「女子同士だし、触るぐらい、いいですよ。減るもんじゃないし」
言ったあと、私は春日さんの手首を掴み、パフッと胸を触らせた。
「わーお! ……も、揉むからね?」
「よりおっさん臭い」
エミリさんは深い溜め息をつき、春日さんに胸を揉まれている私の写真を撮る。
「柔らかい~。フカフカ! 包まれたい……」
春日さんが私の胸元に顔を近づけた時、まるでベリッと引き剥がすようにエミリさんが彼女の肩を引いた。
「はい、酔っ払いそこまで。今の、とりあえず尊さんに送っておいたから」
「わーっ!」
とんでもない事を聞き、私は悲鳴を上げる。
あわあわとしてスマホを手にとり、メッセージアプリを開いたけれど、尊さんの反応はない。
それでもジッと画面を見て待っていると、春日さんが覗き込んできた。
「浮気バレ、何か言われた?」
「何も。…………逆にこの沈黙が怖いです」
そのあともしばらく尊さんからのメッセージを待っていたけれど、彼の連絡はなかった。
「すぐにカッとなって怒らないのは、ポイント高いわね」
春日さんは感心したように言い、私から離れてチーズを口に放り込む。
「尊さんは誰よりも大人ですよ」
私はワインをチビッと飲み、スナック菓子に手を伸ばす。今夜は時間を気にせず食べると決めた。
「…………まー、彼の事情を思うと、怜香さんを陥れるまでずっと我慢して待っていたのは、確かに大人かもね」
春日さんはそもそもの出会いを思いだし、脚を組んで赤ワインを飲む。
「……その件は今プロの方々が動いていて、いずれ法的な罰がくだされると思います。これでケリがついたと思っているので、私はこれから彼のパートナーとして、つらい事を忘れられるぐらい、幸せにできたらなって思っています」
そう言うと、エミリさんは微笑んで頷き、無言で私に向かってワイングラスを掲げた。
「彼、好条件のスパダリかもだけど、闇が深いでしょ。それを受け入れられる朱里さんは、懐の深い、いい女だと思うわ」
先ほどのおっさんを完全に引っ込めた春日さんが、微笑んで私の背中を叩く。
「ありがとうございます。……でも、褒めてもらえるほど人ができてるわけじゃないです。友達はほぼいないし、学生時代は人を避けていた暗い子供だったので」
「友達が多くて、性格が明るい人が偉いわけじゃないわよ? 条件を満たしていても、ヤバイ奴は大勢いるから」
エミリさんはそう言ってカラリと笑う。
「皆いろいろあるのよ。私、金持ちの娘で苦労知らずって思われがちだけど、フツーに悩みがあるもの。誰だって苦労してるの。それを人に見せるか見せないかだけ」
春日さんが言い、私はこの際だからと挙手して質問した。
「ストレス溜まったらどうしてます?」
「んー、ジム行ってひたすら体動かして、キックボクシングで殴る蹴るやってるわね。声上げて『畜生!』って言ってるけど、そしたら『負けて堪るもんか』って精神がつくのよ」
「すっご! ストイック!」
私はとっさに声を上げ、彼女の体をまじまじと見る。
「……だからそんなにスリムで、スタイルいいんですね……」
私は無意識に自分のお腹に触り、尊さんに評価されているそこをムニムニと揉む。
「割れてるわよ。見る?」
春日さんはペロンとパジャマの上を捲り、腹筋の縦線が入った素晴らしいお腹を見せてくれた。
「すごーい!」
私はパチパチと拍手をし、素晴らしいボディに見入る。
彼女はパジャマを戻してから、ソファの上で胡座をかいてキャビアとクリームチーズの載ったカナッペを食べた。
「私、創業者一族の娘だし、管理職だし、『女のくせに』って言われ続けてストレス溜まってるのよ。悔しいから文句を言われないように、バリバリ仕事をこなして稼いでるけど。ミスしたら男性がした時以上に文句を言われるから、なるべくミスしないようにチェックの鬼になってるわ」
「カッコイイ!」
エミリさんが声を上げ、パンパンと拍手する。
けれど春日さんは浮かない顔だ。
「……でも、どこに行っても〝女〟で〝お嬢さん〟なのよ。女扱いされるのが嫌なわけじゃない。美人だとか綺麗とか、お金持ちって言われるのも、それなりに気分がいいわ。SNSで見栄張ってるぐらいだしね」
そう言って彼女は自嘲する。
「仕事で稼ぐ他にも、投資もやってるの。お金はバブちゃんにならないから好き」
そこでさっきのバブちゃんが戻り、思わず「ぶふっ」と吹きだしてしまう。
コメント
1件
デキる女、春日姉…ちょっとホレルわ(笑)🤭💕