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皇后の席に座っていたモナが立ち上がり、顔を真っ赤にしてぶるぶると震えている。
メリーティアはケイリクスの腕にわざとなまめかしく手を絡ませ、彼女を挑発するように笑みを浮かべた。
首をかすかに傾けると、クラウンについたティアドロップがしゃらりと揺れる。
ドレスも、首飾りも、耳飾りも、クラウンに至るまで、メリーティアが身に着けているもののほうが明らかにモナより輝きを放っていた。美貌も例外ではない。
そして何よりもケイリクス自らエスコートして入場したというのが、モナの逆鱗に触れたようだ。
――これではまるで、あの女のほうが皇后のようじゃない!
そんなモナの怒りがメリーティアには手に取るようにわかる。
出席した貴族もケイリクスの顔色を窺い、きっと今後はメリーティアを皇后のように扱うだろう。
なぜならメリーティアの姿を見れば、このうえなく寵愛されているのが見てとれるからだ。貴族からしてみれば、皇后よりも皇帝を立てるのが当然であった。
(もっと怒りなさい。もっと憎みなさい。もっと、もっと、わたしを殺したいと思うくらいに)
メリーティアは瞳に力を込め、さらに笑みを深めた。
「頭を上げよ。皆、今宵は余のために集まってくれて感謝する」
ケイリクスの掌に指先を乗せ、大階段を下っていく。
ホールの中央にスペースが開けられ、ふたりだけの舞台が調えられた。
距離をとり、ケイリクスが先に優雅に礼をする。それに応えるメリーティアは膝を曲げて腰を深く落とし、会釈するように身体を下げた。
ホールドを組むと、合わせるようにオーケストラが音楽を奏でだす。
「とうとう余の夢が叶った。そなたと踊るワルツはなんて楽しいのだろう……想像以上だ。何曲だって踊っていたい」
ドレスを翻し優雅に踊るメリーティアの姿は息を呑むほど美しい。そしてしっかりとリードするケイリクスも指先に至るまで洗練されており、まさに完璧であった。
ふたりのダンスに皆が感嘆のため息をつく。
「皇帝陛下がダンスをするなんて、いつぶりかしら……?」
「もう何年も見ていないわ。あぁ……なんて素晴らしいの」
ケイリクスは貴婦人たちのうっとりとした声も耳に入っていない様子だ。
唇が触れそうな距離まで近づいては離れて、けれどずっと視線は絡め合わせたままのふたりは、どこからどう見ても相思相愛だろう。
「みんな陛下を見ているわ」
「余はそなたしか目に入らない」
「まあ、うれしい」
「そなたこそ余所見はしてくれるな。……今も男たちがそなたを獣のような目で見ている」
「……こんな目?」
からかうようにケイリクスの目元に触れると、彼は「そうだ」と破顔した。
踊りながら睦まじそうに話している光景は微笑ましく、物語のワンシーンのようだろう。
しかし一方で、ふたりを守るように距離を保って佇むグウェンダルの姿を目にした人々は、噂話にも花を咲かせた。
ケイリクス直々の命令で、元婚約者であるメリーティアの護衛騎士になったグウェンダル――という構図はゴシップ好きな貴族の興味をそそるのだ。
それから誰もがモナを見上げ、その瞳が業火の如く燃えているのに気づくとサッと目を逸らしていた。
彼らは、ケイリクスが公の場にメリーティアをパートナーに伴って現れた真意について、将来的に皇后に据えるつもりがあるという意思表示だと考えるだろう。
そうなると、モナの立場はどうなるのか。貴族たちの興味関心を最も集めるのはその部分だ。
息子のヨハンセンが廃嫡され、すでにモナの足場は揺らいでいる。
モナはヴェドニア帝国の公爵家出身だが、どちらかと言えば独裁的なケイリクスにはそんなこと微塵も関係ない。今は貴族の意見にも一見穏やかに耳を傾けているが、いつ恐怖で押さえつけるような暴君に変貌するかわからない恐ろしさが彼にはあった。
だがモナも苛烈な性格で知れ渡っている。
このまま大人しく見過ごすはずがないことを、誰もが予感しているだろう。
曲が終わり、互いに礼をする。
メリーティアがスッと手の甲を差し出すと、ケイリクスはわざわざ片膝をついて指先に口づけた。
顔を真っ赤にしたモナが退場していくのを横目に見て口端を緩める。
どうやらモナの神経を逆撫ですることには成功したようだ。
「ふっ、そなたも嫉妬のようなものをするのだな」
「あらいけませんか?」
「いいや、かわいらしいよ」
モナを煽ることが目的だったため、彼女がいなくなってしまってはこれ以上パーティーに参加する理由がない。メリーティアは離宮へ帰ることを促した。
皇帝の生誕パーティーともなれば、当然ハイゼンベルグ領から両親が来ている。
今はタウンハウスに住んでいるというマイルズもユージーンの補佐官として参加していたが、メリーティアはわざと彼らと目を合わせないようにした。
数々のゴシップの中心となり、そのうえ皇帝の情婦になるなど、合わせる顔がない。
メリーティアがモナを蹴落として皇后になることを、手放しで喜ぶような人たちではなかった。
元気そうにしているのを遠目から見られただけでじゅうぶんだ。
メリーティアは小さく微笑むと、ケイリクスにエスコートされホールを去るのだった。
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鬼霧宗作
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