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第1話:はじめてのログイン
「名前だけでいいんだって。超ラクじゃん」
教室の窓際、制服のリボンをゆるく結んだユリナが、スマホを片手に笑った。
彼女の目元には薄くピンクのアイシャドウ。髪は肩下のセミロングで、いつも前髪をちょっとだけ斜めに流している。
その隣にいたわかばは、黒髪でボブ気味のショートカット。目はぱっちりしてるけど、眉の形が少し不安げだった。
「名前だけでログインって……それ、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ〜。みんなやってるし。ポイント貯まるし、文とか写真あげるだけで、百円とかなるし」
その言葉に背中を押されるようにして、わかばもスマホを取り出した。
名前を入力するだけで、ほんとうに登録が終わった。
その日の夜、はじめて書いたレビューが「今日のおすすめランキング」に載っていた。
シャンプーの使い心地を素直に書いただけだったのに、コメントが6件もついている。
「ほんとだ、すごい……」
画面を見ながら、思わず声が漏れた。
──それから2年。
高校に上がり、ふとしたときに昔のアカウントを検索してみた。
そこには、あのときと同じプロフィール画像。
名前もそのまま、「わかば」。
けれど、投稿数が“67件”になっていた。
わかばは、5件しか書いていないはずだった。
中身を開くと、どれも自分が言いそうな文章だった。
「このリップ、学校用にぴったり」「ペンのインクが好きなタイプだった」
……だけど、知らない。
「……え?これ、私……?」
画面の右下に、小さく「本日もご利用ありがとうございます」の表示。
その言葉が、静かに喉の奥で詰まった。
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