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第50話:終わらないスローライフ。今日も縁側で昼寝を
北海道・十勝の空は、どこまでも高く、そしてどこまでも透き通っていた。
色鮮やかだった紅葉はすっかり落ち葉となり、冷たい北風が木々を揺らしている。
吐く息は真っ白に染まり、朝晩には霜が降りる季節。長く、厳しい冬の足音が、もうすぐそこまで近づいてきていた。
だが。
「……ふぅ。あったかいな」
俺たちの古民家の縁側は、今日も『常夏』ならぬ『常春』の陽だまりに包まれていた。
シロが常時展開している『適温25度の神聖結界』。
この圧倒的なマイナスイオンと温度管理能力のおかげで、外気温がマイナスに近づこうとも、俺は薄手の長袖一枚で快適に過ごすことができている。
「お兄さーん! 焼き芋焼けましたよー!」
縁側の横、結界のギリギリ外側で作っていた焚き火から、小春ちゃんがホクホクの焼き芋をトングで取り出した。
「おっ、いい匂いだな。魔法の畑で採れたサツマイモだから、味は保証付きだぞ」
小春ちゃんが熱そうに焼き芋を半分に割ると、黄金色に輝く蜜がトロリと溢れ出し、甘く香ばしい湯気が縁側に広がった。
『ミャウ♪』
『キュゥン♪』
その匂いに釣られて、俺の足元で丸くなっていた『もふもふ』たちが顔を上げた。
純白の神猫・シロと、黄金色のキタキツネ兄弟(コン吉とコン次郎)だ。
シロは相変わらず、世界で最も高価な爪とぎ(削れまくったダイヤモンドの盾)の上を特等席にしており、キツネ兄弟はそのシロの足元に丸まり、自らのふさふさの尻尾をシロの体に巻き付けて、極上の『キツネ毛布』と化している。
三匹が身を寄せ合う、見事な『トリプルもふもふ団子』。
見ているだけで、日々の疲れが細胞レベルで浄化されていくような、究極の癒やし空間だった。
「はい、お兄さんの分! シロちゃんとキツネ兄弟には、少し冷ましてからあげますね」
「ありがとう、小春ちゃん。……よし、それじゃあ、今日も始めるか」
俺は焼き芋を受け取ると、ジンバルにセットされたスマートフォンの『配信開始』ボタンをタップした。
登録者数、実に1200万人。
配信を開始した瞬間に、世界中から怒涛の勢いで視聴者が雪崩れ込んでくる。
『待ってたぞおおおおお!!』
『今日も癒やしをありがとう!!』
『シロ様とキツネ兄弟のトリプルもふもふ団子、尊すぎる……!』
『焼き芋の湯気が画面越しでも美味しそうww』
俺は、熱々の焼き芋を頬張りながら、カメラに向かってのんびりと語りかけた。
「世界中の皆さま、こんにちは。今日も我が家は平和です。……思えば、色々なことがありましたね」
東京のブラック企業で心身をすり減らし、逃げるようにこの限界集落へとやってきた春。
ボロボロの古民家で、一匹の薄汚れた白猫(シロ)を拾ったあの日。
枯れた温泉が湧き上がり、巨大なヒグマが土下座をし、裏山の畑から光る野菜が採れ、テレビ局のカメラが物理的に爆発し、ハリウッドスターが塩むすびで号泣した。
「常識じゃ考えられないことばかり起きましたが……俺の生活は、最初から今まで、何も変わっていません」
俺は、ほうじ茶の湯呑みを手に取り、縁側から広がるのどかな庭の風景を見渡した。
「朝起きて、ご飯を食べて、猫と一緒に縁側で昼寝をする。ただそれだけです。でも、それが俺にとっての『最高の幸せ』なんです」
俺の言葉に、チャット欄の流れが、ふっと優しく温かいものに変わった。
『主……ガチで泣かせにきてるだろ……』
『俺たちも、その変わらない日常に救われてるんだよ』
『限界社畜だった主が、心から笑ってるのを見るのが一番嬉しい』
『ずっとそのままの主でいてくれ!!』
画面の右端には、いつもの『彼ら』からの、愛に溢れたMeTubeギフトが並び始めた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”MASTER! THANK YOU FOR THE MIRACLES! I WILL WATCH OVER YOUR DAILY LIFE FOREVER!“(主よ! 奇跡をありがとう! 私は永遠に君の日常を見守るぞ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Your stream is the ultimate sanctuary for humanity. Have a peaceful rest.“(君の配信は人類にとって究極の聖域だ。安らかな休息を。)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×20連発)=”Love from Hollywood! Shiro, Konkichi, Konjiro, and Master… Sweet dreams!“(ハリウッドから愛を込めて! シロ、コン吉、コン次郎、そしてマスター……良い夢を!)』
世界を動かすVIPたちも、ただの一人の視聴者として、この小さな縁側の平穏を愛し、守ろうとしてくれている。
「ふふっ。お兄さん、皆さんが『おやすみなさい』って言ってくれてますよ」
小春ちゃんが、焼き芋を食べ終えて、俺の隣で座布団を抱きしめながら微笑んだ。
「そうだな。お腹もいっぱいになったし、外は寒いが、ここは最高に暖かい。……絶好の昼寝日和だ」
俺はゴロンと縁側に横になり、シロとキツネ兄弟の『トリプルもふもふ団子』に背中を預けた。
ズンッ、という心地よい重みと、シロの体から発せられる真珠色のマイナスイオン、そしてキツネ兄弟の黄金色の温もりが、俺の全身を優しく包み込んでいく。
『ミャウ……』
『キュゥン……』
三匹も、俺の背中にピッタリと寄り添い、幸せそうに寝息を立て始めた。
「私も、今日はいっぱい勉強したから……一緒に、お昼寝しちゃいます……」
小春ちゃんも、シロの反対側にコロンと転がり、穏やかな寝顔を見せた。
配信のカメラは、ただ静かに、俺たちが縁側で眠る姿を世界中へと映し出し続けている。
『おやすみ、主』
『最高の日常をありがとう』
『Good night!』
『Buenas noches!』
『また明日、ここで会おう!』
世界各国の言葉で綴られた『おやすみなさい』のコメントが、雪のように静かに、そして温かく画面を覆い尽くしていく。
俺は、半分眠りに落ちかけた意識の中で、微かに微笑んだ。
限界社畜だった俺が手に入れた、ちょっと不思議で、圧倒的に平和なスローライフ。
季節が巡り、冬の雪がこの村を白く染め上げようとも。
俺たちの日常は、この縁側の陽だまりの中で、明日も、明後日も、ずっとずっと変わらずに続いていく。
「……おやすみ、世界」
俺は小さく呟き、深く、安らかな眠りへと落ちていった。
終わらないスローライフは、これからも、俺たちを優しく包み込み続けるのだ。
コメント
1件
うわあああ第50話読み終えたよ〜!!😭💕 もうね、冒頭の十勝の空の描写から一気に引き込まれた!! 「トリプルもふもふ団子」が尊すぎて尊すぎて画面見ながら悶えたよ…シロ様とキツネ兄弟に囲まれて昼寝って、それだけで人類の最終進化形では??? それと、世界中のVIPたちが縁側の平和を守ってるのがすごくじーんと来た…💖 「おやすみ、世界」って締めくくり、心臓ぎゅってなった。 お兄さんの変わらない日常が、私の癒しでもあります。また明日も読みます!!☀️
ゆうき あきや
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#心理描写重視