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月白
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#コメディ時々暗闇
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
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◇「――つーか、拝んでる暇があったら前見ろアホ!!」
カブーの怒号と同時に、鼓膜を破るような咆哮が響いた。
振り返った視線の先――ショウウィンドウの反射に絶望していた僕の目前に、異形の巨大な爪が迫っていた。
紫色の怪異。空間の裂け目から現れたそいつは、家一軒ぶんほどもある巨体と、ヤツメウナギのような不気味な口を蠢かせている。
逃げなきゃ。死ぬ。そう頭では理解しているのに、初めて直面する本物の死の恐怖に、足がすくんで動かない。
(あ、ダメだ……僕、死ぬんだ……憧れの魔法少女にもなれないまま、こんなところで……!)
『チッ、使えねぇ男だな! 呼吸止めんな、魔力を足の裏に流し込め!』
右肩に固定されたカブーの角が、カチリと音を立てて発光した。
『重力場展開! ――喰らいやがれ!』
**ドゴォンッ!!!!**
直後、僕の身体を殴りつけたのは、攻撃の衝撃ではなかった。
怪物の爪が僕の胸元――漆黒の胸部装甲に触れた瞬間、空間そのものがぐにゃりと歪んだのだ。
僕を中心に発生した超高重力の渦が、怪物の振り下ろした腕の運動エネルギーをそのまま反転、巨大なベクトルとなって怪物自身へと叩き返される。
「ギャオオンッ!?」
凄まじい破壊音とともに、怪物の巨腕が骨折どころではない角度でへし折れ、その巨体が自らの攻撃の反動で後方へ吹き飛んだ。
地面を激しく滑り、街路樹をなぎ倒して倒れ込む怪物。
「え……? あ、あれ……?」
僕は呆然と自分の手を見た。
殴っていない。蹴ってもいない。ただそこに立っていただけだ。
それなのに、目の前の巨獣が勝手に自滅している。
『へっ、見たかボケ。これが【魔道士カブト】の基本戦術――“重力反射(ヴェクター・カウンター)”だ。お前がヘタレて棒立ちになってても、触れた攻撃は全部その質量の倍になって相手に返る』
「な、なんだよそれ……めちゃくちゃエグいじゃないか! 魔法少女はもっとこう、ステッキから光のバリアを出して『みんなを守るよ!』みたいなのだよ!? こんな、相手の力を利用して地味に自滅させるなんて、可愛さの欠片もないよ!」
『うるせえな! 命拾いしておいて文句言うな! ほら起き上がってきたぞ、とどめ刺せ!』
倒れていた怪物が、激怒の咆哮をあげながら立ち上がる。へし折れた腕をそのままに、今度は口から紫色の高熱光線を放とうと顎を開いた。
「ひえっ……! 攻撃が来る! カブー、バリアは!? 光の盾とか出ないの!?」
『ねぇよそんなもん! 飛び跳ねろ!』
「飛び跳ねろって、こんな重い鎧着て……」
言われるがままに地面を蹴った、その瞬間。
**ふわり**。
全身を縛り付けていた強烈な「重さ」が、嘘のように消え去った。
「――え?」
視界が跳ね上がる。
アスファルトの地面が急速に遠ざかり、僕は一瞬でビルの屋上よりも高い上空へと躍り出ていた。
風を切る音。目の前に広がる、夕焼けに染まる街並み。
『無重力制御(グラビティ・ゼロ)だ。お前の魔力が続く限り、自身の重力を相殺して滞空できる』
「す、すごい……! 飛んでる……僕、空を飛んでる……!」
風をはらみ、空中を軽やかに舞う感覚。
全身を覆うのは黒くゴツい装甲だが、この高空を自在に泳ぐ浮遊感だけは、僕がずっと幼い頃から夢に見ていた「魔法少女の姿」そのものだった。
「カブー……! これだよ! これなら……これならちょっとだけ魔法少女っぽいじゃないか!」
感動のあまり目頭が熱くなる。
黒いバイザーの奥で涙ぐむ僕に、右肩の毒舌虫は冷ややかすぎる声を浴びせた。
『あー……言っとくがな太一。そのモード、魔力消費がアホみたいに激しい燃費最悪モードだ。調子乗ってると――』
「行くぞカブー! 空中からの華麗なる一撃だ! プリティ・グラビティ・ドロップ――!」
『人の話を聞けアホ!! もう魔力残量ギリギリだっつったろ!!』
**ピピピピピッ!**
「え?」
次の瞬間、全身の装甲から警告音が鳴り響き、足元を支えていた浮遊感がプツリと途絶えた。
「あ」
『言わんこっちゃねぇえええええ!!』
**ドッシーン!!!!**
無重力が解除された反動と地球の重力が一気に襲いかかり、僕はビル群の真ん中で、文字通り「ただの鉄の塊」となって真っ逆さまに落下。
怪物の目の前のアスファルトへ、見事な頭突きダイブをかます羽目になったのだった。
◇
「……痛たた……死ぬ……頭が割れる……」
地面にめり込んだ頭を引き抜き、泥と瓦礫だらけになりながら這い上がる。
幸い、頑丈すぎる【魔道士カブト】の装甲のおかげで生身は無傷だったが、精神的なダメージが限界突破していた。
「なんなんだよもう……憧れの魔法少女になれたと思ったら、見た目は仮面ライダーだし、戦い方は地味なカウンターだし、空飛んだら燃費切れで落ちるし……っ!」
『文句は一人前に言うなぁボウズ。だが、まあ……」
カブーが肩の上で、少しだけ呆れたように角を鳴らした。
『度胸だけは認めてやるよ。あの状況で逃げずに変身しやがった。……一応、怪物は自滅して消滅したみたいだしな』
見やると、落下してきた僕の衝撃(と、僕に触れた瞬間に発動した重力反発)に巻き込まれた怪物は、影も形もなく消滅していた。
初陣は、あまりにも格好悪い「落下自滅巻き込み勝利」という最悪の結末だった。
変身を解除すると、光とともに黒い装甲が消え、いつもの制服姿に戻る。
手元には、相変わらず不機嫌そうな顔をした一匹の黒いカブトムシ。
「……はあ。これから僕、どうなっちゃうんだろう……」
夕暮れの街で、僕は力なくその場に座り込んだ。
こんな姿、魔法少女オタクのルカに見られたらなんて言われるか。
それに、ルミナス庁とかいう怪しい組織の監査官(さっきカブーが言っていた霧島さんとかいう人)に見つかったら、即座に連行されるんじゃないだろうか。
「魔法少女になりたい人生だった……」
『まだ言ってんのか。諦めろ、お前の現実はこれだ。……おい、帰るぞ太一。腹減った。ゼリー奢れ』
「使い魔のくせにエラそうに言うな! カブトムシなんだから樹液でも吸ってろ!」
不本意極まりない相棒との、噛み合わない喧嘩。
理想と現実の狭間で頭を抱える僕の、重苦しくて全然可憐じゃない「魔法使い」としての戦いは、こうして最悪の形で開幕したのだった。
コメント
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うわあ、第2話もめちゃくちゃ面白かったです!重力反射と無重力制御、能力の設定がしっかりしててカッコいいのに、肝心の主人公は燃費無視で空中からドーンって落下して自滅巻き込み勝利…そのギャップに笑いました(笑)。カブーの毒舌と太一の「魔法少女に憧れてたのに!」というツッコミの掛け合いが絶妙で、シリアスになりそうな場面も程よくコミカルに保たれてるのが良いですね。それに、ルミナス庁とか霧島さんとか、今後の伏線もちらり。次が気になります!