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その時 ドアがノックされました
一人の若い職人さんが
汚れた手を布で拭きながら
おばちゃんとキラリのいる事務所に入ってきました
灰色の作業服のズボンがちんちくりんで
長身のこの人はまだ若く最近知り合いのつてで
この工場に入ってきた新人さんでした
そんなことが分かるぐらいキラリはこの工場に
精通していたのです
喧嘩っぱやそうな雰囲気の職人さんは
ソファーに座っているキラリをギロリと
睨み付け
場違いなキラリに出て行けと言わんばかりでした
「この子は何もわかりまへん
ほっといたらよろしい 」
その一言でキラリはまだここにいてもいいのだと
思ったので出ていくのをやめました
それにもうすぐ陽子も帰ってきます
キラリはじっと石のように動かず
気配を消そうとしていました
「今朝 研磨担当の一人が
飛んできた金属の破片でひどく顔を切りました
病院へつれていかなければいけません 」
低い声で若い職人がおばちゃんにいいました
「あの子は午前中から病院に行くと
いそいそと早退しましたえ?
知り合いが2丁目のお好み焼き屋で見たと報告してくれてね
サボれるぐらいだから
たいしたことなくてよかったと
安堵していた所ですわ
おかげで納期を間に合わせるために今夜は
社長は徹夜せなアカンようになりましたな 」
完璧に出鼻をくじかれたような
その職人はまだ何か言いたそうでした
14歳のキラリが見ても分かるように彼は
おばちゃんに不満を持っているようでした
若い職人は両手を広げて言いました
「従業員が怪我をしたんですよ!
全員がゴーグルをつけるべきです!!
ゴーグルの購入をしてください 」
メガネをずらし
椅子をクルッと回転させ
初めておばちゃんはその職人をまともに見ました
「金属加工には危険が付きものです
お前さんの給料明細には
「危険手当」というものが付いとりますやろ
なんならここでお前さんの明細を読み上げても
よろしいんでっせ! 」
あきらかにムカついた顔をしている
職人はまだ食い下がります
「それじゃゴーグルを全員がつける時は
いつなんですか? 」
「金属加工歴40年のわてが失明した時でしょうな
ゴーグルは自分の給料で買いなはれ 」
喧嘩っぱやい職人が踵を返して
事務所を出て行こうとした時
おばちゃんが呼び止めました
「ああ・・・・
お前さんは今月もう5回も遅刻してますな
次からは給料から引かせてもらいますから
よろしいですな 」
「道路が渋滞するんですよ! 」
「だったら 家を早めに出たらよろしい!」
「そうしたら
渋滞がない時には早く着くじゃないですか!
就業時間より早く仕事をするなんてゴメンですよ! 」
バタンとドアを勢い良くしめて
若い職人は去って行きました
ふーっとため息をつき
おばちゃんは
読んでいるフリをしていた書類を机にほおリなげました