「じゃあ、ライルは悪くないってことだな」
ライルから聞かされた話を纏めると・・・
元々のパーティメンバーがみんな死んだ。
生き残ったライルは新たなパーティに入り冒険者を続けたが、そのパーティもライルを残して全滅。
それをもう一度繰り返したところで、ライル死神説のような噂がこの街の冒険者に蔓延した。
命を掛ける冒険者業は、日本で言う願掛けや風水的なものを信じる人が自然と多くなる。何かに縋りたくなり、何かのせいにしたくなるってことだな。
よって、ライルは晴れてぼっちになったと。
だからスキンヘッドさんはライルは悪くないが断るしかなかったんだな。
仲間の誰かが迷信を信じるタイプなのか、自分が信じるタイプかは知らんが。
「セイ。話を聞いていたのか?俺は疫病神ならぬ死神だぞ?逆の立場なら俺は絶対自分とは組まない」
「じゃあ、何でパーティを組もうとしたんだ?」
噂のことは当然ライルも知っているだろう。なら何故?
「そんなん決まってるだろ?ダンジョンを攻略するためだよ。まぁ当面の目標は20階層だがな」
そう言ってBランクのカードを見せてきた。
「そうか。じゃあ、俺と潜るか?俺も誰かとパーティを組まなきゃいけなくてな」
俺は一人で気兼ねなく潜りたいが、みんなが許してくれないからな。
「は?セイはハーレムパーティがあるだろ?もしかして振られたのか?」
「言われると思ったから、殴るのはやめておく。お互い様だからな」
俺は涙涙の物語をライルに聞かせた。
「そうか。いいパーティだな。なら尚更俺は一緒に潜れねぇな」
「もしかして、迷信を信じるタイプか?」
「迷信って…現にみんな死んじまったからな。お前を殺しちまったらお前の仲間に恨まれて生きなきゃならねぇ。
それはごめんだ」
やっぱりライルは悪いやつじゃないな。悪いのは口だけだな。ムカつくがイケメンだし……
「少し思ったんだが、それってライルが強すぎて仲間が死んだんじゃないのか?」
俺はある答えにたどり着いた。
というか、さっきまで自分の事だったからすぐにわかった。
「は?何で俺が強かったらみんな死ぬんだよ」
「簡単だ。ライルの強さのお陰で深い階層まで潜れたが、お陰で敵が強くなって殺された。
実は、俺のと同じなんじゃないかと思ってな」
つまりパーティ内でのパワーバランスが悪かったんだろう。
ライルが余裕な時は助けられるが、敵が強くなってライルの手が空かない場合は殺されるしかない。
そこまで行くのに、今よりも弱い敵ですらライルの助けがいるんだからな。当然そうなるだろう。
俺達の場合は少し違うけど、原因は似たようなものだ。
「そうだったのか…確かに良い奴らだったけど、少し物足りなかったかもしれねぇ」
明言は避けたが、攻略速度や単純な強さだろうな。
「どうだ?理由がわかったところで俺と組むのは?」
「セイの強さを知らないからな…まぁ女を三人も守りながらあの階層まで来ていたから、弱いってことはなさそうだけどよ」
うーん。決められない優柔不断キャラが出ちゃったかな?
「俺の強さ…というか、良さは戦闘以外だからな。組んでみないとわからんと思うぞ?」
俺は万能型ですから!!器用貧乏ともいう。
「なんだよそれ…ますますわからんわ。だけどいいのか?他のメンバーに言わなくて」
「ああ。何故か知らんけど、人選は全く心配されていないからな。でも…女性と組むと絶対怒られる…」
「そりゃそうだろ…」
なんだ?わかるのか?俺はわからんぞ?鈍感系主人公だからな!
ライルとは一先ずお試しで組むことになった。
ダンジョンには昼も夜も関係ないから、とりあえず一日組んでからお互いが結論を出すことに。
俺の便利さを一日でも味わったら抜け出せんぞ?
