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東白砂地区は、“都会田舎”という高羽の印象に、もっとも迫真する地域である。
新興の住宅地があれば、古今に渡る旧家もある。
コンビニが乱立しているかと思えば、いまだに現役の田畑が機能している。
アスファルトを踏む足が、いつの間にか土の道を踏んでいる。
そういった、どことなく長閑な地域内に、魔の貯水池はあるわけだ。
充分な聞き取り調査が終われば、あとはフィールドワーク。 実地調査あるのみだった。
お盆まえ。 本年の夏も、いよいよ佳境を迎えようかという頃。
私たちは、件の場所へ向かうことにした。
“たこやき公園”というのは、あくま俗称である。
正式な名称こそ失念してしまったのだけど、たこ焼きの形をした滑り台があって、そんな風に呼ばれていたと記憶している。
園内には、他にもいくつか遊具が設置されており、一般的な公衆施設として、その面目を保っていた。
公園の北側には、自治会館の建物が隣接している。
「もう無いね?」
「ん? なにが?」
「ほら、立ち入り禁止の。 こういう──」
「テープだろ? 黄色いヤツ!」
「そうそう!」
出入り口は、北側に二ヶ所。 南側に一ヶ所のみ。
この内、自治会館から通じる北西の出入り口を利用して、いざ公園内へ。
入ってすぐ、右手にイチョウの木立があって、ちょっとした林道を形作っている。
それは、園外の畦道へ通じており、つまりは件の貯水池に向かう際の、唯一の接続口だった。
「よし! 行く? 行こっか?」
「おう!!!」
幼なじみが、彼にしては珍しく上擦った声で吼えた。
余程に緊張しているらしく、いつもの軽妙な雰囲気は微塵も感じられない。
「モッチーちゃん、本当に大丈夫かな……?」
「ん。 危なくなったら、すぐ逃げよう」
他の面子も、かたい表情で林の向こうを見つめている。
なにがあっても不思議じゃない。
ふと違和感を知って、近場のイチョウに目を留める。
よく肥えた幹の中ほどに、立派な風体の小刀が、ひっそり閑と突き立っていた。
まるで、己の縄張りを示す標章のように。
いま思えば、まったくゾッとしない絵面であるが、その時の私たちはなぜか気にも留めなかった。
あれはある種の呪いであり、そういうものなのだと、当事者の口から説明を受けたのは、いま現在こうして筆を取る私からすると、たった数日前の出来事である。
あの日から数年、そのお呪いとやらがようやく効力を失ったのか。あるいは私が大人になったのか。
その辺りの事情は、考えるだけ野暮のような気さえする。