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#子育て
都築七美
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さぶれ-SABURE-
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さぶれ-SABURE-
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当たり前の日常が突然なくなるなんて考えたこともなかった。
いつものようにバスに乗って大学へ行くはずだったのに。
覚えているのは急ブレーキの音と、ドン! という衝撃。
「……えっ?」
陽菜(ひな)は見知らぬ床に座り込んでいる自分に驚いた。
「OHHHH!」
部屋が揺れるほど歓声を上げている中世ヨーロッパの騎士のような人たち。
ここはどこ?
松明が灯された薄暗い部屋は全く見覚えがない場所。
前から歩いてくる王子っぽい服装の人はミュージカル俳優?
白い軍服のような服は、薄暗い部屋でも派手だとわかるほど肩から胸に金色の紐の装飾品がつき、歩き方も仕草もナルシストっぽい。
王子は満面の笑みで手を差し伸べた。
陽菜の隣の美人に。
白いブラウスに花柄のスカート、緩やかに巻かれた茶髪、バッチリなメイク。
王子の手を取りながら立ち上がった彼女の足元は赤いハイヒールだった。
「京香よ」
そのまま歩いて行ってしまう二人を陽菜が見送ると、次はショタ王子が登場。
服装はさっきのナルシストと似ているが、明らかにこちらのほうが年下だ。
彼は陽菜の横を通過し、後ろにいた制服の少女に優しく手を差し伸べた。
ブレザーに可愛いチェックのスカート、ハイソックスにはロゴマーク。
髪はふわふわの肩上で、守ってあげたくなるような可愛いあの子はきっと女子高生。
「私、芽郁(めい)です。あの、ここはどこですか?」
こちらを何度も振り返りながら歩いて行く芽依を、陽菜はぼんやりと見送った。
「……それで、私は?」
部屋はざわついているが誰も迎えに来ない。
陽菜が立ち上がると、騎士のような男たちに取り囲まれた。
なんて言っているの?
何かを言っているが、全然聞き取れない。
日本語ではないのにどうしてさっきの二人は会話ができていたのだろう?
私は彼女たちの言葉しかわからなかったのに。
「えっ? 離して!」
騎士に腕を掴まれた陽菜は振り払おうとしたが、もう片方の腕も別の騎士に掴まれてしまった。
一人の騎士がギラギラ光る銀色の剣を陽菜の前に。
もう一人の騎士も反対側から剣を突き付ける。
待って!
これ歓迎されていないパターン!
後ろでひとつに縛った黒髪、長めの前髪に黒縁眼鏡をかけていて、黒のTシャツに安いGパン、普通の白いスニーカーで色気がないのは認める。
でもさ、勝手に知らないところへ連れてきてこの扱いはないんじゃない?
「ねぇ、ここはどこ? どういうことか説明して!」
引きずられるように暗い廊下を歩かされ、階段を下りて大きな扉の前へ。
「わっ!」
何の説明もないまま、陽菜は外に突き飛ばされた。
手を咄嗟についたが膝のダメージは防げず、眼鏡が石畳に落ちそうに。
陽菜は慌てて眼鏡を押さえた。
「なんなの?」
外は雨。
Gパンも手も泥で汚れてしまった。
当然、急いで押さえた眼鏡も、顔も。
文句を言おうとすぐに振り返ったが、扉はもう閉められ、周りには誰もいなかった。
「うそでしょ?」
垂直の高い壁は、誰も寄せつけないような暗く冷たい印象の城に見えた。
東京にこんな場所はない。
ここはどこ?
それよりもこの状況は何?
陽菜は石畳で打った膝を押さえながら立ち上がった。
Gパンで良かった。
スカートだったら流血だ。
手もドロドロ。
Tシャツも泥がついてしまった。
もう一度建物の方を振り返っても、閉まっている扉は開きそうにない。
見上げてもやっぱり知らない城。
周りを見回しても、他に建物は見当たらなかった。
……何で私がこんな目に。
陽菜は泣きながら歩いた。
だんだん強くなる雨に体力が奪われていく。
どれだけ歩いたかわからないし、どこへ行けばいいのかもわからない。
足も痛いし、濡れた身体が寒い。
何もない砂利の道から草原へ入った陽菜は息苦しさに胸を押さえた。
なんでこんなに苦しいの?
