それから一ヶ月の月日が経った。
優羽は山荘の仕事が休みの日には岳大の事務所へ行き事務仕事を手伝っていた。
二月に入るといよいよショップオープンに向けての動きが本格化する。
優羽は岳大とのキスの事は一旦忘れ、目の前の仕事に全力投球する。
優羽が出勤する日は必ず井上もいるのであれから岳大と二人きりになる事はなかった。
岳大の引っ越しの片付けが一段落した頃事務所で簡単なパーティーを開いた。
事務所のメンバーに加えて井上の妻、山岸夫妻、流星、そして優羽の裕樹と舞子も加わりささやかな宴が開かれた。
井上は移住を機に恋人と入籍をしたので皆で二人を祝った。
そしてその日流星は岳大に再会した。
岳大に会えた流星は大喜びだった。宴の間中岳大の膝の上から離れない。
そして二階の部屋が見たいと岳大の手を引き二階へ上がって行く。二人はしばらく二階で遊んだ後下へ戻って来た。
その時の流星の満足そうな顔を思い浮かべると優羽は今でも笑ってしまう。
店舗オープンに向けてのアルバイト募集もいよいよ始まった。
募集をかけた途端沢山の応募が殺到した。応募者の履歴書をひとつひとつチェックしていくのも優羽の仕事だ。
応募者の中にはスキーやスノーボードのインストラクターや本格的な登山を趣味とする人が多い。専門知識が既に備わっているので貴重な戦力だ。
また応募者の中には岳大のファンも数多くいた。
店のオープンは5月の半ばなので、その前後一ヶ月は山岸の計らいで優羽は山荘の仕事を休ませてもらえる事になった。
その期間優羽は採用したスタッフに対し接客業の基本的研修を行なう予定だ。以前アパレルにいた時の知識がまさかここで役立つとは優羽も思ってもいなかった。
そしてこの日も優羽は事務所へ出勤していた。事務所では岳大と井上が既に仕事を始めている。
優羽は早速採用に応募してきた人達の履歴書に目を通す。そして面接をする人を選別していった。
応募してきた人達の年代は下は高校生から、そして上は40代の主婦までとなっている。
面接は遠方に住んでいる人に対してはリモート、近くにいる人には直接会って面接する。
優羽は履歴書の応募動機から趣味の欄まで丁寧に目を通してから既定の人数まで絞り込んだ。
今回はオープニングスタッフという事もありホームページから募集をかけたので優羽が一人一人直接対応しているが、今後はバイト募集サイトや職安を利用する事になるだろう。だからこの大変な作業は今回のみだ。
面接候補者が決まると優羽は履歴書をまとめて岳大のデスクまで持って行った。
「ありがとう。あ、面接には井上君と優羽さんにも立ち合ってもらうからね」
「了解でーす」
「わかりました」
そこで井上が言った。
「それはそうと今日の昼飯どうしますか? まだ少し早いけれどなんか買って来ましょうか?」
「出前でも取る?」
岳大は大きく伸びをしながら言った。
優羽が窓の外を見ると昨夜から降り続いた雪がかなり積もっている。この分だと頼んでも出前が来るまでにかなり時間がかかりそうだ。
そこで優羽が言った。
「何か作りましょうか?」
それにすぐ井上が反応する。
「わぉっ! じゃあ僕はオムライスがいいなーこの前の凄く美味しかったから」
井上が子供みたいに言ったので優羽はクスクス笑いながら、
「わかりました。お米研いできますね」
優羽はキッチンへ向かった。
優羽が米を研ぎ始めると岳大がコーヒーのおかわりを取りに来る。
「いつもありがとう」
「いえいえ、まかないつきのお仕事なんてこちらこそありがたいです」
優羽は無邪気に笑う。その笑顔を岳大が穏やかに見つめていた。
キッチンに立つ二人の距離は近かった。優羽が大きく息を吸い込むと岳大の香りが鼻をくすぐる。
こうしてここに並んでいるとついあの日の事を思い出してしまう。お互い口には出さないが心の中では同じ情景を思い浮かべていた。
正午になると三人はテーブルを囲み優羽が作ったオムライスとサラダを食べながらいよいよオープン間近の店の話題で盛り上がった。
窓の外にはしんしんと雪が降り積もっていた。
コメント
2件
なんてったって流星考え岳大さんの事が大好き😍これが1番大きいよねー!岳大さんも大好きだし相思相愛👍 一段落したら2人も大きく変わるだろうな💕
優羽ちゃんも採用担当も兼ねて面接する人を選別する仕事も大変だー💦でも以前のアパレルの仕事が活かせてショップの仕事に誇りを持って働いてくれるスタッフを選ぶのは優羽ちゃんも嬉しいハズ😊✨ 移住パーティーも皆さん楽しそうでようやく岳大さんも優羽ちゃんとの将来の決意を伝える時がキターーーかな⁉️🤭🎉