「まぁったく。力任せに叩きつけやがって……というよりもここのドワーフたちの水準がいまコレと言うことかも知れんな」
「どのみち子どもにやらせるにはそれ用に道具がないと話にはならん。これまでの自分では無理だときちんと認識するにはちょうどよかったのだろうな」
そんな会話のなされている側で俺は相棒を抱き抱えてないた。男泣きに泣いた。
「いや、おもちゃ壊れて泣いてるガキンチョだろよ」
「これは、父ちゃんが初めて俺に仕事について来てもいいって言って買ってくれたツルハシなんだ! 男泣きなんだ!」
これは本当に大事なんだよ。初めての思い出のツルハシ。
それがこんな……。
「じゃあ、どうするよ? ダリルぅ」
「ツルハシ、作るしかあるまい」
おや? なんだかこれは、もしかして?
「ツルハシ作ってくれるの⁉︎ やったー!」
新しい相棒がやって来る。こんなに嬉しいことは父ちゃんの回復の次くらいだ。
「男泣き、ねぇ」
バルゾイおじさんが呆れてるけど、気にしない。子どもなんだもん。
「で、なんで海?」
俺はパンツに浮き輪、ゴーグルとシュノーケルというやつを渡された完全装備で浜辺にいる。
「お前にはそこの磯へ回り込んでこれくらいの二枚貝をこの籠一杯に集めてきてもらう。これはツルハシ作りに大事なことなんだ」
そう言ってダリルお兄ちゃんは手で形を作って貝の大きさを説明している。
わざわざ街を越えて反対側の西の海まできて磯の貝拾い。よく分からないけど、子どもの俺は考えず仕方なく泳ぎ磯の海底にある二枚貝をとりにいく。水が冷たい。しょっぱくて、打ち寄せる波に押されてゆらゆらして楽しいけど仕事だからっ!
海の中を覗くと魚達がたくさんいる。海藻は揺らめき、目当ての二枚貝もたくさんだ。あのトゲトゲした丸いのはなんだろう。イカもいる。あそこにはエビだ。市場でしか見たことない生き物たちの生きて泳いでいる姿は新鮮だ。仕事してるだけだから! 周辺の危険がないか調べてるだけだから!
けっこう時間掛かったけど、これはたくさん貝を取ってたから仕方ないのだ! 既に夕日が海を綺麗に染めていても、仕事だから! 頭についた海藻を払いながら浜辺に戻っていく。
「楽しかったか?」
「うん! いっぱい魚がいて綺麗だったよ!」
いま俺たちは浜辺で火を起こして、網の上で貝とイカとエビを焼いて食べている。全部俺のとってきたやつだ。
「まさかこんなにとってくるたぁ、ずいぶんと楽しんだようだなあ、わっはっはっ」
バルゾイおじさんは酒まで飲んでいる。
俺の顔が赤く見えるかもだけど、夕日と焚き火のせいだから。エビが美味しい。
既に夕日も沈んで、満天の星と焚き火が俺たちを照らすなか穏やかな時間が流れる。焚き火の火を見てると心が落ち着くのは何故なんだろう。バルゾイおじさんも焚き火を眺めて嬉しそうにしている。
「この世界には今も昔も魔力が満ちている。その使い方を皆が忘れてずいぶん経つがな。それでも世界は使い方を忘れていない。特にこんな新月の夜にはそれが顕著に現れる」
ダリルにいちゃんの1人語り。なんの話だろう。
「魔獣はこの土地ではその数を多くはできない。今はそうなっている。だから特に魔力が高まるその時、現れる。ここに奴らのエサがあるぞとこれ見よがしにしてれば、向こうからやってきてな。探す手間が省けるってものだ」
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