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第4話: 【路上ライブ】異世界で歌ってみたらコメントが凄すぎて草w
村の朝は、まだ少しぎこちなかった。
昨日、リクが身近な物を叩いて魔物を倒した。
洗面器も、鍋ぶたも、木の棒も、叩けば力になった。
それは頼もしかった。
けれど村人達は、まだナギ達を完全には信じていない。
急に現れた転生者。
変な能力。
転生タイムライン。
何が起きているのか、誰にも分かっていなかった。
ナギは広場の端でスマホを見ていた。
転生タイムライン。
路上ライブ
投稿傾向
歌
路上ライブ
自己顕示欲
笑顔拡散
ナギは最後の言葉で目を止めた。
「自己顕示欲……」
ロッカが横から画面をのぞく。
「何だ、それは」
ナギは少し考えた。
「見てほしい気持ちが強すぎる人、かな」
リクが洗面器を抱えて近づく。
「目立ちたい人っすね」
ロッカは眉を寄せた。
「戦場で目立つ奴は危ない」
「まだ戦場って決まってない」
「この流れで平和だと思うのか」
ナギは答えなかった。
遠くで、子どもが泣いていた。
昨日の魔物騒ぎで、家の壁が壊れたらしい。
けが人は少なかったが、不安は残っている。
村人達の顔は暗かった。
広場に人はいる。
でも声が少ない。
鍋を運ぶ音。
木材を置く音。
ため息。
その中に、突然、軽い足音が混ざった。
たん。
たん。
たん。
そして、派手な声。
「はい注目! 今、私が来ました!」
広場の真ん中に、ひとりの少女が立っていた。
紫の上着。
前髪の派手なピン。
手にはマイクみたいな道具。
少女は誰よりも大きく手を広げた。
「どうも! 歌瀬マヒロです! 路上ライブやってました! 拍手と視線が主食です!」
ロッカが短剣に手を置いた。
「主食?」
マヒロは胸を張る。
「見られると元気になります」
ナギは小さくつぶやいた。
「自己顕示欲の塊だ」
マヒロは聞こえていた。
「そうです! 私、見られたいです! 褒められたいです! できれば毎秒拍手されたいです!」
リクが目を輝かせる。
「いいっすね」
ロッカが即座に言う。
「よくない」
マヒロは広場をぐるりと見た。
村人達の暗い顔。
泣いている子ども。
片づけをする大人。
壊れた木の柵。
転がった荷物。
彼女の笑顔が、一瞬だけ止まった。
けれどすぐに、さらに大きな笑顔を作った。
「なるほど。つまり今、私の出番ですね」
ロッカが前に出る。
「勝手に騒ぐな。みんな疲れている」
マヒロはマイクを握ったまま言った。
「疲れてる時こそ、歌がいるんです」
「目立ちたいだけだろ」
「それもあります」
即答だった。
ナギは思わず顔を上げた。
マヒロは堂々と言った。
「私、見られたいです。拍手されたいです。名前を覚えてほしいです。すごいって言われたいです。でも、どうせ見られるなら、泣いてる人の前で歌いたいです」
ロッカは少し黙った。
ナギのスマホが震えた。
能力名
路上ライブ・スマイルステージ
効果
歌声を聞いた人の不安をやわらげ、笑顔を引き出す。
補正
注目度。
拍手。
本人の自己顕示欲。
誰かを元気にしたい気持ち。
注意
自分だけ目立とうとすると効果が乱れます。
ナギは画面を見た。
「自己顕示欲も補正に入ってる」
マヒロは笑った。
「ほら、私の欲、無駄じゃない!」
ロッカは低く言った。
「乱れるとも書いてある」
マヒロは少しだけ目をそらした。
「そこは、気をつけます」
広場の真ん中に、マヒロは立った。
足元には何もない。
舞台もない。
照明もない。
観客も、最初はほとんどいない。
それでも彼女は、そこを自分の場所にした。
マイクを握る。
息を吸う。
声を出す。
最初の音は、思ったより小さかった。
けれど、まっすぐだった。
壊れた柵の横で、子どもが泣き止みかける。
荷物を運んでいた男が手を止める。
水をくんでいた女性が振り向く。
マヒロは歌った。
今日がこわれても
声は残る
泣いてもいいよ
でも一人じゃないよ
リクが小さく、洗面器を指で叩いた。
ぽん。
ぽん。
ぽん。
その音が、歌の足元を支える。
マヒロは目を輝かせた。
「いいね、伴奏!」
リクが笑う。
「合わせるっす」
マヒロの声が広がる。
村人達が少しずつ集まる。
でも、マヒロはすぐに調子に乗った。
「さあさあ皆さん! 見てください! この異世界初ライブ! 歌瀬マヒロ、ここに降臨!」
ロッカが眉を寄せる。
「余計なことを言うな」
その瞬間、歌の光が少し揺れた。
集まりかけた村人の中に、困った顔が混ざる。
ナギのスマホに文字が出る。
効果乱れ
原因
自己注目過多
マヒロは画面を見て、固まった。
「自己注目過多……」
ナギは言った。
「自分を見てほしい気持ちが強すぎると、歌が自分だけに向いちゃうんだ」
マヒロは唇を噛んだ。
「でも、見てほしい」
その声は小さかった。
さっきの派手な声ではなかった。
「見てほしいんです。現実でも、ずっと歌ってた。人が通り過ぎても歌った。誰も止まらなくても歌った。たまに一人が拍手してくれたら、その日ずっと生きられる気がした」
