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しばらくして、部屋の扉が壊れた音がした。
化け物が入ってきた。
何かを探しているのか、犬のように鼻を鳴らしている。
ドシン、ドシンという大きな足音を部屋中に響かせながら。
心臓が飛び出してしまいそうだ。
バクバクと、相変わらずその音を鳴らしてしまう。
この音も、奴には聞こえているのだろうか。
しかし、化け物は気づかない。
聴覚はないのか。
「ギュルルルル……」
化け物は妙な音を出し、匂いを頼りに物を探す。
そして、ついに奴は拾い上げた。
僕の服を。
血がべったりついた服を。
やがて、足音を響かせながら白鬼は部屋を去った。
「……行ったか?」
僕はゆっくりと隠れていたタンスを開け、そこから出た。
「……あいつ。僕の服を……」
「あの鬼は、恐らく血の匂いが好きなんです」
「だから脱げと……」
「はい。お兄さんを追いかけてきたのも、そのせいかと」
服を脱いで、上半身がシャツだけになったせいか若干寒い。
クエリィは、そんな僕を不思議そうに見つめていた。
あまりじっと見つめられると恥ずかしいから、とりあえず言葉を発した。
「……部活やってたんだよ。それなりに鍛えてた」
「そうなんですか」
「陸上部。最近までやってたんだ……けど」
「……お兄さん?」
また余計なことを喋ろうとしてしまった。
会って数時間ぐらいの少女……もとい死神人形に自分に関するどうでもいい話をするところだった。
「何でもない。行こう」
かくして僕らは、子供部屋を後にした。
一階に降り、洗面所に移動した。
そこにはカゴが置いてあり、僕でも着れそうな服があった。
正直躊躇するが、適当に着込むことにした。
ずっと裸のままだと流石に寒い。
服を着込みながら、クエリィに話しかける。
「……クエリィ、何かありそう?」
「いえ、何もありません」
「そっか……」
「玄関には鍵が掛けられているんですよね」
「そうなんだよ。あいつが持っている可能性もあるし……というかそもそも、アイツに鍵をかける知能なんてあるのか──」
「お兄さん」
「うん?」
「お兄さんは、私が怖くないんですか?」
突然、何を言い出すんだろうとクエリィを見つめる。
しかしよくよく考えてみれば、彼女とは特殊な出会いをした。
恐らく僕を助けるため、白鬼に向かって両手のナイフで斬りつけた少女。
それも不意打ちで。
彼女は不気味だ。
確定はしていないが、都市伝説の噂によれば、彼女は僕を殺していても不思議じゃない。
「……怖くないと言えば嘘になるかも」
「じゃあ怖い、と?」
「うん。でも……同時に頼もしいとも感じる」
「頼もしい?」
「女の子に頼るのも情け無いけどね。君しか、頼れないし」
何をしでかすか分からないから、とまでは言わない。
もしかしたら、僕の命をタイミングを測って奪おうとするかもしれない。
情報を信用するわけではないが、彼女自身も信用しすぎるのもよくないと考えていた。
……命の恩人にそう考えるのもよくないが、どうしても都市伝説の情報がチラついてしまう。
僕は愚かだ。
「初めてです。そういう風に言われたのは」
「……少なくとも、僕は君のことを信頼してる」
どの口が言ってるのか、僕は淡々とそう言う。
「信頼……ですか」
「うん」
「……それなら、言ってもいいですか?」
「うん?」
「これから死にたいなんて、思わないで下さい」
力強く、彼女は静かにそう言った。
さっきから思っていたが、彼女は死に関わる話にかなり反応する。
……きっと僕が、馬鹿で自暴自棄だから故に注意しているだけなのかもしれないが。
「言葉っていうのは力になるんです。きっとあの鬼も、言葉によって生み出されたもの」
「……言霊、か」
「えぇ」
非現実的な話だが、言葉に関することは何となく理解してる。
言葉は毒にも薬にもなることは、身を持って実感してるつもりだ。
知らない誰かが変な情報を流せば、人っていうのはそれにハマってしまうものだ。
だからこそ、情報には左右されたくないんだけど。
「……ありがとう。何から何まで心配してくれて」
「いえ、当たり前のことを言っただけです」