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ルーニーとベルッティが報じた住宅倒壊事件の影響は大きかった。


調べるまでもないことだが、倒壊したブロキオン住宅街の建物はどれも似通っていて、建てたのも補修工事をしたのも、同じ大工連中。


ともなれば。


この悲劇を生んだのは家を建てたブロクス組の奴らだ。


そう思うのも無理はない。


人生で初めて新聞に触れたバカな読者は正義に駆られ、暴徒となってブロクス親方の家を襲撃したのだ。


情報が溢れる現代ですら、ニュースを鵜呑みにし、勝手な正義感で問題を起こす者がいるのだ。


当然の結果である。


ブロクス家は元々屈強な男達の巣窟だったため怪我人だけで済んだが、この事件にぞっとした商人たちは多いだろう。


醜聞を書かれれば、怒り狂った民衆が押し寄せてくるかもしれないのだ。


しかも、おそろしいことに帝都の人々は好奇心が旺盛だ。

不当な行為で金を稼ぐ悪い商人が新聞に晒されるのを今か今かと待っている。


そこにゴシップの甘い蜜をちょっと垂らしてやるだけで、人々は熱狂し、簡単に暴徒と化す。


ちょろい。

実にちょろいと言えよう。


店を破壊されることに気を回して用心棒代わりに冒険者を雇ったバカがいるようだが、そんなことは無意味だ。


一度悪行を書かれればそれが真実であろうがなかろうが、手ひどい嫌がらせを受けることになる。場合によっては自殺するまで追い込むバカも出るだろう。


これは認識の呪いだ。

一度張られたレッテルは、人生を蝕む呪いとなるのだ。


とはいえ。

バカばかりではない。


ここに来てようやく情報の危険性に気づいたのだろう、オレに貢ぎ物を持って媚びへつらう奴らが増えた。


帝国は早馬を出して、皇帝のお触れを新聞にして欲しいと言いだした。


クク、笑いが止まらん。

政治、宗教に次ぐ、第三の権力がこの世界に生まれたのだ。


オレが奴隷魔法を世に広めた時と同じだ。

新たな概念は多くの幸福と悲劇を生み出し、世界を変えてしまうだろう。


そうだ。

これこそが正しい世界だ。


みんな幸せになれるなんて、甘っちょろい言葉は大嘘だ。


人間とは数多の犠牲を出しながら、うねりを上げて前進を続ける怪物であり。


血の犠牲の上にこそ、豊かな人生があるのだ!


新たな夜明けを前にして、清々しい気分になる。


やはり、人間はいいな。


「つまり、ゼゲルの両親もまた極悪人だったというわけですか」

「なるほど。ありがとうございます」


急遽設えた応接室でルーニーとベルッティが来客をもてなしていた。

今回の手柄はあの二人のものだろう。


それにしても、情報とは不思議なものだ。

必死になって探しても見つからなかったのに、今では向こうからやってくる。


アーカード総合印刷所の壁には『情報提供者求む。あなたも新聞に載るかも!?』なる張り紙が貼られていた。


新聞に名前が載る、たった数文字だけ名前が載る……かもしれない。

それだけで人々が走り回り、勝手に情報を集めてくれている。


これはルーニーのアイディアだ。

あいつも人の欲というものがわかってきたらしい。


ベルッティも凄まじい速さで対人スキルを獲得しているし、オレの両腕として名を馳せる日も近いだろう。


実にいい傾向だ。


「あー、くそ。また捏造野郎かよ」


ベルッティがうなだれる。

新聞に載りたいだけのバカが増えた結果、偽の情報提供が増大したのだ。


「でも、これでいくらでも記事が書けるね」


いい笑顔だ、ルーニー。

商人らしくなってきたな。


もはやこうなれば、何が真実かなど誰も判断できないだろう。

書いた者勝ちだ。


というか、こうした情報提供があったと書くだけだから。本当に嘘ではない。


それに、もし情報が嘘でも問題ない。

情報提供者の名前も一緒に載るのだから、全責任は情報提供者のものだ。


アーカード総合印刷所に罪はない。


現代では穴だらけな論理だが、しばらくは大丈夫だろう。

情報の公平性が叫ばれるのはオレの死後あたりにしてもらいたい。


「あのう。ゼゲルのことなんですが……」


ふと、腰の曲がった老いぼれが印刷所を訪ねてきた。

顔には珍しい水を模した奴隷刻印がある。


あのデザインはオレが奴隷刻印を広めた際にルナによって勝手に作られた亜種刻印だ。


今は亡き反逆者ルナに率いられた奴隷の一人というわけか。


時が経つのは早いな、もう20年も前のことだ。


「あ、はい。情報提供者の方ですね! どうぞ、こちらに!」


ルーニーに明るく促され、老いぼれが応接室に招待される。


どうせ偽情報の代わりに金品をよこせと言う物乞いだろう。

そう思った矢先だった。


「はは、きっとみんなに悪口を言われてばかりでしょう。だから、私からも伝えておきたかったんです」


「ゼゲル坊ちゃんのことを」


一瞬で真偽に気づいたベルッティが目を見張る。

ああ、そうだ。ベルッティ。


本物が来た。


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