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「だぁーーー!!!わからんちんめらがぁっっ!!!あれは教えねぇ、これも教えねぇって、琵琶法師、てめぇーーなぁ!人なめてんのか!頭衆!さっさと、こっちの、準備しちまいましょうぜ!何せ、あっちは、てめーらで、もう準備してんだ、別に、ここは、必要ねぇーでしょ」
若者が、焦れったいとばかりに、叫んだ。
瞬間、琵琶法師が振り返り、若者を見る。当然、送られる視線は、殺気だっていた。
「は?やるてっか?琵琶法師!この阿保がっ!てめーも、てめーの仕事が、控えてんだろ!今、殺気だってる場合かよっ!早く、ここから、どきなっ!!」
「ああっ、女童子《めどうじ》よ!こりゃ、まずいぞ、逃げるのじゃ、このままじゃと、血の雨が降る!さぁ、行くぞ」
髭モジャが、低い声で言い、隠れる荷車の影から、逃げようとした時……。
「そういうことよ、琵琶法師とやら。ここは、俺達が、先に押さえている荷受け場だ。あんたら、準備万端だろ。向こう岸の荷受け場へ行ってくれ。荷受けの場所が、別なら、お互い、殺気だたんでも、いいだろう。それに、船からも、陸からも、あちら岸の荷受け場は、見える。黒づくめの琵琶法師が、いれば、荷運び側も、場所が変更したって、わかるだろうよ。それが、いいんじゃーねぇーのか?」
新《あらた》が、若者を庇うように前へ歩みでると、ねじ込むかのように琵琶法師に言い寄った。
そして、後ろでは、ジリジリと、前へ歩んでくる、若衆達の姿が。
「あー、それで行こうや!まっ、こっちも、カッとなった若いのがいた訳だから、琵琶法師とやらよ、詫びに、小舟貸してやる。それに、乗って、先に向こう岸へ、渡りな。あとの野郎達は、ちいとだけ、大回りして、荷車運びだ。で、かたは、つくと思うんだがなぁ。どうだろう?そろそろ、手を打たねえーかい?」
船運びの頭が、追い討ちをかけるように、話を進める。
「あー、じゃあ、頭、この小舟で?」
と、頭の配下の若者が、岸に止めている小舟の縄を解き始める。
「よし、さあ、こっちの準備だ、荷車、並べろ。あと、休憩してる人足達を、小屋から、呼んでこい。支度に入るぞ!」
新が、後ろにいる、担架を切った若者の背をポンと押した。
「あっ!へい!頭!準備にはいります!!とりあえず、人足達呼んで来ます」
言って、若者は、走り去った。
「よし、女童子よ。ワシらも撤退じゃ。一端、小屋へ、もどるぞ!」
こうして、互いに、異なる場所で、荷を受ける取ると、強引に決めたのだったが、琵琶法師は、不服そうな顔を見せた。しかし、引き際と、見たのか、はたまた、向こう岸ならば、他人の目を気にしなくて良い、と、読んだのか……、黙って小舟に乗り込むと、自分の手下に、舟を漕がせた。
そして──、新達の休憩場所では、担架を切った若者が、大の字に、伸びていた。
「ヤバかったわーー!!」
「いや、見事じゃったぞ!若者!」
「おお、髭モジャのおっちゃん、ありがとよ!」
「……髭モジャの…おっちゃん……?!」
おっちゃん、と、呼ばれ、どう返して良いのやらと、目を白黒させる髭モジャに、また、彼方から、声がかかった。
「お前様!紗奈は、大丈夫ですかっ!!」
「あっ、橘様!大丈夫です!!」
「あー、良かったわ。本当に、冷や汗ものでしたねぇ」
「女房さん!すまない!あいつらの動き出す刻《とき》を、聞き出せなかった……」
若者は、起き上がると、橘に、見せるかのように、頭を下げた。
「いえいえ、十分ですよ。本当に、あなた様も、よくやってくださいました。で、早速ですが……」
ヨッシャ!と、若者は、橘に返事をすると、顔をほころばせ、紗奈の手を取った。
「紗奈、行くぞ!お前の、出番だ!」