれない!)

「そして3つ目。那谷蜘蛛山の任務でお前は、誰も見たことがない技を使って下弦の伍を追い詰めたと聞いている。その技とは、自分で編み出したものなのか、それとも何か土台があって出したのか」

「……」

 張り詰めた空気。けたたましく鳴いているはずの蝉の鳴き声は心臓の音で掻き消され、炭治郎の心の余裕は皆無だった。外界と隔絶されたような静寂の中で、炭治郎はゆっくりと口を開く。

「……1つ目の質問ですが、この耳飾りは俺の父親から譲り受けた物です。俺の家では代々、後継へこの耳飾りを受け継いでいくことになっています。俺の父親は早くに病気で亡くなったため、俺がつけています」

「その起源は」

 久遠院の問いは淡々としているのに、刃のような鋭さを帯びている。炭治郎はわずかに息を整え、慎重に言葉を選んだ。

「3つ目の質問に繋がることなので後でお話しさせていただいてよろしいでしょうか」

「ああ」

 久遠院は小さく頷く。表情は動かないが、その沈黙の奥にある冷ややかさを感じ炭治郎の気を更に張り詰めさせる。

「2つ目。珠世さんとは浅草で出会いました。そこで、鬼を人に戻す薬の開発を頼んでいます」

「そうか」

 頷いた久遠院の瞳に、わずかに影が落ちる。炭治郎は口から心臓が飛び出そうになっていたがなんとか抑え、言葉を続ける。

「そして3つ目の質問ですが、俺が使ったのは『ヒノカミ神楽』という、これもまた俺の家で代々継がれてきた儀式で使う神楽です」

「……ほう? 仔細は教えてくれるか」

 その瞬間、久遠院の雰囲気が微かに揺れた。予想していた答えと違ったのか、あるいは想像通りだったのか炭治郎には判らない。

 炭治郎は息を呑み、正直に語り始める。

「はい。その儀式というのは、毎年正月に当主が『ヒノカミ神楽』を一日中舞うというものです。大昔に先祖が化け物に襲われた際、『ヒノカミ様』が現れて対魔の神楽を舞ってくださり、化け物を退治されたんだとか……」

 久遠院の気配は相変わらず変わらない。炭治郎は上官の圧を感じながらも必死に話を続けた。

「それから先祖の前で神楽を披露してくださって、見様見真似で伝承されてきたのが『ヒノカミ神楽』です。また、『ヒノカミ様』は先祖に魔除けのお守りとしてこの耳飾りを授けてくださって……修理しつつ、ずっと受け継がれてきたって感じですかね」

「……そうか」

 久遠院は椅子から立ち上がった。その動作に、炭治郎は無意識に体を強張らせる。

 瞳が細められ、その奥に赫灼たる炎がちらつく。何かやってしまったのか?返答を間違えたのか?と酷く焦るが続く言葉に意表を突かれた。

「炭治郎、ついてこい」

「……はい?」

 炭治郎の気の抜けた声が病室に響いた。

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