テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「それ完全にザリガメだよな!? マジか!」
幼なじみが、鼻息を荒くして捲し立てた。
「……やっぱり居るんだ? ザリガメ」
べつの幼なじみが、彼女にしては珍しく、おどおどした声で言った。
「モッチーちゃん、どう思う?」
「え?」
どうしてあの時、私に話を振ったのだろうかと、幼なじみの心の内をよくよく吟味する。
友達内で、特にリーダー格を気取っていたつもりはないし、その資質もない。
恐らく、情熱が人一倍だったのかも。
私は、ザリガメの正体を何がなんでも知りたかった。
警察まで動き出した以上、これはもう並みの事態ではない。
ひとり歩きを始めた噂話が、市民の生活を圧迫しつつある。
こうなると、もはや嘘から出たまこと。
“もしかすると、いるのかも知れない”
その程度に感じていたザリガメの存在が、いまや確信に変わりつつある。
あの貯水池には、きっと信じられないような生物が棲んでいて、隙あらば人間を引きずり込もうと狙っている。
それなりの義勇心はあった。
また、おもしろ半分に噂を流布させた者として、幼気な責任感もあった。
話し合いの結果、“ザリガメ調査隊”が発足したのは、その日の夕刻のことだった。
まず、私たちが手始めに行ったことは、周辺住民に対する聞き取り調査。
真実を模索する上で、もっとも重要なのは情報の良し悪しだろう。
無視のできない事柄と、話半分に止めるべき事柄。
状況に依らず、これらを精査する眼が大切なのである。
しかしそれとて、雑多なピースが集まらないことには始まらない。
それにはまず、自分の足に頼ることが肝要である。
自分の目で見て、耳で聴いて、少しずつピースを埋めてゆく。
祖父の教えだ。
「幸ちゃん、なにそれ?」
「お? 武器だよ武器!」
とにもかくにも、子どもは何事にも形から入る。
数名の男子は、嬉しそうにエアガンなどを装備して、映画やアニメに出てくるヒーローになりきっていた。
かく言う私の得物は、メモ帳にペン。 それに、年季の入ったMFカメラだ。
有象無象が犇めく知識の大海で、唯一の後ろ盾となるものと言えば、紛うことなき“証拠”である。
往々にして、真実とはありふれた事物の中にこそ潜んでいる。
どんな些細なことも、見落としてはいけない。
これもまた、小さい頃から散々にも聞かされた祖父の教えに沿うものだった。
「あ! 先生のお孫さん? 今日はどうしたの?」
聞き取り調査は、思っていたより順調に運んだ。
これは、ひとえに実家の体面によるところが大きく。 祖父に対する敬愛が増したのを、よく覚えている。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!