麻薬よりやべぇですぜ、兄貴!
「とりあえずここから4階層くらいまで行くか。夜に予定があるって言ってたから、4階層なら戻って来れるだろ」
俺達は正規のルートでダンジョンに入った。
まだ何も伝えていないからライルは俺の予定の心配をしている。
「いや4階層じゃダメだ」
「ん?ならどこに行く?」
「12階層だ」
俺はエリーのやられたオークの群れがいる階層を指定した。
「は?夜に間に合わなくなるぞ?というか、この時間からなら着いたら夜だ」
「そうだな。だからこうする。付いてきてくれ」
俺はライルを連れて階段から離れる。もし他の冒険者に見られたら面倒だからな。
「ここでいいか…」
俺がそう呟くと、ライルが剣呑な雰囲気を醸し出した。
「セイ…お前…殺る気か?」
「おい!馬鹿っ!物騒なモノをしまえ!何で態々ライルを殺さなきゃいけねぇーんだよ!?」
「違うのか?こんな人が来ないようなところに連れてきて?」
「違うわい!」
くそ!ヤンデレ属性も持っているのか!?
「そ、そうか。てっきり元パーティメンバーの身内が仇に来たのかと思ってな…」
「安心しろ。但し、これから行うことは秘密にしろよ?」
仲間って言えば、秘密の共有だからな!
「ん?わかった。何をするんだ?」
「転移魔法で12階層に飛ぶんだ」
「はあ?」
ライルは目を丸くした。ふふふっ。存分に驚きたまえ。
「マジかよ…お前すげぇな…」
転移した後、心よりの賛辞を頂いた。
「もっと褒めてくれてもいいけど、これだけじゃないから安心してくれ」
「まだあるのかよ…まぁいい。それより俺はどうしたらいい?」
えっ?なに急に?しおらしくなって…俺は男には興味ないんだけど……
「普通に戦おう。そこで連携を確かめたいし、戦法も確かめたい」
「わかった。一応いっておくけど、俺はセイみたいに器用じゃないからな?この短剣と速さだけでのし上がってきた」
カッケェ・・・
俺もこの………沢山あり過ぎて絞れん……
「とりあえずあっちにいるから行こう」
「おい!何でわかんだよ!?」
ふふふっ。気配だよ。気配。なーんてな。
「索敵の魔法だ。もちろんそこまで便利なものじゃないから、敵かそうじゃないかはわからんが、ダンジョンなら殆ど魔物だろう」
「へぇ。便利だな」
便利一回目ゲットしました!
俺達の前には2匹の豚人間…オークがいる。
「俺から行く。見ててくれ」
ライルが告げた言葉に、俺は身体強化をして、しっかりと見定めることにした。
ザッ!
ライルがオークの背後に…速いっ!
シュッ
斬り掛かったと思ったら、すでにもう1匹の背後にいた。
シュッ
消えた!?いや!上だっ!
いつ移動したのか見えなかったが、魔力波が木の上にいるライルを捉えた。
バタバタッ
ライルに斬られたオーク達が、首を落としながら倒れた。
戻ってきたライルは開口一番。
「どうだった?やはり転移や索敵も出来るセイには物足りなかったか?」
「完璧や…」
「はい?」
「お前すげーな!一人で潜っていたから、初めから凄い奴だと思っていたけど、やっぱり凄かったぞ!」
コイツとなら魔王を倒せるっ!!
いや、いないんだけどね。知らんけど。
「そ、そうか。良かったよ。セイと組めるならありがたい」
「まぁ待て。まだ俺の戦闘を見てないだろ?」
「いや、これでセイがオークといい勝負でも俺は組むぞ?」
ハードル下がったなぁ…棒高跳びから走り高跳びくらい下がったなぁ……
「ま、まぁそういうなよ…」
俺の…いや、俺達の戦い方を知っておいてもらわないと、いざという時に生かせないからな。
「あの3匹にしよう」
丁度いい塩梅の3匹の大豚がいた。レンガの家はない。
「俺が2匹受け持とう」
「おい。俺の番だ!やらせろ!」
まさかこいつ過保護キャラか?
