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わたしはそんな楸先輩の顔をまじまじと見つめながら、
「気付いてなかったんですか?」
訊ねると、楸先輩は「う~ん」と口元に指をあて、考えるようなしぐさを見せる。
「……そんな気もしますし、違うような気もするんです」
「どういうことですか?」
「そうですね。夢って、普通は見ている人間の無意識が見せているんだと思うんです。それゆえに、ある程度自分の思った通りに操作することができる。良い方にも、悪い方にも。もしこの夢が本当に私の夢であるなら、私の望んだとおりになるはずだと思うんですよね。けれど、そんな感じが全然しないんです。私だって、早くこんな真っ暗な夢から覚めてしまいたい。それなのに、全然外に出られないんです。だからたぶん、これは私以外の誰かの夢で、その所為で夢の中に閉じ込められてしまっている、そんな気がするんです」
「誰かって、誰なんですか? 心当たり、ないんですか?」
わたしの言葉に、楸先輩はしばらく思案してから、
「……ないですね、全然」
と首を横に振った。
「ここが学校ってことを考えると、たぶん、学校内での関係者になるはずです。だとすれば、なっちゃんかイノクチ先生の夢ってことになると思うんですけど……」
「けど?」
「散々校内を探し回って見つけたのは、あなたたちだけでした。どこにもなっちゃんやイノクチ先生の気配なんてないんですよ」
そこでユキが首を傾げながら、
「なっちゃん?」
と口を挟んだ。
楸先輩は「あぁ」と小さく口にして、
「榎夏希。三年生の先輩で、私たちと同じ魔女です」
「魔女って、そんなにたくさんいるものなの?」
「はい。少なくとも、この近辺だけでも五、六人はいるはずですよ。結構多いですよ、魔法使いって」
「それ、ほんとなの、アオイ……」
そんなこと聞かれたって、わたしもそこまで詳しく知るはずもない。
確かにおばあちゃんやお母さんの知り合いである魔法使いは何人かいるけれど、実際世の中にどれほどの人数、魔法使いや魔女が存在しているかなんて、知るはずもない。
特にうちの家では魔法使いのことは信用するなと教えるくらい、横のつながりが乏しい環境に育ってきたのだ。
この近辺にどれだけの魔法使いや魔女が住んでいるのか、そんなの全然わからない。
答えに困り首を傾げるわたしに、楸先輩が代わりに口を開いた。
「まぁ、とにかく、早くこんな夢から覚めましょう。どこかに夢の主がいるはずですから、その人を早く見つけないと」
「その人を見つけたら、わたしたち、目が覚めるってことですか?」
「恐らく」
断定ではないその言葉に、わたしもユキも、思わず顔を見合わせる。
互いに小さくため息を吐いて、
「わかりました」
「じゃぁ、早く見つけようよ、その夢の主とやらを」
そう答えると、楸先輩は大きく頷いて、
「では、行きましょうか」
言ってくるりと華麗に半回転して、
「――ひっ!」
小さく跳びあがるように、悲鳴を上げた。
果たして楸先輩の目の前に立っていたのは。
「――っ!」
「な、なに、コイツ……!」
楸先輩によく似た姿の。
「ちょ、ちょっと、何なんですか、この人!」
「そ、そんな」
「ちょっと、なによ、あの顔」
顔に渦巻く闇を貼りつけた。
「わ、私ですか? 私ですか、コレ!」
「なんで、どうして……」
「な、なんなの? ねぇ、何なのコイツ!」
ふらふらとこちらに向かって歩み寄る。
「ど、どう見ても私じゃないですか!」
「――そんな――いやぁ!」
「あ、アオイ?」
夢魔の姿が、そこにはあった。