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「なあ、琵琶法師の兄さんよ、この、若いの黙らせてくんないかなぁ。こちとら、お前さんらより、先に、荷の請け負いが、はいってんのよ。遠国モノだから、入りは遅い。で、荷車やら、人は、いるが、それは、あくまで、待ちって、やつ。いやあ、あんたらが、荷車類持ちこんでくれるのは、正直、助かった」
「……」
黒づくめ──、琵琶法師は、しゃしゃり出てきた若者を、黙って見た。
「あー、だから、うちの荷をって言ってんでしょ!」
と、秋時《あきとき》が、まとめたいのか、琵琶法師を、庇っているのか、口を挟んで、また、混乱が起こりそうな気配が流れた。
「琵琶法師の、兄さん!こいつ、黙らせろよ!こいつが仕切るから、話が、こじれるんだろうがっ!」
「……黙れ」
琵琶法師が、秋時を押さえるかのように、呟いた。そして、若者と向き合った。
「お前、何故、琵琶法師などと呼ぶ?」
「あれ?違ったのか、そりゃーすまねー!都大路で、弾き語りしてるの、見たことあるんだ。で、てっきり。そりゃー、琵琶やら、なんやら、扱ってたら、どうしても、遠国からの、仕入れモノとが出てくるわ。弾き語りも、大変なんだなぁと、思ったもんで。そうか、違ったのかーー」
口調は、くだけているが、若者の表情はキツく、更に、琵琶法師を威嚇するかのように、視線をそらさないでいる。
「……そうだ。新しい琵琶の仕入れに、諸々必要な、部具が……入ってくる。扱いが難しいので、運びは、こちらで……」
「あー、そうかい。確かに、俺達は慣れてねぇーからなあー、壊しちまったなんて、ことになったら、てぇーへんだし、そこいらは、あんたらに、任せるって、最初から、言ってる。で、何を、ごねてくるんだよ?え?こっちは、構わねえって言ってんだろ?」
「……」
「全部、このペラペラよく、口が、動く、兄さんのせいだろうがっ!」
「え?わ、私?」
秋時が、慌てて、言い訳しようと、また、口を挟んで来た。とたんに、琵琶法師が、睨み付け、秋時は、縮こまり、大人しくなった。
「……其方の荷は、いつ、入る?」
「すまねぇ、それが、ハッキリしねぇーのよ。あんたなら、わかるだろ?遠国モノ、扱い慣れてるなら」
「……」
「逆に、あんたらの荷は、いつ入るんだ?仮に、同じく、だったりしたら、こりゃー今から、よくよく、仕切って置かなきゃなぁ。若造は、てめーの荷を優先させろとか言ってるが、優先もなにも、あんたんとこが、先に入ったら、別に騒ぐことねーし、だろ?」
「……問題は、同時に、入った、場合」
「そ、そーゆーこと。なあー!船方の頭《あたま》!被った場合、どうするよ?そもそも、ここに、舟、入れるのかよ」
「おー!そうだなぁー、そこだわなぁ。上手くいきゃー、同時に、それぞれ、荷下ろしできるが、さて、どんだけの、舟が、動くのか、が、問題だわなぁ」
「頭、それが、わかりゃー、こっちも、きっちり、仕切って見せれるって、ことだろ?」
おうおう、と、集まる頭衆は、賛同の声を挙げ、琵琶法師と、対等に、やりあう若者を守る体制に入っていた。
「あと少しじゃ!」
髭モジャか、小声で言った。
「え?」
「つまりの、女童子《めどうじ》よ、あの若者は、いつ、奴らが動くか、荷運びにかけて、聞き出そうとしておるのじゃ。とはいえ、相手が相手、良いか、そろそろ、逃げる準備に入っておくのじゃぞ。しくじったら、大乱闘どころの話では済まんからのぉ」
「あっ、髭モジャ!琵琶法師が!」
琵琶法師も、思うところがあったのか、手下達を集つめ、こそこそ、話し合っている。
その脇で、家令《しつじ》と、秋時は、立ちすくんでいた。