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拓人に抱かれた翌日から、瑠衣は早速娼婦としての研修を受け始めた。
講師を招き、午前中は基礎からみっちりとマナーや話術を学び、この日の午後は、凛華に付き添ってもらい、産婦人科で性病の検査を受けた。
『結果は一週間後にわかります。来週、検査結果の書類を発送しますので、よろしくお願いします』
『わかりました。ありがとうございました』
瑠衣と凛華は、産婦人科を後にし、娼館へ戻った。
研修漬けの二週間が終わりに近付き、検査結果も問題無しで安心していたところで、最終日、凛華が瑠衣を部屋に呼び寄せた。
『瑠衣、研修お疲れさま。明日からあんたは娼婦としてデビューする。これは私からのプレゼントだ』
手渡されたプレゼントを開封してみると、瑠衣のために誂えたシルクのドレスだ。
背中が大きく開いていると思われる艶やかなグレージュのミモレ丈のドレスに、瑠衣は思わず笑顔を零した。
『オーナー…………ありがとうございます……』
『ドレスは娼婦にとって仕事着だからね。遠慮しないで受け取って。ああ、それから、ここの娼婦は通称というか源氏名で名乗っているんだけど……瑠衣は何か考えてる?』
瑠衣の頭の中に、不意に浮かんだ偉大な作曲家、モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク』。
音大上がりの瑠衣は音楽に因んだ源氏名にしようと考えていた。
『ならば、『愛に音』と書いて『あいね』と名乗りたいです』
『わかった。では明日から瑠衣は『愛音』だね』
こうして、瑠衣は娼婦としての一歩を踏み出していったのだった。
***
「…………愛音? 愛音ったらまだ寝てんの? そろそろ夜の部が始まるから、支度しないと」
凛華がいつしか部屋に入り、瑠衣の身体を揺らしながら起こす。
「あ、凛華さん、すみません……すっかり爆睡してました」
「今夜は初めてのお客さんが来るから、十九時に玄関ロビーへ集合だよ」
「はい。すぐに支度します」
オーナーが退出すると、瑠衣は『愛音』になるべく、ドレッサーの前に座った。