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「いやはや、タマもめでたく虎になって。守近《もりちか》様のお屋敷は、いつ来ても、いいネタがありますなぁ」
では、これにて、と、身勝手極まる現れ方をしていた、公達《きんだち》──、秋時《あきとき》は、守恵子《もりえこ》の房《へや》を去ろうとする。
「ちょっとまったあ!!」
守満《もりみつ》、常春《つねはる》、上野が、揃って声を挙げた。
「秋時、まさか、このまま帰るつもりではないだろうな?」
「守満様。その、まさかを、行う男でございますよ!」
「えぇ、どなたに似たのか、本当に、ペラペラペラペラと、誰にでも、何でも喋る男ですからね。タマの事も、直ぐに、都中《みやこじゅう》に、広まることでしょう。違いますか!秋時っ!」
三人がかりで、鬼の形相を向けられた秋時は、まさか、そんな、ははは、と、ひきつった笑みを浮かべて、
「もう、みっちーに、長良兄《ながらにい》さん、おまけに、紗奈《さな》ちゃま、まで。何故に、秋時をいじめるのですか?」
などと、しおらしく、のたまわった。
「あー!また!何が、みっちーです!守満様でしょうがっ!」
すっくと立ち上がった、上野が、飛びかからん勢いで、秋時に、牙を剥く。
「あー、別に、タマを虎に変えなかくてもよかったなぁ」
ポツリと呟く晴康《はるやす》に、秋時は、助けを求めるかのように、寄り添って、ですよねー、と、同意するが、とたんに、ウゲッと、喉を絞ったような声を挙げた。
「うーん、とは言うものの。おや、タマのご機嫌が悪いようですよ?秋時様?」
言う晴康は、秋時の首根っこを掴んでいる。
「晴康殿、ちょっと、ちょっと」
秋時は、訳が分からないと焦った。
しかも、おとなしく、几帳の裏に控えていたはずの、タマが、のそりのそりと、秋時に、近づいて来ている。
タマ、とは言え、前にいるのは、虎。秋時は、ひいいいーと、大きく悲鳴を挙げた。
「ほお、勝手に、噂してくれるな……、この、ふらち者めが。と、言う事ですか」
秋時を望むタマは、晴康の言葉を受け、ワン!と、鳴いた。
「ワンって!!」
守満、常春、上野は、またまた、揃って声を挙げる。
「あら、どうして、驚くの?タマは、もともと、犬ですもの。ワンって、鳴きますわよ?」
「いやー!守ちゃんは、器が大きい!さすが、入内しようかというだけあるわっ!」
秋時が、口走った一言が、場の空気を凍りつかせた。
「……タマ、構いません、この、ふらち者を喰っておしまいなさい」
晴康の冷たい言葉を受け、タマも、キリッと顔を引き締める。
「とは、言うものの、守恵子様の御膳で、流血騒ぎも、なんですねえ。そうそう、秋時様、今程、おっしゃった事、聞かせて頂きましょうか?」
秋時は、はい、と小さく答えた。