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「暇だなぁ…」私はそうボソッと呟きながら、近所の公園でブランコをこいでいる。ここには人があまり来ないので、暇な時はずっとここにいる。
周りを見渡すと、梅の花が咲いている。所々花が散り始めていて、どこか寂しい雰囲気。もう3月も終わりに近づいている。もうすぐ桜が咲く季節。…梅の花が散る寂しさと、桜の花が見れる事への期待が入り交じっている。
春休みももうすぐ終わる。宿題、終わってたっけ。
あー、自己紹介がまだだったね。私の名前はムギ。その辺にいそうな女子高校生。あまり人と関われない・・・いわゆる「陰キャ」。そんな私にも、1人だけ、唯一楽しく話せる男子がいた。
その人の名前は「レイ」。彼とは小学校の頃からの仲。私と違って、いつも楽しそうにしている。誰と話す時も、顔色一つ変えずに話す。それは高校生になった今でも変わらない。ただ、自傷癖があるようだけど・・・。
(私もあの人みたいになれたらいいのに。)そう考えながら、ボーッと空を見上げて、ブランコをこぎ続ける。しばらくすると、足音が聞こえてきた。(子供かな・・・?)そう思い、足音のする方へ視線を向ける。
「あれ、ムギちゃん!やっほー。」と言いながら、遠くからこちらへ元気に走ってくる人が見える。「走ってくる人」とは言ったけど、あれだけ元気がある人で私の友達なんて1人しかいない。「あぁ、レイ君。キミもここに来るんだね・・・」あまりうまく言葉が出ない自分が凄く情けないと感じる。でも彼は、別に気にする様子もなく、「うんっ!数年前にお散歩してたらこの公園見つけてさぁ。考え事とかする時によく来るんだよね〜。」と、元気に話す。私はちょっと意外に思い、「キミでも考え事とかあるんだねぇ?」と言う。すると、「失礼だねー?ボクだって考える事の一つや二つあるよっ!」と返される。「でも、一つや二つ位しか悩みが無いなら、キミは幸せなんじゃないかな?」「『一つや二つ』って言うのは例え!ホントはたーっくさん考える事あるもん!」「あはは。そっか。」「むぅ・・・」と、普段と変わらない会話をする。
ここまでの会話を聞いた人の中には、ちょっとした疑問を持つ人もいると思う。そう、レイは話し方が子供っぽい・・・というか、なんて言うのだろうか。「ぶりっ子」・・・?と言う方がイメージしやすいかもしれない。その口調のせいで、中学ではよくからかわれていた。
でも、私だって人の事は言えない。よく分からないけれど、周りの人から「上から目線な話し方」だと言われる。別にそんなつもりは無いのだけど、この口調で人から文句を言われるのなら、私は喋らなければいい。・・・だから私は友達をつくらなかった。昔からの仲であるレイ君以外は。
「そんな事より、お隣良いかな〜?」と、レイ君が言う。私の乗っているブランコの隣は金属部分が少し錆びていて、梅の花びらが付いている。「良いけど、ちょっと待ってね。」そう言って、座る部分に付いた花びらを取り除き、「これで座れるでしょ。」と言う。「ありがとね〜。やっぱりムギちゃんって優しいよね〜。」と、レイ君がニッコリ笑顔で言う。「べ、別に優しくなんか・・・」「あっ、ムギちゃん照れてるの〜?」「照れてないっ!良いから座るなら座りなよ!」「はーい。」そして、昔の思い出に浸りながら、2人でブランコをこいだ。私がレイ君に生チョコを作ってあげた時の話、それに対抗しようとして「キャンディ作ってくる!」と言っていたレイ君が、次の日しょんぼりした顔で、私の机に黒焦げになった・・・べっこう飴・・・?的なものを置いた事、レイ君がインフルで学校を休んだ時に私がお見舞いに行ったこと・・・話題は尽きなかった。
