テラーノベル
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累は夕日に照らされた公園のベンチへ腰を下ろす。
オレンジ色に染まる空の下、小さく息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。
「俺と沙月は小学校からの幼馴染でさ
どんな時もずっと一緒だったんだよ」
信愛もさくらも黙って耳を傾ける。
累は少しだけ笑みを浮かべた。
「ガキん頃は、将来結婚しよう!
なんて約束までしたりしててさ」
その笑顔はすぐに寂しげなものへと変わる。
「けど互いに中学高校と進学するにつれて
だんだん疎遠になっていった」
一拍置いて、自嘲するように首を振った。
「いや、疎遠とは違うな」
拳を握り締める。
「俺から距離を置いたんだ」
信愛が静かに問いかける。
「どうしてですか?」
累は夕焼け空を見上げたまま答えた。
「沙月はみんなから愛される優等生で
逆に俺はみんなから白い目で見られてて
教師からも目の敵にされてる落ちこぼれだったからさ」
その声には諦めが滲んでいた。
「沙月に悪影響だって、そう・・思ったんだ・・・」
しばらく沈黙が流れる。
やがて累は、少しだけ柔らかな表情になった。
「けど沙月は、そんなどうしようも無い俺を
等身大の人間として扱ってくれたんだ」
その言葉とともに、累の脳裏に懐かしい記憶が蘇る。
◇ ◇ ◇
数年前。私立浜那須高校。
放課後の屋上では、フェンス越しに青空を見ながら、累が煙草を口に咥えていた。
「コラ!累!」
振り向くと、頬を膨らませた沙月が立っている。
「またタバコ吸ってんの?」
累は悪びれる様子もなく、さも当然かの様に口から濁った煙を吐き出しながら肩をくすめる。
「お前には関係ねーだろーが」
「えー!幼馴染じゃーん
そんな悲しい事言わないでよ〜ぅ」
そう言うと沙月は躊躇なく累へ抱きついた。
突然のことに累は真っ赤になる。
「だぁー!もう!離れろバカ!」
それでも沙月は腕を緩めない。
「だって累が寂しい事言うんだもぉーん」
累は顔を真っ赤にしたまま叫ぶ。
「だーもう!鬱陶しいんだよっ!」
その隙を突いて、沙月は累の胸ポケットから煙草をひょいと抜き取った。
「は〜い!タバコ没収で〜す!」
「おい!どさくさに紛れて
何すんだコラ!返せこのやろー!」
沙月は煙草を背中に隠し、いたずらっぽく笑う。
「若いうちからこんなの吸ってたら、頭
スッカラカ〜ンになっちゃうよ?いいの?それでも!」
「ババ臭い説教すんな」
「あー!ひっどー!」
頬を膨らませながらも、どこか楽しそうだ。
「そんな事言っちゃいけないんだー!」
人差し指を突きつける。
「先生に言いつけてやるんだからね?」
累は呆れたように頭をかき、苦笑した。
「けっ、ガキかよ!」
しかし、そういいながらも、累も沙月同様にどこか楽しんでいる雰囲気だった。
◇ ◇ ◇
累は苦笑いを浮かべた。
「うるさいヤツだったけどさ」
その表情は、どこか懐かしさを噛み締めるようだった。
「俺はそんな沙月の事が好きだったんだよ」
夕焼けに染まる横顔は、少しだけ寂しげだった。
「どんな時でも俺の事を見捨てないで
気にかけてくれてたからさ」
言葉を切ると、小さく息を吐く。
「けど・・俺は想いを伝えるのを躊躇ってた」
さくらが首を傾げる。
「なんでですか?好きだったんでしょ?」
累は自嘲するように笑った。
「俺みたいなろくでなし、沙月には不釣り合いだって
そう・・自分に言い聞かせてたんだ」
焔垂も朝陽も何も言えず、ただ累の話を聞いていた。
累は拳を握りしめる。
「それにもし好きって思ってるのが俺だけで」
唇を噛む。
「沙月は違うかもってそう思ったら
伝えれなかったんだ」
公園に沈黙が流れる。
やがて累は遠くを見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「そんな矢先──」
その一言だけで、場の空気が重くなる。
「沙月が事故に遭った」
信愛が静かに口を開く。
「それがプレゼントを
買いに行った帰りの事故なんですね?」
累はゆっくりとうなずいた。
「ああ・・・」
少し間を置いて続ける。
「後から沙月の友達に聞いたら」
涙をこらえるように目を閉じる。
「アイツは昔から俺の事が
好きだったらしくてさ・・・」
震える声で続ける。
「何度も友達に相談してたらしいんだ」
夕焼けが少しずつ色を失っていく。
「だから欲しがってる物をプレゼントして
それから告白してみたらいいんじゃないか?
って、アドバイスしたらしいんだ」
◇ ◇ ◇
犬吠埼病院の病室には重苦しい静寂が流れていた。
白いベッドに横たわる沙月は、目を閉じたまま微動だにしない。
見舞いに来ていた同級生が、深く頭を下げる。
「本当にごめんなさい・・私が余計な
アドバイスなんかしなかったら
沙月は・・沙月は・・ぐすっ」
累はゆっくりと首を横に振った。
「お前は悪くねーよ」
唇を噛み締め、震える声で続ける。
「俺が悪いんだ・・・」
同級生は何も言えず、ただ累の名を呼んだ。
「赤迫くん・・・」
累は俯いたまま拳を握る。
「俺がビビらずにさっさと告ってりゃ」
言葉が喉につかえ、一度息を飲む。
「こんな事にはならなかったんだ」
悔しさを押し殺すように歯を食いしばる。
「俺が沙月を待たせすぎたんだよ」
病室には再び沈黙が訪れる。
誰もその言葉を否定できなかった。
累は力なく首を振る。
「沙月の事故は全部・・俺の責任なんだよ・・」
震える声は、今にも途切れそうだった。
「全部・・俺の・・・」
最後まで言い切れず、嗚咽が漏れる。
「ぐすっ・・・」
累はベッドのそばへ歩み寄ると、眠り続ける沙月の手をそっと包み込んだ。
その温もりを失うまいとするように、強く、強く握り締める。
頬を伝う涙は止まることなく、静かな病室に一滴、また一滴と落ちていった。
コメント
1件
うわあ……このエピソード、胸にくるものがありました。累の「俺が沙月を待たせすぎたんだよ」という台詞が特に刺さります。夕焼けの描写が、昔の楽しかった記憶と今の後悔を対比させていて、切なさが一層引き立ちますね。沙月があんなに明るく累に絡んでいたからこそ、事故の後の重さが際立って感じられました。累の自責の念が痛いほど伝わってきます。この先、どうなっていくのか気になります……。
#ボカロ
ありあ
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ありあ
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