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月白
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#コメディ時々暗闇
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
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プロローグ 「――魔法少女とは、人類が到達した『希望』の究極形である」
自室の机に向かい、僕は真顔でそう呟いた。
視線の先に広がるのは、棚一面に並べられたフィギュア、設定資料集、そして整然と保管されたBlu-rayのコレクション。
フリルとレースが可憐に躍るシルクの衣装。
夜空の星を閉じ込めたようにきらめくステッキ。
どれほど絶望的な事態に直面しても諦めず、その愛らしい笑顔と直向きな心で世界を照らし、すべてを包み込む絶対的な美学――。
「いいか……魔法少女の本質は、単なる『可愛さ』なんかじゃない。傷つきながらも他者のために立ち上がり、その可憐な姿で人々に笑顔を取り戻す圧倒的な肯定力なんだ。男だろうが何だろうが、そんな美しく気高い存在に憧れて何が悪いって言うんだ」
誰に聞かせるでもなく、熱弁を振るう。言葉に熱がこもるたび、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
僕は本気だった。もしも万に一つ、自分に「魔法の才能」なんてものが眠っているのなら、いつか僕もあの光の中に立ちたい。可憐で、優しく、世界を救う魔法少女になりたい――そう、本気で夢見ていたのだ。
あんなカサカサ音を立てる黒い塊と出会う、その瞬間までは。
◇
それは、放課後の帰り道、神社裏の古い森を通りかかった時のことだった。
不気味な紫色の歪みが空間に走り、そこから見たこともない醜悪な怪物が這い出てきた。息が止まり、足がすくむ。テレビやニュースで見る「魔法災害」が、目の前で現実として弾けた瞬間だった。
恐怖で泣きそうになりながら逃げ出そうとしたその時、足元に『それ』が転がってきたのだ。
ツヤツヤと妖しく光る漆黒の甲殻。
立派に伸びた一本の角。
どこからどう見ても、一匹の大きなカブトムシだった。
(カ、カブトムシ……!? なんでこんなところに……ううん、違う! これはもしかして……!)
僕の脳内に、電撃のような閃きが走った。
物語の王道だ。危機に瀕した主人公の前に突如として現れる、愛らしく喋る謎の生物。
「契約して魔法少女になって!」と可愛らしい声で囁き、僕に光のステッキを授けてくれる聖なる使い魔(マスコット)――!
「つ、使い魔さん……!? 僕を、僕を魔法少女にしてくれるの!?」
僕は感涙にむせびながら、両手で恭しくそのカブトムシを拾い上げた。
その瞬間、カブトムシの頭部がぐにりと動き、僕の顔をじっと見つめてきた。
期待に胸を膨らませ、目を輝かせる僕。
ついに奇跡が起きる。憧れ続けたあの光の世界へ行けるんだ――!
カブトムシはゆるやかに角を揺らすと、小さく口を開いた。
『……あ? なんだお前。目ぇキラキラさせてキモいんだよ。手ぇ放せボケ』
「……え?」
聞き間違いだろうか。
可愛らしいマスコット特有の、語尾に「〜プニ」とか「〜キュン」とかつくようなハイトーンボイスではない。
耳に飛び込んできたのは、酒と煙草を吸い潰したような、やたらと渋く不機嫌なダミ声だった。
「いま……なんて……?」
『聞こえなかったのか? 鬱陶しいから触るなって言ってんだよ、童貞。それと俺は使い魔じゃねぇ。“甲殻系魔法触媒”のカブー様だ。口の聞き方に気をつけろ』
「ど、童……!? 触媒……!?」
頭が真っ白になった。
想像していた「フワフワした喋るマスコット」との違いすぎる現実に脳の処理が追いつかない。
だが、事態は僕の混乱を待ってはくれなかった。追撃するように、怪物の爪が僕たちに向かって振り下ろされる!
『チッ、命が惜しけりゃ腹括れや! 俺の角を掴んで『変身』って叫べ! 早くしろ!』
「ひ、ひえええっ!? 変身! 変身しますっ! 輝け、愛と希望の魔法少女――!!」
僕は必死の思いでカブー(?)の角を固く握りしめ、長年温めていた最高の決め台詞を叫んだ。
全身を包み込む、猛烈な魔法の光。
浮遊感。溢れ出す魔力。
(ああ……! ついに……ついに僕の夢が……!!)
光が収まり、激しい衝撃とともに僕は地面へ着地した。
全身を包む謎の感覚。重み。
重力そのものが自分を軸にして歪んでいるような、圧倒的な戦慄。
僕は震える手で、自分の胸元を触った。
フリルはあるか? リボンは? ひらひらとしたスカートの感触は――?
「……あれ?」
手触りが、おかしい。
フワフワした布の感触などどこにもない。
手に触れたのは、冷たく、重厚で、恐ろしいほど硬質な**金属と複合装甲の感触**だった。
『おーおー、ピッタリじゃねえか。変身完了だな』
カブーの声が、僕の右肩あたりから響く。見れば、カブトムシの姿をしたまま、僕の肩パーツにガチリとアタッチメントのように固定されていた。
『重力偏位型・格闘装甲。識別名【魔道士カブト】。……くくっ、どこをどう見たら魔法少女なんだか。鏡見て泣くなよ、ボウズ』
「か、鏡……?」
恐る恐る、近くにあったビルのショウウィンドウに視線をやる。
そこに映っていたのは――
漆黒とダークスチールで全身を頑強に固め、鋭く輝く複眼バイザーをギラつかせた、どう見ても悪を徹底的に粉砕するためだけに作られた漆黒の仮面ライダー風ヒーローの姿だった。
「………………」
あまりの衝撃に、言葉が出ない。
フリルはない。ステッキもない。可憐さなんて微粒子レベルでも存在しない。あるのは、男心を無駄に刺激するゴツくてスタイリッシュな重装甲だけだ。
「な……なんで……? 僕の……僕のフリルは……魔法少女のステッキはどこ……?」
『ハッ、お前みたいな重苦しい妄想こじらせた奴に、可愛いフリルが似合うわけねぇだろ。お前の魔力はな、重くドロドロしてんだよ。重力魔法の使い手がフワフワ舞おうなんて百年早いわ!』
「そんな……そんなのアリかよぉぉぉぉぉ受け入れられないよ僕の憧れを返してくれぇぇぇ!!」
『うるせえ叫ぶな! 敵が来てんだよ! 泣いてる暇があったらその重力で潰せ!!』
憧れの魔法少女への一歩を踏み出したはずの僕の日は、こうして人生最大の絶望と不条理とともに、最悪のスタートを切ったのだった。
コメント
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あらら…!笑いながらも、主人公の気持ちを思うとちょっと切なくなりました。フリルとステッキを夢見ていたのに、まさかの重装甲&ダミ声カブトムシ!「重力魔法の使い手がフワフワ舞おうなんて百年早い」のツッコミが痛快すぎます。でも、不本意ながらも変身して戦う姿に、これからの“魔法少女(?)道”が楽しみになりました。次も読みたいです!