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「次から次に死にやがって、次は誰だ!? いつになったら食事ができる! 第一、救助隊はなにをしてるんだ!!」

「孝太さん落ち着いてちょうだい、人が死ぬのは誰の責任でもないでしょう……!? それに救助だってきっと、もうすぐ……!」


きっとこの言葉はただの願望だ。雨はまだ続いているんだから、三科家の手前にある集落の救助が始まったかも分からない。

空腹がイライラをつれてくる。そのイライラが、俺たちをさらにイライラさせた。

もう聞きたくない、黙ってほしい、自分だけが我慢してると思うな、大人なのにそんなことも分かんないのか。

ふざけんなよ。部外者の俺だって我慢してるのに。

ここまで書いたとき、大輔さんがふらりと立ち上がった。


「──三人の遺体を、焼いてくるよ」


しんとした。


動き出した大輔さんを誰もが、なにを言っているのか分からないって顔で見上げた。


「じゃあ、僕も」


口を開いたのは賢人さんだったけど、大輔さんはそれに笑って首を振った。


「はは。……賢人は座敷わらしについて調べるのを最優先にしてくれ。とにかく焼いてしまわないと──いつまでも、食事ができない。倉庫には薪も、バーベキュー用の炭も入っていたはずだ。きっとひどい臭いになるだろうから、みんな外に出ないようにな」


水の入ったペットボトル、新聞紙、ライターを鞄に詰め、大輔さんがフラフラと出ていく。それを見送って、茜さんは再び布団に引き籠もった優斗に寄り添っていた。

また、部屋の中が静かになる。


「……大丈夫、きっともう、誰も死なないわ。あの子たちはしきたりを破ったから──座敷わらしさまが罰を下されたのよ。きっとそうよ。だってしきたりを守ろうとしていた父さんたちだけが連れて行かれるなんて、ねぇ。道理に合わない、じゃないの」


座り込んだ孝太さんの頭を抱きしめ、桜さんは子どもをあやすように話しかけている。

本当に、そうだろうか。もちろんそうならいい。そうならいいけど。

また、一日が始まる。食事のとれない一日だ。

きっと今日は昨日よりも精神的にキツい一日になる。そう思ったときだ。


「明治三年十月、三科家で乾物みたいな死体が出た──?」


賢人さんの声が聞こえた。


三科家、乾物、死体。


まるでさっき見た死体そのものだ。

みんな俺と同じことを思ったんだろう。バタバタと音を立て、全員が賢人さんの手元を覗き込んだ。

だけど目に映るのはうねうねとのたうったような文字ばかりだ。全体的に繋げて書かれているせいで、一文字それっぽいものを探すだけで精一杯なのが情けない。

きょろきょろと目を動かしていることに気づいてくれたのか、優斗さんが紙面をなぞりながら話してくれる。


「明治三年神無月。三科某の家に、乾物に覚えしけやけき死体見つけられき。──」


スラスラと読み上げてくれたけど、ほとんど意味が分からない。言葉の感じからして国語……古典で習う文章みたいだ。ずらずらと長いだけで、日本語とも思えない。

ただその読み上げる最後辺りで、座敷わらしという言葉だけがはっきり聞き取れた。


「座敷わらし? 座敷わらしと言ったか、賢人。明治の文章なら俺たちには古文みたいなもんだ、理解ができない。すまんがもう少し砕いて教えてくれるか?」


孝太さんは武さんほど、賢人さんを見下してはいないらしい。賢人さんを馬鹿にせず、素直に頼ることができる人なのだと驚いた。それとも武さんが賢人さんをあんなに嫌っていたのは、やっぱりお母さんのことがあったからなんだろうか。

賢人さんはしばらく考えたあと、今度は俺たちに分かる言葉で説明してくれた。


「明治三年の十月、三科某(なにがし)の家で乾物に似た異様な死体が発見された。奥座敷にある隠し扉の向こう、およそ二畳ほどの空間で発見されたものだ。壁一面が爪で掻かれ、恨み言が書かれたノートと筆入れが置かれているという状況に、捜査員の中にも怖がる者がいたらしい。その後、三科の人間が次々と怪死を遂げ、残ったのは十歳と三歳の男児だけだった。この二人は当主の妹夫妻に引き取られ、元服後に三科家を継ぐ予定だという。三科家は座敷わらしの住む家として噂されていたが、この異様な死体が座敷わらしの正体ではないかと新たな噂が広がっている。──新聞の内容をそのまま書き写したものみたいだ」


「干物みたいな死体がうちの家で発見された? 子どもだけ残してみんな死んだなんて、そんな話聞いたことないぞ……!」

「それに、なんでこんな死体が座敷わらしだなんて思われたの? 座敷わらしって、普通もっと可愛いものじゃ……」

「姉さんの思う座敷わらしがどんなものかは分からないけど……座敷わらしやその類型には諸説あるよ。河童が家に憑いたものだとか、赤く染まった熊の毛を被ってるとか」

「河童? 赤い熊の毛!? そんな」

「あとは奥座敷に住んでいるとか、座敷わらしが出て行った家は没落するとか。──確かに、この話から読み取れる情報と近いものがある気がするね」

「……死体っていうのは?」

「間引かれた子どもが座敷わらしになるという一説がある」


ゾッとした。

だったら、だったら本当にその死体が、三科家で祀られている座敷わらしの正体なんだろうか。だとしたらそんな気持ちの悪いものを、この家は。

でもふと気になった。


「待って賢人さん。家族が一気に死んだのは座敷わらしが三科家から出て行ったからなんでしょ? だけど今も三科家は座敷わらしを祀ってるし、豊かなままだ。……出て行って、ないよね?」

座敷わらしの標(しるし)

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一族のためとはいえなんと惨い… でも核心に近づいてきてる!

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