リクの手が止まる。
ロッカも何も言わなかった。
マヒロはマイクを握りしめた。
「だから、見てほしいって気持ちは消せない」
ナギは言った。
「消さなくていいんじゃない?」
マヒロが顔を上げる。
ナギはスマホをしまった。
「見てほしいなら、見てもらえばいい。でも、見てもらった分、誰かを見るんだと思う」
マヒロは黙った。
泣いていた子どもが、まだ広場の端にいた。
小さな手で、壊れた木の人形を持っている。
マヒロはその子を見た。
今度は、広場全体に向けてではなく、その子に向けて少ししゃがんだ。
「ねえ」
子どもはびくっとした。
マヒロは声をやわらかくする。
「私、すごく目立ちたい人なんだけど」
ナギは小さく笑いそうになった。
マヒロは続ける。
「今だけ、あなたのために歌ってもいい?」
子どもは小さくうなずいた。
マヒロは歌った。
こわれたものを
すぐ直せなくても
だいじだった気持ちは
ここに残る
なくした顔で
立たなくていいよ
泣いた目でも
前を見ていいよ
歌が、今度は揺れなかった。
小さな光が、子どもの足元から広がった。
子どもが木の人形を抱きしめる。
涙は止まらなかった。
でも、口元が少しだけ動いた。
泣きながら、笑った。
その瞬間、広場の空気が変わった。
村人達が静かに手を叩いた。
最初は一人。
次に二人。
それから、何人も。
ぱち。
ぱち。
ぱち。
マヒロは目を見開いた。
拍手。
視線。
注目。
彼女が欲しかったもの。
でも今は、少し違って聞こえた。
自分を飾る音ではない。
誰かの胸が少し軽くなった音だった。
マヒロは深く息を吸った。
「もう一曲、いいですか」
ロッカは短く言った。
「短くしろ」
マヒロは笑った。
「はい!」
リクが洗面器を構える。
ナギが広場を見る。
村人達の顔が、ほんの少し上がっている。
マヒロは歌い出した。
今度は、村全体へ。
でも、自分だけを見てとは言わなかった。
見て。
私を見て。
それと同じくらい、隣の人も見て。
今日ここにいる人を、ちゃんと見て。
そんな歌だった。
歌声が広場を包む。
リクの音が跳ねる。
桶が小さく合いの手を入れる。
「聞けてえらい!」
村人達が笑う。
子ども達が手を叩く。
壊れた柵を直していた大人が、少しだけ肩を揺らす。
ロッカは腕を組んだまま、遠くを見ている。
でも、顔はさっきより険しくなかった。
ナギはスマホを見る。
能力安定
効果拡大
街中笑顔化
ナギは目を上げた。
広場だけではなかった。
歌は通りへ流れていた。
石畳の道へ。
市場へ。
水くみ場へ。
壊れた倉庫の前へ。
まだ不安そうにしていた人々のところへ。
歌声が届くたび、誰かの表情が少しだけゆるむ。
完全に元気になるわけではない。
壊れたものが直るわけでもない。
でも、手が動き始める。
声が戻る。
誰かが誰かに声をかける。
「大丈夫?」
「手伝うよ」
「少し休もう」
「水、持ってきた」
街中に、小さな笑顔が増えていく。
マヒロは歌いながら、それを見た。
自分に向けられる視線だけではない。
人から人へ移る視線。
手から手へ渡る声。
笑顔から笑顔へ続くもの。
マヒロの目が少し濡れた。
けれど、歌は止まらなかった。
最後の音が広場に落ちた時、村人達は大きく拍手した。
マヒロはその真ん中で、両手を広げた。
「ありがとうございます! もっと褒めてもいいですよ!」
ロッカがため息をつく。
「そこは変わらないのか」
マヒロは胸を張った。
「変わりません! 私は目立ちたいので!」
ナギは笑った。
「でも、さっきよりいい目立ち方だった」
マヒロは少し照れた。
「そう言われると、かなりうれしい」
桶が言った。
「目立ってえらい!」
リクが続ける。
「歌ってえらいっす」
マヒロは満面の笑みになった。
「もっと言って!」
ロッカが言う。
「調子に乗るな」
マヒロはすぐに手を合わせた。
「はい。でも少しだけ乗らせてください」
村人達が笑った。
その笑いは、昨日までの村にはなかったものだった。
夕方。
広場には、小さな木の台が作られた。
カイが簡単に組んだものだった。
マヒロはそれを見て目を輝かせた。
「ステージ!」
ロッカが言う。
「避難の邪魔にならない大きさだ」
「それでもステージ!」
マヒロは台の上に立った。
少し高いだけなのに、嬉しそうだった。
ナギはその姿を見ていた。
自己顕示欲の塊。
たしかにそうだった。
見られたい。
褒められたい。
拍手されたい。
自分を覚えてほしい。
でも、その欲が全部悪いわけではなかった。
誰かの前に立つには、見られたい気持ちがいる。
声を出すには、自分を出す勇気がいる。
それが誰かの方を向いた時、歌は力になる。
スマホが震えた。
転生タイムライン。
路上ライブ
映像には、マヒロが広場に現れる場面。
自己顕示欲全開で名乗る場面。
歌の力が乱れる場面。
泣いている子どものために歌う場面。
そして街中に笑顔が広がる場面が映っていた。
コメント欄が流れる。
マヒロだ!
