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桜井 かな
624
ありあ
255
#初投稿
みあるい
212
#高校生
松下一成
85
累は夕日に照らされた公園のベンチへ腰を下ろす。
オレンジ色に染まる空の下、小さく息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。
「俺と沙月は小学校からの幼馴染でさ
どんな時もずっと一緒だったんだよ」
信愛もさくらも黙って耳を傾ける。
累は少しだけ笑みを浮かべた。
「ガキん頃は、将来結婚しよう!
なんて約束までしたりしててさ」
その笑顔はすぐに寂しげなものへと変わる。
「けど互いに中学高校と進学するにつれて
だんだん疎遠になっていった」
一拍置いて、自嘲するように首を振った。
「いや、疎遠とは違うな」
拳を握り締める。
「俺から距離を置いたんだ」
信愛が静かに問いかける。
「どうしてですか?」
累は夕焼け空を見上げたまま答えた。
「沙月はみんなから愛される優等生で
逆に俺はみんなから白い目で見られてて
教師からも目の敵にされてる落ちこぼれだったからさ」
その声には諦めが滲んでいた。
「沙月に悪影響だって、そう・・思ったんだ・・・」
しばらく沈黙が流れる。
やがて累は、少しだけ柔らかな表情になった。
「けど沙月は、そんなどうしようも無い俺を
等身大の人間として扱ってくれたんだ」
その言葉とともに、累の脳裏に懐かしい記憶が蘇る。
◇ ◇ ◇
数年前。私立浜那須高校。
放課後の屋上では、フェンス越しに青空を見ながら、累が煙草を口に咥えていた。
「コラ!累!」
振り向くと、頬を膨らませた沙月が立っている。
「またタバコ吸ってんの?」
累は悪びれる様子もなく、さも当然かの様に口から濁った煙を吐き出しながら肩をくすめる。
「お前には関係ねーだろーが」
「えー!幼馴染じゃーん
そんな悲しい事言わないでよ〜ぅ」
そう言うと沙月は躊躇なく累へ抱きついた。
突然のことに累は真っ赤になる。
「だぁー!もう!離れろバカ!」
それでも沙月は腕を緩めない。
「だって累が寂しい事言うんだもぉーん」
累は顔を真っ赤にしたまま叫ぶ。
「だーもう!鬱陶しいんだよっ!」
その隙を突いて、沙月は累の胸ポケットから煙草をひょいと抜き取った。
「は〜い!タバコ没収で〜す!」
「おい!どさくさに紛れて
何すんだコラ!返せこのやろー!」
沙月は煙草を背中に隠し、いたずらっぽく笑う。
「若いうちからこんなの吸ってたら、頭
スッカラカ〜ンになっちゃうよ?いいの?それでも!」
「ババ臭い説教すんな」
「あー!ひっどー!」
頬を膨らませながらも、どこか楽しそうだ。
「そんな事言っちゃいけないんだー!」
人差し指を突きつける。
「先生に言いつけてやるんだからね?」
累は呆れたように頭をかき、苦笑した。
「けっ、ガキかよ!」
しかし、そういいながらも、累も沙月同様にどこか楽しんでいる雰囲気だった。
◇ ◇ ◇
累は苦笑いを浮かべた。
「うるさいヤツだったけどさ」
その表情は、どこか懐かしさを噛み締めるようだった。
「俺はそんな沙月の事が好きだったんだよ」
夕焼けに染まる横顔は、少しだけ寂しげだった。
「どんな時でも俺の事を見捨てないで
気にかけてくれてたからさ」
言葉を切ると、小さく息を吐く。
「けど・・俺は想いを伝えるのを躊躇ってた」
さくらが首を傾げる。
「なんでですか?好きだったんでしょ?」
累は自嘲するように笑った。
「俺みたいなろくでなし、沙月には不釣り合いだって
そう・・自分に言い聞かせてたんだ」
焔垂も朝陽も何も言えず、ただ累の話を聞いていた。
累は拳を握りしめる。
「それにもし好きって思ってるのが俺だけで」
唇を噛む。
「沙月は違うかもってそう思ったら
伝えれなかったんだ」
公園に沈黙が流れる。
やがて累は遠くを見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「そんな矢先──」
その一言だけで、場の空気が重くなる。
「沙月が事故に遭った」
信愛が静かに口を開く。
「それがプレゼントを
買いに行った帰りの事故なんですね?」
累はゆっくりとうなずいた。
「ああ・・・」
少し間を置いて続ける。
「後から沙月の友達に聞いたら」
涙をこらえるように目を閉じる。
「アイツは昔から俺の事が
好きだったらしくてさ・・・」
震える声で続ける。
「何度も友達に相談してたらしいんだ」
夕焼けが少しずつ色を失っていく。
「だから欲しがってる物をプレゼントして
それから告白してみたらいいんじゃないか?
って、アドバイスしたらしいんだ」
◇ ◇ ◇
犬吠埼病院の病室には重苦しい静寂が流れていた。
白いベッドに横たわる沙月は、目を閉じたまま微動だにしない。
見舞いに来ていた同級生が、深く頭を下げる。
「本当にごめんなさい・・私が余計な
アドバイスなんかしなかったら
沙月は・・沙月は・・ぐすっ」
累はゆっくりと首を横に振った。
「お前は悪くねーよ」
唇を噛み締め、震える声で続ける。
「俺が悪いんだ・・・」
同級生は何も言えず、ただ累の名を呼んだ。
「赤迫くん・・・」
累は俯いたまま拳を握る。
「俺がビビらずにさっさと告ってりゃ」
言葉が喉につかえ、一度息を飲む。
「こんな事にはならなかったんだ」
悔しさを押し殺すように歯を食いしばる。
「俺が沙月を待たせすぎたんだよ」
病室には再び沈黙が訪れる。
誰もその言葉を否定できなかった。
累は力なく首を振る。
「沙月の事故は全部・・俺の責任なんだよ・・」
震える声は、今にも途切れそうだった。
「全部・・俺の・・・」
最後まで言い切れず、嗚咽が漏れる。
「ぐすっ・・・」
累はベッドのそばへ歩み寄ると、眠り続ける沙月の手をそっと包み込んだ。
その温もりを失うまいとするように、強く、強く握り締める。
頬を伝う涙は止まることなく、静かな病室に一滴、また一滴と落ちていった。
コメント
1件
うわあ……このエピソード、胸にくるものがありました。累の「俺が沙月を待たせすぎたんだよ」という台詞が特に刺さります。夕焼けの描写が、昔の楽しかった記憶と今の後悔を対比させていて、切なさが一層引き立ちますね。沙月があんなに明るく累に絡んでいたからこそ、事故の後の重さが際立って感じられました。累の自責の念が痛いほど伝わってきます。この先、どうなっていくのか気になります……。