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「あの子ってめっちゃ男子に媚び売ってるよね」
「そこまでして好かれたいとか必死すぎない?」
1番最初にいじめられるようになったのは小学5年生の終わりごろ。
それまで仲が良かった子たちから無視されるようになったのが始まり。
面白半分でいじめに加わった子、その場のノリでいじめに加わった子、自分が次の標的にされたくなくていじめに加わった子。参加者は段々と膨れていって、クラスの大半の子がいじめに参加することになってしまっていた。
クラスメイトたちからのいじめはドラマやアニメでよく見るようなものとは違い、比較的静かなものだったせいか5年生から6年生まで続いたそのいじめは先生や大人には一切気付かれなかった。当たり前のように繰り返される無視や時折吐き捨てられる「死ね」、「最低」という暴言だけが、しんしんと教室の中でポツンと孤立していた私の心の中に降ってくる。
それでもいじめの枠から外れているクラスメイトもいじめられている私自身も、いじめのことを大人たちに言うことは無かった。
クラスメイトたちは次のいじめの標的にされたくなかったから。私はこれ以上いじめが酷くなることを恐れたから。どちらにしろ、いじめが無くなるなんてことは誰も思わなかった。
どうせ誰にも気付いてもらえない。
そう思っていたのに。
「オマエいじめられてンの?」
『えっ?』
突然、何の突拍子もなく同じシセツのイザナくんにそう問われたときはあまりの驚きに声が裏返ってしまった。
まだランドセルを背負っていた時のイザナくん。耳にいつもつけている花札のピアスも見当たらなければ、今のようなセンター分けではなく目にかかりそうなほどの長さの白髪。幼さの刻まれた褐色の肌の口角は僅かに上がっている。
『な、なんで…?』
毎日顔を合わせている担任の先生も気づかないほどのコソコソとしたいじめに隣のクラスのイザナくんが気づいたということの理解が追い付かず、稲妻のような迅速な驚愕を表すように目を大きく見開ける。胸の皮膚に眠っている心臓がドキドキと大きく跳ねあがっているのが分かる。
「移動教室のとき聞こえた」
そんな私を気にも留めず、酷く淡々と言葉を紡ぐイザナくんは感情のはっきりしない複雑な表情を浮かべていたせいで何を思ってそう私に告げたのか全く分からなかった。
だけど何か言い訳しなくてはと変に慌てる私の姿を見て、イザナくんはニヤリと怪しく笑うと、薄い唇で言葉を作った。
「なあ、」
「オレが守ってやろうか。」
変声期前の少年特有の甘くて優しい声が私の鼓膜の中に入り込み、どこか歪な含みをもったそれは頭の中でまとわりつくような軟らかく湿った声に変わる。
『…まもる?』
自信ありげににっこりと笑うイザナくんを見つめ、掠れた声で問い返す。
どうして違うクラスのイザナくんがそこまでしてくれるのか。
同じ屋根の下で暮らしていて、仲は悪かったわけじゃないけど特別良かったわけでもなかった。1日に1回は喋る程度の、そんなはっきりとしない曖昧な仲。
そんなイザナくんが私を守ると言ってくれたのは同情なのか、哀れみなのか、はたまた気まぐれなのか。ただただ疑問だった。
だけどその言葉通り、イザナくんはいつも私を守ってくれた。
悪口を言われたらそっとさり気なくそのクラスメイトたちから遠ざけてくれた。
教科書や上履きを隠されたら見つけてくれたし、私が耐え切れずに泣いてしまった時は傍に居て話を聞いてくれた。
でも中学はイザナくんが居なかったから大変だった。
無視から暴言へ、暴言から暴力へ、暴力から物隠しへ。
止めてくれる人が居なくなったいじめはどんどん勢いを増していき、私を見つめるクラスメイト達の歪んだ嘲笑は刻みつけられでもしたように動かず、不安が絶望の風船を膨らませる毎日に殺されかけたことが何回かあった。死のうと思ったことも何回もあった。
どれだけイザナくんに頼りっぱなしだったのかがすぐに理解出来てしまい、罪悪感が絶望の風船を膨らませ、朝起きるたびに胃が削られるように痛んだ。
そんな地獄のような3年間を過ごして、少年院と呼ばれる場所から帰ってきたイザナくんと再会できて、無事高校へ進学できた。
高校での生活は最初の頃は良かった。
「おはよう」と喋りかけたら嘘偽りのない笑顔で「おはよう」と返してくれるクラスメイトも居たし、忘れ物をしたら貸してくれる友達も居た。
初めてイザナくん以外に向けられる優しい視線や、初めてイザナくん以外の人に向けた皮膚が輝き出すような柔らかい笑顔の強張りは今でも深く覚えている。
でも、本当に最初だけだった。
いつものようにおはようと告げただけだったのに。
途端、教室の空気が一瞬で刃物のように光り出し、空気が油のように重く淀むのを感じた。
もう慣れたその雰囲気の一変に皮膚に滲み出た冷や汗が雨のしずくのように光る。
「…またいじめられちまったな?」
そんななか、イザナくんだけが私に喋りかけ、笑いかけてくれた。
続きます→♡1000