自己顕示欲強すぎて笑った。
でも歌うまい。
見てほしい気持ちが人を元気にするのいい。
ナギの言葉よかった。
リクの伴奏もいい。
ロッカ、少し笑ってない?
ロッカは画面を見て顔をしかめた。
「笑っていない」
ナギは言った。
「少し笑った」
「笑っていない」
桶が言った。
「笑いそうでえらい!」
ロッカは桶から目をそらした。
マヒロはコメント欄を見て、両手を握った。
「見てるんだ」
ナギはうなずいた。
「現実世界の人達も見てる」
マヒロは画面に向かって笑った。
「見てくれてありがとう! もっと見て!」
ロッカが言う。
「欲が強い」
マヒロは振り返った。
「でも、今度はちゃんと誰かを見るから」
ロッカは少し黙った。
それから短く言った。
「なら歌え」
マヒロの顔がぱっと明るくなった。
夜。
村の通りに、小さな明かりが並んだ。
マヒロは木の台に立ち、リクは横で洗面器を構える。
ナギは少し離れて座っていた。
ロッカは見張りの位置にいる。
村人達が集まる。
子ども達もいる。
朝、泣いていた子どもは、壊れた木の人形を抱えたまま前に座っていた。
マヒロはその子に向かって小さく手を振る。
それから、全員へ向けて言った。
「私は目立ちたいです」
村人達が少し笑う。
マヒロは続ける。
「でも今日は、みんなが少し笑えるまで歌います」
リクが軽く叩く。
ぽん。
ぽん。
マヒロの声が夜に広がる。
昼より静かな歌だった。
疲れた人を起こす歌ではない。
眠る前の胸をあたためる歌。
村はゆっくり静かになっていく。
不安が消えたわけではない。
明日も壊れた柵を直す。
魔物が来るかもしれない。
転生タイムラインはまた次の投稿を準備する。
でも、その夜だけは、歌があった。
誰かに見てほしい人が、誰かを見るために歌っていた。
ナギはスマホを閉じた。
通知はまだ来ない。
けれど、次が来る気配はあった。
転生タイムラインは止まらない。
でも、今は少しだけ休める。
歌が終わる。
拍手が起こる。
マヒロは深く頭を下げた。
そして顔を上げる。
「明日も見に来てください!」
ロッカが言った。
「毎日やる気か」
マヒロは当然のように言った。
「目立ちたいので」
ナギは笑った。
リクも笑った。
村人達も笑った。
桶が言った。
「目立ちたくてえらい!」
マヒロは満足そうに胸を張った。
夜の村に、久しぶりの笑い声が残った。
それは大きな勝利ではない。
けれど、確かに誰かを救った音だった。
bouton
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しめさば
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コメント
1件
いやもうもうもう、マヒロちゃん最高かよ!!😭💕 自己顕示欲の塊って言われてたのに、泣いてる子の前でしゃがんで「あなたのために歌ってもいい?」って…その切り替え、ズルすぎるでしょ!!💘 最初の「私が来ました!」から最後の「明日も見に来てください!」まで、全部がエモかった。しかもリクの洗面器伴奏がいい味出してて、桶まで「えらい!」って言い出すの笑ったw 自己顕示欲って悪いだけじゃないんだなって思えた回だったよ…✨ 最高の路上ライブ、ありがとうマヒロ!!!