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ステアリングを握りながら、純は恵菜とのドライブデートを振り返っていた。
(彼女……今日も…………すげぇ可愛かったな…………)
ほぼ一日中、恵菜と過ごして、純は、ますます彼女への想いを募らせている。
彼が以前から気になっていた、恵菜の言葉を濁した理由も分かった。
彼女が、新たな恋愛に対し、臆病になっている事が分かったのは大きい。
雄大な海を眺めながら、純は『恵菜さんの全てを受け止めて守ってくれる男が、きっといる。いや、絶対にいるから』と言った時、想いを告げようか、かなり迷った。
──彼女を笑顔にできるのは、俺しかいない。
そう思い、口にしたのだ。
想いを伝えなかったお陰で、彼女に対する気持ちが、クッキリとした輪郭で浮かび上がった事。
──彼女を…………俺のものにしたい。俺だけの女にしたい。
手を繋いだ時の、彼女の温もり。
ゆっくりと花を開かせるような、可憐な微笑み。
時折、覗かせた、憂いを帯びた瞳の色。
海辺を歩いている時、何度、彼女を抱きしめたいと思った事か。
それほど、純は彼女への想いを焦がしている。
彼が、また会いたいって言った時、彼女は断らなかったから、純に対して否定的な気持ちはないだろう。
むしろ、彼女もまた一緒に出掛けたい、と答える代わりに、ぜひ、と言いながら柔らかな笑顔を見せてくれた。
交差点で赤信号に引っ掛かると、純はゆっくりとブレーキを踏み、車を停止させる。
誰もいない寂しくなった助手席を見やりながら、人生で初めて愛おしいと感じる女を想った。
「恵菜…………」
いつか、彼女を特別な呼び方ができる日を信じて、純はポツリと彼女の名前を唇から零す。
信号が青に変わり、純は前方を見据えると、アクセルを踏み込み、漆黒の闇の中へ走り抜けていった。