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小鳥がさえずり、陽の光が気持ちの良いある日。人里離れ、自然に囲まれた小さな村『パセキ』での出来事…。
この世界では魔法が存在しており、スライムやゴブリンと言った多種多様の生物が存在している。そんな生物界の頂点に位置するものが『竜』または『龍』の二種にあたる。彼らは他の生物より寿命が長く、体躯も比にならない。小さな竜と一括りにしても、全長5mを超えるのはよくある話。
その竜(別名ドラゴン)は冒険者達の夢でもある。彼らを討伐することそれすなわち、名声と富を得ることに値する。だからみなこぞって力をつけて装備を整えてロマンを追い求めるのだ。しかし、これはあくまで冒険者目線の話。一般人からすればドラゴンなど、厄災以上の何物でもない恐怖の対象だ。それはこの村『パセキ』でも言えること。
特にパセキはドラゴンを忌み嫌う傾向にあり、この村がある地域には『古の竜』が存在してるとまで言われており、その住処がこの村周辺なのだ。それ故に人々はその影に脅え、己が生み出した架空の中の被害に恐怖を覚え、ドラゴンを彷彿とさせるものに対し、極度の拒絶反応を起こす。その一例が私だ。
私は生まれた時から左側の額に大きな火傷を負ったような模様があり、その模様がまるで竜の伊吹を受けたように村人は見えるらしく、それが理由で私は忌み子として村人達から酷く煙たがられた。受けた被害も尋常ではなく、体罰に監禁。食事だってまともなものを食べさせてもらったことは無い。
母さんは私を産んだことによってこの世を去った。元々体が強くない人だったみたいで、私の出産自体奇跡なんだと色んな人は話していた。また、母さんは村の人からの信頼も厚くて村の中心人物と言っても過言ではないほど。そんな人から生まれたのが竜を連想させる忌み子とはとんだ皮肉じみた事象だろう。
そんな私だが今は村を抜け出て近辺の森で生活をしている。正直なところ生きることに関して目的はない。忌み子として何年も生きてきたからか生きる目的も何も無い。だから別に死んだって構わなかった。ただ、アイツらに殺されるのだけは癪だから抜け出てその辺でくたばれれば満足って感じだ。それにアイツらも忌み子の私が消えたのなら本望って思ってるはずだ。だって、私が原因で村の空気を悪くしてるのだからその元凶が消えれば空気も良くなるし、空想の恐怖に怯える理由も無いはずだから。
そんな他愛もないことを考えていも腹は減るものだ。昨日一昨日と何も食べていないから流石に肉体が栄養を欲しているが、今日も残念ながらこれと言って食べれそうなものを見つけられず、川も見つけられないから飲める水もない。飲まず食わずで3日目に入るのは初かもしれない。そろそろ死期が近いのだろうか、目元がぼやけ足元もおぼつかない。疲労回復のためまた一度何処かで仮眠をとることにしよう……。
気付かぬうちに寝てしまっていたらしい。何も無いこんなところで寝れるほど私は疲れていたと思うと極限状態だったのだと自覚せざるおえない。
ふと、辺りを見渡し違和感を覚える。理由は単純…森の中と言えど静かすぎることだ。動物の鳴き声はおろか、風が葉を揺らす音すら聞こえず、聞こえる音は自身の鼓動と何も食べてないことから来る疲労ゆえの絶え絶えな息遣いのみ。この違和感を何故か彼女は知っていた。それは昔村人達が口を揃えて話していた『古の竜の聖域』の話。
その竜がいる場所は他の生き物も近寄らぬ未開の地で、噂の一つにそこは音の無い世界とも言われ人が感じれる感覚全てがまるで機能してないと錯覚を起こすそんな不思議な土地があると…。そしてそこに立ち寄った者は皆消息を絶つ。そんな噂話
もちろん彼女自身そんなものこれっぽっちも信じていない。だってその話は『竜を怖がる村人の話』だからこの話をきっと彼らが生み出した恐怖から来た創作話に過ぎないのだ。今自身が体験してるものもその話を聞いたが故に変に意識してそう思い込んでるに過ぎない。もっと言えば彼女の現状態が極限状態だからこそ見せてる景色とも取れる。どんな理由にせよ、彼女自身見てる景色を『現実』とは捉えていない。
そんな二つの考えを肯定するかのように『それ』は現れた。他の生き物を見下し、その眼光で射殺せるような翡翠色の鋭く冷酷な瞳。凛々しく伸びるその角は自身が強者であることを誇示してると思わせるほどのもの。数多の攻撃に対して耐性を得てるように隙間なく埋まる深紅の鱗。自衛するために人が使う盾や、獣達が肉体へのダメージを減らすために進化した伸縮性があり強固な皮などそれら全てを否定するかのごとく鋭く伸び黒光りする爪。何より他の生き物を圧倒できるほどの体躯に足元に転がる小石をどかすがごとく、自身より小さき生物を吹き飛ばせるほど強固で長い尻尾。
間違いなく今目の前にいる存在が伝承に聞くドラゴンであり、村人が噂していた『古の竜』本人に違いないだろう。だが、こうして対峙してみて彼女には恐怖の二文字は浮かんでこなかった。感想としては誰でも思う『これが竜か』程度なのだ。そこに恐怖も関心も何も無かった。竜と対峙して少しの間の後竜が口を開く。
「お主、我を見て何も思わないのか?」
その問いかけに対して一番に出た感想は
「竜って話せるんだ」の一言だった。それを聞いた竜は先程までの鋭い眼を丸くし口を半開きに空けてポカンとした後豪快に笑った。
「こんなのにあいつらビビってたんだ。アホらし……」
そう呟いたあと彼女の身体が限界を迎え再度気を失ってしまう。