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三人でのランチは、半年おきくらいに史子か美佳から予定伺いのメッセージが流れて、日程が決まる。
だが、今回は三週間後に招集がかかった。
飲み会の報告をしたいのだろう、と思ってはいたが、当たっていた。
「美佳ね、お持ち帰りされちゃったの!」
「へぇ……」
美佳が小指を立ててコーヒーのカップを持つ。
「ね、美佳。あの彼とは連絡とってる?」
「うん」
「じゃあ、ヨかったんだ!?」
「うん……」
「久しぶりだったんでしょ? 痛くなかった?」
「全然! なんか、すっごいすごかった」
「きゃーっ! 良かったねぇ!」
史子のはしゃぎようと、美佳の嬉しそうな表情にドン引きしながら、私も微笑んだ。
二十年前ならいざ知らず、四十二にもなって、と思ってしまうのは私の僻みだろうか。
「やっぱりさ! 女の悦びって男に愛されることよね」
愛……なの? 初対面の女とセックスするような男が? そんなのもってる?
わからない。
そもそも、素性もわからない男とヤるって、危なくないのか……?
セフレはもちろん、ワンナイトでセックスした経験もない私だから、そう思うのだろうか。
「奥さんともこんなにヨかったことないって、言われちゃった」
本人が幸せなら、まぁいいのか。
「昨日もね? 急に会いたいって言われたんだけど、さすがに無理で。そしたら、いつなら会える? ってすごい聞かれて」
「きゃーっ! それで? 次の約束したの?」
「うん。明日」
「平日に出られるの?」
私が聞く。
「それがね。どうしても会いたいからって、仕事の合間に時間作ってくれるって」
「昼間?」
「うん。営業だから、大丈夫って」
「へぇ……」
「え、じゃあ、ホテル直行?」
史子が目を輝かせて聞く。
「うん。あんまり時間がないから、ホテルで待ち合わせ」
それって、完全にヤリ|目《もく》では……?
不倫に目を輝かせ、胸を高鳴らせて女の悦びを語る友人二人が滑稽に見えた。
もちろん、そんなことは言えない。
「ねぇ、旦那さんにバレたらどうするの?」
愛されていると浮き足立っているが、バレて離婚だの慰謝料請求だのと騒ぎになったらどうするのか。
二人には子供もいて、もう不倫の意味も分かる年齢だ。
余計なお世話だが、二人の会話から覚悟のようなものが感じられない。
案の定、史子と美佳は私の問いに笑った。
「バレないよ。旦那は昼間嫁が何してるかなんて興味もないし、バレようがないんだから」
「そうそう。うちなんか夜出かけても行き先も聞かれないし」
「そ……っか」
「あ! 私もう行くね。明日着る服を買いに行きたいから」
「私も一緒に行こうかな」
美佳が立ち上がり、史子が続く。
「私は帰るね。銀行とか寄らなきゃだし」
誘われる前に、言った。
「そう? じゃ、またね!」
スキップでもしそうな足取りで店を出て行く二人の後ろ姿を眺めながら、私は冷めきったコーヒーを飲み干した。