テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日の会議室前。扉の向こうから、カイル殿下と高官たちの声が漏れてきた。
「貧民にパンを与えても、明日にはまた腹を空かせるだけ。底の抜けた桶に水を注ぐようなもの……」
沈滞した空気を切り裂くように、私はヒールを鳴らして扉を蹴破らんばかりの勢いで入室した。
視線が突き刺さる中、私は一直線に殿下の元へ歩み寄り、脇に抱えていた分厚い資料の束を、机にドサッ!!! と叩きつけた。
「ソフィア……? 何だその書類の山は」
「事業計画書でございますわ。……まずはこちらの試算表をご覧になって?」
私は図解入りの資料を広げた。
「――初期投資額、3000万ルク。これで半年後に1億ルクの税収を叩き出してみせますわ」
会議室がしんと静まり返る。
「3000万で1億だと……!? 救済活動でそんな利益が出るはずが……」
高官たちがざわつく。
「ターゲットはスラムの人口の2割である2000人。彼らを一ヶ月で、実戦的な事務(簿記)のスペシャリストとして育成するのです」
私はペンを指し棒代わりに、数字の羅列を叩きつけた。
「見込み平均月収は、この国の平均、10万ルク。2000人が働けば、月間総所得は2億。所得税10%を徴収すれば毎月2000万ルクの税収……。実働5ヶ月間で、合計は1億ルク!」
(……そしてその1割、1000万ルクをコンサル料としていただくってことよ♡。昨夜の過剰労働(エッチ)分、きっちり取り返してやるわ!)
驚愕する一同を尻目に、私はさらにギルドから取り寄せた『求人未充足リスト』を突きつけた。
「皆様、首都の企業は悲鳴を上げていますわ。事務を担う没落貴族たちは、高い給与を要求するくせに、まともに仕事が出来ない。……これこそが、この国の経済を停滞させている『人材のミスマッチ』ですわ!」
不敵に微笑む私に、高官たちが息を呑む。
「私が育てる2000人は、『実力』を武器にする集団。彼らを適正価格で供給すれば、企業は息を吹き返し、法人税収も跳ね上がりますわ。……これほど利回りの良い投資(救済)が、他にございまして?」
殿下は、資料の数字を指でなぞり、真剣な眼差しを私に向けた。
「……2000人を、わずか1ヶ月で。……そして半年で、投資額の3倍を国に還元するだと……? ソフィア、お前は……この国を救うどころか、国家経済の基盤を根底から作り直そうというのだな……!」
「殿下。私、教育こそが最大の投資だと考えておりますの。子供は国の宝。彼らに『教育』を与えれば、犯罪は減り、税収は増える。この『循環型予算モデル』こそが、私流の救済でございますわ」
「……なんて民を想う慈悲深いお方だ……」
「あまりに深い慈愛……。己の無能さが恥ずかしい……!」
高齢の高官たちが、ボロボロと涙を流している。
「この計画、全面的に採用しよう。予算は即座に実行する!」
(よし! コンサル料ゲット!)
《……ああ、ソフィア。お前はなんて理知的で民想いなのだ……!》
彼の瞳には、キラキラとしたエフェクトがかかっていたが、私の目には、背後に積み上がった金貨の山の幻影が、黄金の輝きを放って見えていた。
感激する殿下を適当にあしらいながら、私は勝利を確信した。
88
#ワンナイトラブ
こうして、史上稀に見る「悪女によるスラム再生プロジェクト」が幕を開けたのである。