テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『お前…………正気か? 後悔…………しないか……?』
『ああ。前々から考えていた事だ。これは、廉にしか頼めない事だし、俺は、後悔はしない』
スッパリと言い切る友人に驚きつつ、拓人は思い出したように言葉を綴っていく。
『あと、あの女にスマホを持たせた。個人情報だから勝手に漏らすな、と言われているが、廉には、あの女の番号を教えておく』
『…………分かった。教えてくれ』
彼は、傍らにあったメモ用紙とペンを取り、優子の携帯番号を走り書きした。
『廉。俺も、お前にこんな頼み事をするのは、筋違いだという事も重々分かっている。だが、お前しかいないんだ。頼む……!!』
縋るような、祈るような拓人の声に、廉は、思いを張り巡らせながら口を噤んだ。
『…………分かった。胸に留めておく』
やっとの思いで返事をした廉は、眉根に皺を寄せながら、優子に想いを馳せた。
『…………本当に…………すまない……』
苦悶に満ちたような掠れ声で謝罪する友人に、彼の中にあった、わだかまりが、ゆっくりと溶けていく。
『彼女は…………元気なのか? 一緒にいるんだろ?』
『ああ。元気だ』
『…………そうか。帰り、気を付けろよ』
友人も、思う事は色々あったのだろう、と思うと、自然と唇が緩む廉。
『ああ。じゃあ……な。…………また……連絡するよ』
廉は何気なく通話終了のアイコンをタップしたが、結局、これが拓人と交わす最後の言葉となってしまった。
***
廉の話をひと通り聞いた優子の瞳から、雫が溢れていた。
「アイツ…………もう……何なのよ……」
彼女は両手で顔を覆い、肩を震わせながら啜り泣いている。
「俺が思うに…………アイツは、どこかで、自分の死期を悟っていたのかもしれない。だから俺に……全てを…………託してきたんだと思ってる」
廉の言葉が優子の心の奥に、重くのし掛かった。
あの男が、そこまで自分に対して深い想いを持っていたなんて……。
こちらが勘違いしそうな、思わせぶりの言動が、逃避行中によく口から出てきた、とは感じてはいたけど、全て、男の本心だったとは思いもしなかった。
いや、本心かもしれないと思いつつ、その想いを受け止めるのが怖かったのかもしれない。
(もっと…………アイツと……ちゃんと向き合えば良かったのに……私は……アイツの気持ちを……はぐらかして逃げて……)
こんな事、廉の前では言えないけど、優子の中に、猛烈な後悔が襲い掛かり、瞳の奥がピリピリと痺れていた。