私、死ぬのかな、こんなところで。
どうしよう、引き返す?
でも、……もう無理かも。
Tシャツをギュッと握ったまま、陽菜の意識は途切れた――。
「……目を覚ますと親切な人が助けてくれていて、どこかの家で目が覚めるべきじゃない?」
陽菜は誰もいない草むらで思わずツッコんだ。
「いや、ありえないでしょ」
倒れた場所で倒れたままの格好で目が覚めた陽菜は、立ち上がりながら苦笑する。
あんなに胸が苦しかったのに、今はもう苦しくない。
だが、服も髪もずぶ濡れでドロドロだ。
これからどこで何をすればいいのだろう?
言葉もわからなかったし、お金もないし、食べる物もない。
行く宛もなかったが、陽菜はとりあえず進むしかなかった。
バスに乗っていたら急ブレーキの音がして、身体が前のめりになって。
そして……死んだのかな?
そういえば、同じバスにあの花柄スカートのキョウカさんが乗っていた気がする。
女子高生のメイちゃんも後ろにいたのかもしれない。
バスの事故でここへきてしまったのだろうか。
でもあのバスには他の人も乗っていたのに、どうして三人だけ?
迷い込んだにしてはすごい歓声だった。
王子二人の可愛い花嫁が来たから、あとは外にポイ?
せめて生きていくための最低限の知識とか、お金とか、お金とか、お金とか、くれてもよかったのではないか。
「草原の次は森?」
森の中は薄暗く、木の根がゴツゴツで歩きにくい。
何度もよろけながら陽菜は食べ物を探しながら歩いた。
「……犬、かな?」
木の下にうずくまっている小さな動物を見つけた陽菜は思わず足を止めた。
もふもふが必死に舐めている右足は、血で真っ赤に染まっていて可哀想だ。
「あ、えーっと、わんちゃん? 何にもしないよ。手当てするだけ」
毛を逆立て唸り声を上げるもふもふの前で、陽菜はポケットに入っていたハンカチを三角に折り、さらに細く折った。
「痛っ」
予想通り噛まれてしまったが、陽菜は気にせず子犬の足にハンカチを巻きつける。
小さな足にグルグルと。
「ごめんね、驚かせて。血が止まるといいね」
もふもふはグレーの目で陽菜を見つめると、陽菜の膝の上に乗り、丸まってしまった。
「わんちゃん? ここで寝ちゃうと困るんだけど」
口ではそう言いながらも、犬好きにとって膝に乗ってもらえることはご褒美に近い。
そっと子犬の背中を撫でるとふわふわに見えた毛は思ったよりもしっかりした毛だった。
癒される!
実家の柴犬よりも長めの毛で、色は濃いグレーと薄いグレーのメッシュ。
毛並みがすごく良い。
犬種は何だろう?
ハスキーとはちょっと違う気がするけれど雑種?
こんな可愛い子犬が膝に乗ってくれるなんて、この変な世界で一番幸せな時間かもしれない。
たくさん歩いて疲れたせいか、足がポカポカと温かくなったせいか、陽菜はいつの間にか木にもたれながら眠ってしまった。
◇
「聖女が二人?」
謁見の間に国王の驚く声が響き渡った。
「どちらが聖女なのだ?」
国王の言葉に、クロードとハロルドは自分の姫こそ聖女だと睨み合った。
コメント
1件
第1話、読ませていただきました! 「聖女2人とオマケな私」っていうタイトルがもう切ないですね……。 陽菜ちゃんだけ歓迎されずに追い出されて、雨の中泣きながら歩くシーンが胸にきました。 それでも傷ついた子犬を助ける優しさが、彼女の魅力だなって思いました。 あのニ匹の聖女とどう絡んでいくのか、すごく気になります! 続きが楽しみです🌷