気がつくと、もう辺りは暗くなり始めていた。「わわっ!もうこんな時間なの!?話に夢中になりすぎたねー!」と、レイ君が言う。思い返してみると、私も友達と話していて時間を忘れるなんて久しぶりだった。・・・しかも特に久しぶりの再会って訳じゃない相手と。その気になれば、いつでも会えるのに。
「私も帰ろっかな。」そう呟いて立つ。隣のブランコを見ると、さっきまでは無かった物が落ちている。辺りは既に暗く、よく見えなかったため、スマホのライトで照らしてみた。「・・・リボン?」落ちていたのは、紫色のリボン。蝶々結びになっていて、ヘアピンが付いている。少しクシャクシャになっていた。「これって・・・レイ君が落としたのかな・・・?でも、なんでレイ君がリボンを・・・?」・・・確かレイ君の家は性別について厳しく、「男は男らしく、女は女らしく」という考え方だったはずだ。もしリボンを返したら、レイ君の親に見つかって・・・そして・・・深く考えるのはやめとくことにした。家に帰り、夕飯を食べてお風呂に入り、布団に入る。・・・なんとなく、複雑な気持ちになった。
朝を迎える。それと同時に、なんとなく怠さを感じた。そういえば今日は月曜日だったっけ。「早く準備しなきゃな・・・」そう呟いて、さっさと着替えを済ませ、朝食を食べ、学校へ向かった。
「おっはよー!」と後ろから急に声をかけられた。「ひぃあっ!」驚いて変な声が出てしまった。後ろを向くと、レイ君が「ごっごめん!そんなに驚くとは思ってなくて・・・!」レイ君が必死に謝っている。・・・私はふと、彼の額に目を向けた。・・・昨日は付けていなかったのに、ガーゼを付けていた。「いや、別にそんなに怒ってないから良いよ。・・・それより、どうしたの?その額。」と聞いてみた。「・・・額?あぁ、おでこかぁ。・・・昨日、ちょっと階段でコケちゃったんだよね〜。」と返ってくる。「えっ、大丈夫なの!?」と聞くと、「別に大丈夫〜。」と言うので、とりあえずは安心・・・したかった。けれど、私には聞こえていた。「いつもの事だから」と小声で言っていたことを。・・・そして今日、レイ君と話す事はあまり無かった。それに、なんだかため息ばかり吐いているような気がした。その日は何故か、昨日見つけたリボンを渡す気になれなかった。
放課後、私は公園に来ていた。理由は特に無い。だけど、なんとなく来たくなった。
ブランコの所へ行こうとすると、先客がいた。よく見てみると、レイ君だった。「レイ君・・・?」と、声をかけてみた。するとレイくんは、「あぁ、ムギちゃん・・・どしたの〜・・・?」と弱々しく応えた。昨日のレイ君とは別人のようだった。「やっぱりレイ君だったんだね。どうしたのさ。随分と元気が無いようだけど。私でよければ、相談に乗るよ。」「ん〜・・・?全然大丈夫だってば〜・・・」・・・やはり、明らかに昨日と違う。次にかける言葉を脳内の辞書から引っ張り出した時には、彼はもういなかった。
次の日。彼の左腕には包帯が巻かれていた。私は「左腕、どうしたの?」と聞いてみた。彼は昨日より元気が無く、ため息を吐いたあと、「ちょっと怪我しただけだよ・・・」とだけ言い残して去っていった。私は慌てて彼を追いかけた。「ねぇ、お願い。私はキミの事、大切に思ってるんだ・・・。だからさ、話してよ・・・。何か辛いことがあったのなら、私に話してよ・・・。額の傷も、左腕の傷も、自分で付けたんじゃないの・・・?それとも誰かに傷つけられたとか・・・?悩み事があるっていうのは私もわかってる。この前聞いたから。だからさ、詳しく教えて。自分を傷つけても、何も解決しないんだよ・・・?」
私は気がつくと、泣いていた。そんな私を見て、レイ君は、ただただ困った顔でこちらを見る事しか出来なかった。
「私の大切な友達、レイ君が悩みを打ち明けてくれますように。」これが、私の願い。大切に想う人への、最大の願い。