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ここでガチャをやるのは正直言って気が引ける。しかしだからといってやらなければ、迷いの森から出られそうにない。
「仕方ない、やるか……」
魔石を握りしめガチャをしようとすると、虎耳の子が手を差し出してくる。
「ウー! 人間アック! その魔石、危険だぞ! それをよこせ!!」
この子から見たら魔石が危険なアイテムってことを認識してるってことか。
「悪いがこれはおれの大事な物だ。捨てることも無ければ渡すことも無い。これを使ってこの森から出られる可能性があるんでね」
「ウーウウー! シーニャ、認めない! お前に危険が無いか、嗅ぐ!!」
「……ふぅ。好きにしてくれ」
女の子とはいえワータイガーである以上、逆らえば面倒なことになるのは確実だ。ここはしたいようにさせるしかない。シーニャと名乗る虎耳少女は、恐る恐るおれに近付いてくる。
「――フンフンフン……、お前危なくない、弱いニオイがするゾ!!」
「ニオイ?」
「邪悪なニオイしない! お前を守ってやる! 人間アック、シーニャの傍にいろ!」
彼女はおれに近付き、手や腕に鼻をこすりつけながらニオイを嗅いだ。そのまま小刻みに頷いたかと思えば急に懐きだした。
「おれの名前を呼ぶんなら、アックでいい」
「アック……! アック! 覚えたゾ。アック、シーニャの後ろをついて来い!」
ようやく人間から名前呼びに変えてくれるんだな。
「ところで君たちはこの森に迷い込んだんじゃなかったのか?」
「シーニャたち、森の獣。”嗅ぎつけ”ある! アックはそれが無い。ついて来い!」
おれを試していたってことか。いざとなれば、森を抜け出すためにガチャをすることも出来た。
だがシーニャは首を左右に振って、
「シーニャ、魔石好きじゃない。モルアスの森、魔石使っても上手くいかない」
「ガチャに合わない場所か」
「お前、鉄を虎人族《こいつら》に渡せ! お前にはシーニャがいる。鉄、いらない」
「アイアンを?」
レアなアイアンではあるが火矢を防いだだけで他に使い道が無い。それだけにどうするか迷っていたが。
「……テツ、テツ」
「うん? あぁ、ほら」
言葉少なめに、虎人族の子たちがアイアンに手を差し出す。使い道が無い以上素直に渡すことにする。
「シーニャ、バイバイ、バイバイ」
「ウー! また会うゾ! ウー」
シーニャとはここで別れるようだ。彼らはこの場から離れ、深い森へと消えて行く。その様子を眺めていると、シーニャが彼らのことを自然と話し始める。
「鉄、人間相手に売れる。虎人族、とても貧しい」
「シーニャは行かないのか?」
「狩りだけ、仲間。シーニャ、村は無い。モルアスの森で会うだけ」
要約すると、虎人族とはこの森だけで会って協力する仲間というだけの関係か。あの虎人族たちと行動を共にすることは無いみたいだな。
「うん? どうした? まだ何か……」
「アック。背中に何かある! それから何か匂う」
「ああ、ミスリルの剣だな。匂いはしないと思うが……」
「違う。さっきから、シーニャに殺気のニオイ!」
そういやフィーサが随分と大人しい。面倒なことには一切口を開かずにいる子だけど、密かに殺気を飛ばしていたか。
「心配ない。この剣はおれの大事な剣だ。殺気を感じるのは強い剣だからだろう」
「そうなのか……? アックの背中から今にも動き出しそうだゾ!」
「大丈夫だ。おれの剣だから、シーニャに何かすることは無いはずだ」
「そうか、アックいい奴。もうすぐモルアスの森、抜けられる!」
シーニャの後をついて歩いているだけなのに確かにもうすぐ抜けられそうな気がする。これが嗅覚に優れた獣と人間の差なのか。それとも彼女の言う嗅ぎつけのスキルのおかげだとすれば――。
そのスキルを手に入れてみたいし欲しい。
見渡す限りの深い森は歩いているうちに抜け出していた。
「ひらけたところに出そうだな」
森から抜け出せそう。そう思っていると、シーニャがつんつんとおれの腰を突いてきた。
「アック、どうしてモルアスの森にいた?」
「アグエスタから離れて来たらここにいただけだ」
「やはりそうか! 人間のあの国、魔物と同じニオイ! アックも魔物に見えた!」
魔物と同じ匂いか。悪そうな奴らばかりだったし無理もないな。
「もういいよ、シーニャ。ここまでくれば山の洞窟にも行ける」
「ウニャ? 何を言っているのだ? お前、シーニャの仲間入り。お前が行くところ、シーニャの行くところ」
「森を抜けたわけだし、ここからはおれだけで――」
気付いたら仲間扱いされてたのか。
「駄目だぞ! アック、弱い! シーニャ、お前をずっと守る。守らないと、シーニャ悲しい」
「弱いのは否定出来そうにないが、参ったな……」
「寂しければ、シーニャの耳にも触れていい」
寂しくは無いが耳には触れたい。だが迷いの森で出遭ったとはいえ、獣人の少女を連れて行くのはさすがに。
「イスティさま、獣ごとき連れて行ってもわらわは構わないの」
「え、フィーサ?」
「黙っていようと思っていたの。でも、マスタァは意思が弱いところあるから」
「う……」
おれが悩んだりすると口を開くのがフィーサのいいところだし、優しいところだな。
「わらわの強さを見抜いた獣のスキルはまだ必要だよ? 山の洞窟も迷うかもだから」
「フィーサがそう言うならそうするよ」
悪い獣人では無いのは見ればわかる。フィーサはそれを見抜いていたからこそ、しばらく黙っていたみたいだ。
「誰と話をしているのだ? アック、山の洞窟暗くて狭い。シーニャにくっついていい!」
「そうさせてもらおうかな。シーニャ、よろしく!」
あいさつ代わりに虎耳に触れるか。
「フ、フニャ……急に耳、触ったら駄目だゾ!!」
「ごめん。気を付けるよ、シーニャ」
結局アイアンを渡し、ガチャで森を抜ける作戦は消えた。その代わりに獣人シーニャという少女の仲間にされてしまった。ルティとスキュラとの再会はそう遠くない。それまでに何かしらの成長要素を高めておくとする。
そうすれば彼女たちを守ることが出来るかもしれない。