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丁寧な礼をしながらペトラの前を辞したラマスとカタボラは、質素な小屋の入り口で帰還を告げると筵(むしろ)を吊るしただけのそこから内部に足を踏み入れるのであった。
「うわぁ!」
『ンガッ?』
目を見張りながら驚きの声を上げたラマスに対して、白竜のカタボラは何がなんだか判らない、そんな不思議そうな声を上げる。
ラマスの驚きの理由、それはそうだろう、つい先程、自分のスリーマンセルを迎えに出掛ける前と小屋の内部、レイアウトが一変していたのだから。
然程(さほど)時間は経過していない筈である、一体どんな風にすればこんな真似が実現可能なのだろうか?
そんな事を考えながら大きな瞳をパチクリしていると、横合いからレイブが声を掛けてくる。
「おかえりラマス、それにカタボラだよね、俺がレイブだよ、よろしくね! 急ごしらえで適当だけどさ、君たちの暮らす場所を準備したんだよ、とは言っても仕切りは筵をぶら下げただけなんだけどね…… これから少しづつ最低限のプライバシーを守れるように直していくからさ、取り敢えずはコレで辛抱してよ、ね?」
レイブの言葉の通り、ラマスの目前に広がった小屋の内部は、共有部である水瓶や竈(かまど)等の部分を除いて、吊り下げられた筵(むしろ)によってキッチリと二分割されていたのである。
下げられた筵の足元でギレスラが長い首を伸ばしながら呟いている。
『高さはレイブ一人半…… 長さはレイブ三人分、に首二つ分か…… 壁以外にも扉もいるであろう、なぁ……』
採寸中らしい。
どうやらラマスのプライバシー保護の為に壁や扉まで作る気らしい事が窺えた。
つい先程、出掛ける前にはだだっ広い空間に過ぎなかった小屋の中は、今や二間となり、2K、いいや共有部の広さも鑑(かんが)みれば2LDKっぽくリフォームがなされていたのである。
とは言え、この観察にお付き合い頂いている皆さんが想像する2LDKとはやはり違うものだ。
具体的に言うと、浴室、バスルームなんて小洒落たスペースなんてある訳が無かった。
まあ、強いて言えば代替えの設備も無い事は無い。
多少強引、いいや多大に無理やりでは有るだろうが、小屋の隅に並べて置かれている二つの素焼きの壷がソレ、だと思われる。
ソレ等は揃って満々と清浄な水が湛えられて居り、自分と同様に生活魔法を使う事が出来ないラマスに対するレイブの思いやりが感じられる、そんな気もする。
やや大きめの壷の横にはそこらの植物の繊維か何かだろう、無骨ながら丁寧に編み上げた布的なボロが掛けられていて、こちらが皆さんで言う所のバスルームやシャワー室なんじゃあなかろうか? 恐らくだが……
もう一つの小ぶりな壷には、竹っぽい筒に適当な枝を差し込んである、一見柄杓(ひしゃく)っぽい道具が置かれている。
多分だが、レイブなりの水飲み場、若しくはウォーターサーバー代わりだろうと思われた。
コレさえあれば夜中なんかに有る、不意な渇きにも即座に対応できる、そんな至れり尽くせりな設備だと言えるだろう。
余談かもしれないがこの小屋の中に雪隠(せっちん)、お手洗い、トイレの類は存在していない。
お花を摘む場所は外に出て、小屋の裏手に掘られた穴なのである、ワイルド且つナチュラルスティックな赴き溢れたアウトドアライクと言う事が出来るのでは無いだろうか?