イケメンもキャラ被りしてるのに、さらにかよ……
えっ?そこはしてない?聞こえんなぁ?
「危なくなったら介入するからな!」
「ははっ!頼むわ」
俺みたいな奴だな。
だが、ミラン達に手を出したら許さんぞ!聖奈さんはあげる。
「まずは遠距離を二つ見せるから、しっかりと見とけよ?」
「まだあるのかよ…」
ふふふっ。すぐネタ切れになるから期待しすぎるなよ。
俺は対物ライフルを取り出し、準備してから詠唱を始めた。
準備せずに後でバタついたらカッコ悪いからな!
『アイスブロック』
フレアボムにするか迷ったけど、あまり使っていないこっちにした。
「ん?」
何も起きないことをライルが疑問に思ったその時。
ヒューー
風を切る音が上空から聞こえ・・・
ドガーーーンッ!
轟音と共に色々なものを吹き飛ばした。
やばっ…もしかしなくとも全部巻き込んだ?
「な、なんだ!?」
「魔法だ。この魔法は強力だけど、タイムラグがあるのが玉に瑕だ」
俺達の視線の先には、でっかい氷がどでーんと鎮座している。
「おい!なんだよこの魔法は!?やっぱりすげーな!」
ライル大興奮である。美少女なら良かった……
「間違えて全部殺してしまったから、次に行こう。コイツの威力を見せてやる」
俺は終ぞ使わなかった対物ライフルを背負って見せた。
「ああ!楽しみだ!」
もはや期待の塊である。ハードル上げ過ぎないでね?
「すげーな!魔法も!その武器も!」
これはライル談である。
ちなみに近接戦闘も見せたが、何も言われなかった。むしろ『怪我はないか?』だった。
くそっ!近接はこれからなんだからねっ!!
「どうだ?やっていけそうか?」
「当たり前だ!むしろ何でAランクじゃねーんだよ!ランク詐欺だ!」
あのー。つい最近までCランクでしたよ?
「それは良かったよ。俺は見ての通り中遠距離が得意なんだが、近接戦を鍛えたい。とりあえず今日のオークの群れの突破は剣で行きたいがいいか?」
「問題ないな。危なくなったら助けるから安心して剣を振ってくれ」
いやん。男前!
あれ?主人公はライルの可能性が微レ存?
むしろ俺の可能性が微レ存くらい少ないんじゃ……
その後はライルのサポートもありオークの群れを殲滅できた。
「後はあの門番だけだな」
「門番?ああ。オークキングな」
オークキングかよ!通りで桁外れに強いわけだ……
〓〓〓〓〓〓〓あとがき〓〓〓〓〓〓〓
補足です。
『微レ存』は以前にも出てきましたが、ネットスラングです。
『微粒子レベルに(で)存在する』の略語です。
わからないネタがあれば、随時補足していきます。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
アナウンサー「では次の選手です。東雲聖選手は転移と索敵の魔法が使えるようなので、ハードルの高さはマイナス6mになります!
世界記録にはあと20cm程です!」
審判「スタート!」ピッ
アナウンサー「やりました!東雲聖選手が世界記録更新です!なんと棒を使わずに跨ぎました!流石です!」
観客「聖!聖!ヒ・ジ・リ!」わあぁぁぁ!
聖「やめてくれぇぇ!!」
ガバッ!
聖「何だ…夢か…」
ライル「どうした?うなされていたぞ?」
聖「あぁ。ハードルがリアルに下がる夢を見たんだ…」
ライル「頭大丈夫か?」(そうか、たいへんだな)
逆ぅっ!!
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