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「聖女様は、そういえば転生した後の混乱はございませんでしたか?」
「……混乱……ていうか。異常事態ばっかりで、混乱しかなかったもの……。怒涛のような毎日で、細かいことを気にする余裕なんてなかったから……」
声を震わせながら、私はあの落下を思い出していた。
女神って、とんでもないことをするんだなとしか、やっぱり思えないし。
「ハッハッハ! 確かにお前は、空から落ちてきたもんなぁ」
ま、まさかそのまま、もらしちゃったことまで言っちゃうんじゃ――。
「ほう。空からですか。また稀有なものですな。よほど女神様に気に入られたのか、辻褄合わせにそうされたのでしょうな」
「えぇぇ?」
まぁ、確かに結果としては、大満足な状況に居ますけど……。
「ご納得なさりつつも、腑に落ちない、と言ったところでしょうかな。しかし、そうですかそうですか……。魔族に転生なさった魔王様に、聖女様が同じくして顕現なさったというのは、運命のようなものなのでしょう」
ウレインは、女神をものすごく崇拝しているらしい。
魔王さまを封じた方ではなくて、良い人を転生させてる方の女神を。
「その方ら、いったい、何を話している……。ともかく、少々疲れた……。先に帰らせてもらうが、構わないだろうか」
国王の存在を忘れていたけれど、律儀に話が終わるのを待っていたのかもしれない。
「これは国王様。ご無礼をいたしました。和平協定が生きているかを確認しておりました。魔王様は維持して下さるという事でしたので、安心して戻ると致しましょう」
ウレインは話を上手く誤魔化して、国王に納得してもらった。
逆に私は、この話を続けて欲しいのに帰ることになってしまって、残念だった。
けれど、その後はやっぱり、昔話などなかったかのように、解散してしまった。
魔王城に戻ってからは、食堂で皆とご飯を食べて、模擬戦の話――というか、魔王さまの活躍に――皆は大盛り上がりして。
そして今ようやく、ひとり大浴場に浸かっている。
シェナは血を洗い流すために、隣のシャワー室だ。
やっと休めるんだけど、今日のことで私は、少しだけ悔しさが残っている。
――私は、ウレインの切り出したあの昔話を、もっと聞いていたかった。
これといって深堀りしたい話もないけれど、聞いていれば何かを聞けたのではという、そういう勿体なさが残る。
その程度といえばそうだし、だけど、もっと重要なことを聞けたかもしれない。
――本当に、魔王さまのルーツが、まさか同じく日本からの転生者だったなんて。
あまり良い思い出ではなさそうだったから、出生について聞くのは、はばかられるし……私からは聞けない。
だからこそ、上手く掘り下げてくれるウレインが、あの時のあの空気感が大事だったのに。
「はぁぁぁ……。謎が深まり過ぎて、魔王さまのお役に立ちたいというのに……なかなか上手くできないわね……」
魔王さまがうなされていたあれは、もしかすると、転生前の夢を見ていたのかもしれない。
もしくは、転生後の、村を焼かれた時の夢。
それをお聞きしても、いいだろうか。
でも出来れば、あまり本人には直接聞かずに、そっと癒して差し上げたいのに。
「――そんなこと、やっぱり無理か……。ウレインが聞き出してくれるっていう偶然を期待しても、聞いていることに変わりないものね……」
それなら――。
今日、この夜に、お聞きするしかない。
日を置いてしまったら、もっと聞きにくくなってしまう。
「……か、体を求められる前に、聞いちゃわないと……。ちゃんと抵抗して、話をしてからと、お願いしないとよね」