テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
朝。
カーテンの隙間から差し込む光が、部屋をゆっくり明るくしていく。
「……ん、」
岩泉はゆっくり目を開けた。
見慣れた自分の部屋。
隣には、昨日泊まりに来た及川。
……のはずだった。
「…………は?」
目を下に向ける。
及川が、ぴったりくっついていた。
しかも。
「おい、クソ川」
「んぅ……」
「なんで俺に抱きついてんだ」
「……岩ちゃん、あったかい……」
寝ぼけた声。
及川は岩泉の服をぎゅっとつかみ、さらに顔をうずめた。
「…………」
岩泉は天井を見上げた。
(……こいつ、寝てるときまで人を振り回しやがって)
「おい、起きろ。朝だぞ」
「やぁだ……」
「は?」
「あと五分……」
「昨日も同じこと言ってただろ」
「……岩ちゃんが起こしてくれたら起きるぅ……」
(なんだこいつ)
普段なら絶対に言わないような甘えた声。
岩泉は思わず顔をそらした。
「……っ、朝から調子狂うんだよ」
けれど、及川を無理やり引き離すことはしなかった。
むしろ。
ぽん、ぽん。
その背中を、優しく叩いてやった。
「……五分だけだからな」
「ん……♡」
及川の口元が、ほんの少し緩んだ。
――こいつ、絶対起きてんだろ。
岩泉はそう思ったが、何も言わなかった。
だって。
好きなやつに甘えられて、嫌なわけがなかったから。
⸻
💗 AM 7:15「岩ちゃん、ちゅーして?」
「……及川。七時十五分」
「…………」
「五分どころか十五分経ってんぞ」
「…………」
「おい」
「……岩ちゃん」
「なんだよ」
及川が、ゆっくり顔を上げた。
寝起きで少し乱れた髪。
いつもより柔らかい表情。
そして。
「……おはよ♡」
にこっ。
「…………」
岩泉は固まった。
「……お、おう」
「なに? 岩ちゃん、顔赤くない?」
「赤くねえ!」
「えー? もしかして、及川さんの寝顔に見惚れちゃった?」
「ぶっ飛ばすぞ」
「ひどーい!」
いつもの調子に戻った及川。
けれど、岩泉の服をつかんだ手だけは離さなかった。
「……ねえ、岩ちゃん」
「今度はなんだよ」
及川は少しだけ視線を落とした。
「……おはようの、ちゅーは?」
「…………は?」
一瞬、部屋が静かになった。
「いや、昨日はおやすみのちゅーしてくれたじゃん?」
「……まあ、したな」
「だから今日は、おはようの!」
「お前なぁ……」
岩泉は深いため息をついた。
及川はじっと岩泉を見つめる。
いつものからかうような笑顔ではない。
ほんの少し、期待している顔だった。
「……だめ?」
その一言に。
岩泉は、完全に負けた。
「……目、閉じろ」
「……っ!!」
及川の顔がぱあっと明るくなる。
「ほんと!?」
「やっぱやめるぞ」
「やだ!!」
慌てて目を閉じる及川。
岩泉はその頬に手を添え、そっと唇にキスをした。
ちゅ、と小さな音がして。
すぐに離れる。
「……はい、終わり」
「…………」
「及川?」
「…………岩ちゃん」
「なんだよ」
「……もう一回」
「調子に乗んな!」
「ええええ!? 岩ちゃんのケチ!!」
「うるせえ!!」
そう言いながらも。
及川がしょんぼりしたふりをすると、岩泉は困ったように眉を寄せた。
「……ったく」
もう一度、今度は額にキスを落とす。
「これで満足か?」
及川は額を押さえながら、ふにゃっと笑った。
「……うんっ♡」
その笑顔を見た瞬間、岩泉は思った。
(……あー、もう)
(こいつには一生勝てねえ)
⸻
☀️ AM 7:30「あと少しだけ」
ようやく布団から出た二人。
岩泉は朝食の準備を始め、及川はその後ろをついて歩いていた。
「岩ちゃん」
「なんだ」
「岩ちゃん」
「なんだよ」
「いーわーちゃーん♡」
「名前を連呼すんな!!」
「だってぇ、岩ちゃんが構ってくれないんだもん!」
「朝飯作ってんだよ!」
「及川さんより卵焼きのほうが大事なの!?」
「当たり前だろ、卵焼きは焦げたら終わりなんだよ!」
「ひどい!!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい朝。
けれど、及川はふと静かになった。
「……ねえ、岩ちゃん」
「ん?」
「今日、部活終わったあと……一緒に帰ろうね」
岩泉は手を止めた。
「……いつも一緒に帰ってんだろ」
「そうだけど」
及川は少し照れたように笑った。
「昨日、楽しかったからさ」
その言葉に、岩泉の胸がじんわり温かくなる。
「……ああ」
岩泉は振り返り、及川の頭をくしゃっと撫でた。
「また泊まりに来りゃいいだろ」
「……ほんと?」
「嘘ついてどうすんだよ」
及川は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、次も一緒に寝ようね♡」
「……お前はそればっかだな」
「だって岩ちゃん、大好きだもん!」
――ぴたり。
岩泉の手が止まった。
「…………お前」
「ん?」
「……そういうこと、さらっと言うな」
「え? なんで?」
岩泉は及川の額を指で軽く押した。
「……こっちが恥ずかしくなるだろうが」
及川は一瞬きょとんとして。
それから、今までで一番嬉しそうに笑った。
「……岩ちゃんも、及川さんのこと大好きってこと?」
「…………」
「ねえねえ、そうなの!?」
「……うるせえ」
「ねえってばぁ!!」
「……好きだよ」
「…………え?」
今度は、及川が固まる番だった。
岩泉は耳を赤くしながら、卵焼きを皿に移した。
「……何回も言わせんな、クソ川」
及川はしばらく黙っていた。
それから。
「……っ、岩ちゃん!!」
勢いよく抱きつく。
「うおっ!? 危ねえだろ!!」
「大好き!! 岩ちゃん大好き!!」
「わかった、わかったから離れろ!」
「やだ!!」
「……ったく」
岩泉は文句を言いながらも、及川の背中に腕を回した。
そして、小さな声で囁く。
「……俺も、大好きだよ。徹」
今度こそ。
及川は、真っ赤になって言葉を失った。
――第3話・終わり。💗
無気力組は腐男子です☆
#下手くそ注意
わっ
169
桜🌸
1,191
#スカッと
コメント
1件
あーもう、朝から胸がいっぱいになりました……! 岩泉が「五分だけ」って背中トントンしてあげるの、あれ完全に甘やかしてるじゃないですか。しかも「好きだよ」って真っ赤になりながら言っちゃうとことか、最後に「徹」って名前呼びするところとか、反則級に尊かったです。起き抜けの甘えた及川も、照れながらも受け止める岩泉も、二人の距離感がぎゅっと縮まっていく感じがじんわり伝わってきて、読んでるこっちまで温かくなりました。しゅぴさん、素敵な朝をありがとうございます💗