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「優子。顔を上げてくれ……」
廉が優子の顔を覗き込むと、彼女が、顔を濡らしながら眼差しを絡めさせる。
「俺は今、拓人がオーナーだった女風の建物を買い取り、様々なジャンルのクリエイターやアーティスト、工芸作家やデザイナーが活動できるスペース『Creative Garden』を提供している」
「専務が……ですか……?」
「ああ。Hearty Beautyでも仕事を続けながら、副業として、『Creative Garden』のオーナーをやっている」
「素敵ですね……」
彼女は指先で涙を拭うと、柔らかな表情を見せ、唇に弧を描かせた。
「服飾デザイナーも数人ほどいるが、いいデザインに出会えたら、俺が直接デザイナーと交渉して、我がブランドでも、デザイナーとのコラボレーションとして積極的に採用している」
廉が、優子の店で購入したネイビーブルーの二つ折り財布を袋から取り出し、そっと撫でた。
「今後は、服飾以外の商品の展開も、視野に入れていこうと考えているんだ。もちろん、個人で活動したいクリエイターやアーティストも、『Creative Garden』にいる」
アーティストやクリエイターなどの支援は、彼らしい。
優れた人材をCreative Gardenで見つけ、自社ブランドにデザインを取り入れていき、表現者の活動の場を広げていく姿勢に、彼女は感銘を受けると同時に、やはり彼は今も尊敬できる方だな、と優子は思う。
「ところで、優子。今日販売していた商品は、どこで製作したんだ?」
「一人暮らしのアパート……で……」
不意に話を振られた優子は、恥ずかしげにまつ毛を伏せる。
「ちなみに、今、どこに住んでいるんだ?」
「地元の国立です。ですが、親には絶縁されているので…………実家には戻らず、一人暮らしです……」
「…………そうだったのか」
彼女は、恐るおそる廉を横目で見やると、彼は眉間に皺を刻みつつ、何かを思案しているように見える。
沈黙の情調と、噴水から湧き出ている水の音だけが、再び二人の間に漂い始めると、優子の耳朶を涼やかに掠めていった。
しばらくの間、口を閉ざしていた廉が顔を上げると、穏和な眼差しを優子に注ぐ。
「なぁ…………優子……」
「はい」
何を言われるのだろう、と不安げに思った優子は、僅かに身体を強張らせた。