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以前『兎の憑依』について小話をしたのだが、あの後現在飼っている黒兎はすっかり本調子で元気を取り戻し、夫はその憑依事件があった翌週実家から白兎の御骨を引き取ってきた。
黒兎に憑依してアピールした件はあれで終わったのだが、その後私だけ体験している奇妙な事がある。
白兎の御骨を置いているのは私達の寝室の隣、衣装部屋で、直射日光を避けた比較的明るく日当たりも良い場所なのだが、私1人でその部屋にいる時にそれは起こる。
例えば片手に洗濯から取り込んだ娘の服を持っていたとする。
いつもの作業とはいえ、誰の服でトップスなのかボトムスなのか、など一応確認はしっかりしてから取り込むものなのだが、いつものように乾いた娘のトップスを娘のハンガーラックに掛けようとして、全然違う夫のパンツだと気付く。
自分自身でも目を疑った。素材も大きさも全く違う物にすり替わっている。
一度手に取って娘のトップスだと確認してから持ち出しているのも間違いない。
ぼーっとしていた訳でもなければ、その時は療養期間として仕事も休んでいて、疲れも取れてそんな不注意は他にしていない。
最初こそ、アホな間違え方をした自分に笑ったが、その翌日再び同じ事が起きた。
今度は自分の水色のデニムと、夫の緑のボトムスにすり替わっていた。色も形も全く違う。
そしてその2日後。
衣装部屋で衣替えをしていたら、娘の衣類を手にして畳んでいたのに、いつの間にか夫のTシャツを掴んでいた。
更に週末。出掛けようとして、衣装部屋からブーツを引っ張り出し、玄関でサイズを確認してちゃんと自分のブーツを履いたはずなのに、外に出たら何だかサイズが大きい気がして、再確認したらなんと夫のブーツだった。
この時はたまたまお揃いのブーツだった為、まあ見間違いだと思ったのだが、首を傾げてしまった。玄関で確かに左右どちらもMサイズとこの目で見たのに。
この時点で5回は手にした物がすり替わっていて、思い返せば何故かいつも衣装部屋にあるものが、夫の物とすり替わっている事に気が付いた。
そして物がすり替わる時、下の方からなんだか視線を感じる。肉眼で姿は視えないが、なんとなく白兎がこちらを見上げているような気がする。
ーーーという話を夫にしてみた。
「……そっちの狐勢(夫には5匹の狐が憑いている)、最近ふざけて化かしてる?」
最後にそう締めくくると、憑依していた狐が数匹反応した。
「そんな低レベルな化かし方せんやろ!」
「狐が何でもかんでも化かすと思わないで!」
「雪ちゃんを化かして私らに何の得があるの」
「……そうだよねぇ……」
夫に憑いている狐勢は、本体はとある大きな神社に祀られているので、低級な動物霊ではない。所謂『神狐』とかそういう呼ばれ方をする類のものだ。
正直何のメリットも無い事は、おふざけでやったりしないと分かっていたが、流石に兎が化かすとは聞いた事がない。
もしかしたら狐や狸が出来るなら、兎だって死後は化かす事も出来るのかもしれないけれど。
釈然としないまま少し日を改めて、買い出しの時に再び野菜コーナーにて足元から『ニンジン!ニンジン!』と脳裏に直接インスピレーションを受け、下を見やるとやはり白兎がいた。
そこでふと、約束していたニンジンをまだお供えしていない事に気付く。
今までに何度か同じインスピレーションを感じたが、何せ物価も値上がりしていて最寄りのスーパーは野菜が高い。
カレーやシチューでもしない限り、わざわざ高価なニンジンは買わなかった。
あぁ~、もしかしてそのアピールかぁ……と思いつつ物は試しで買ってみた。
帰宅して早速1本御骨の傍に添えてあげると、足元の白兎はピョンピョン飛び跳ねながら、何だか満足げな表情だった。
お供えした物は不思議とあげたい相手にちゃんと届くようで、仏壇を媒体にして奥にニンジンを凄まじい勢いで齧る白兎が視えた。
生きているうちに直接あげたかったなぁ……などと思っていると、いつの間にか再び移動してきた白兎が私の脛に額を押し当てていた。
頭を押し当てたまま静止し、ちょっと下がっては再び頭を脛にコツンと押し当てる。何度か繰り返しているのが可愛い。
伝わってくるのは「ニンジン!ニンジン!!」だけだったが、この子なりの「ありがとう」のアピールなのだろうか。もしかしたら「もっとくれ!」かもしれない。
やはり兎は生死を問わず、存在そのものが可愛い。
あれから数日様子を見てから執筆しているのだが、不思議な事にその日を境に、衣装部屋にある物と手元の物がすり替わる事はなくなった。
やっぱり物を化かしてアピールしていた犯人は、時折足元で満足げな表情で私を見上げている小さな白いふわふわの塊で間違いなかったようだ。
それにしても、飼い主だった夫の物とすり替えて自身の存在をアピールするとは、実に頭の良い子である。