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「えー?!タマは、あやかし言葉なんか使ってませんよねぇ?タマが、人の言葉を喋ってるだけなのに、正平様は、なんか、やっぱり、おかしいよ」
言って、タマは、紗奈《さな》を見た。
「そうだわねー、タマって、人の言葉しゃべってるだけで……」
紗奈《さな》は、言い留まる。あまり言うと、正平に、失礼ではないかと思ったからだが、兄の、常春《つねはる》は、違っていた。
「正平様、なぜ、邪魔をなさいます?あやかし言葉などと、言って、我らを撹乱しておりませんか?何か、ここで話されては不味いことが、あるのでは?そして、それは、守孝様も。そうなのでしょう?」
常春は、正平と、守孝を交互に見る。
「うん、確かに、常春や、お前の言うとおりだ。姫君の事を話せば、嫌でも、小上臈《こじょうろう》様に繋がる。そして、兄上のお名前も、出てくることになる……」
守孝は、守近にかけて、守恵子《もりえこ》の名が出てしまうと、匂わした。
つまり、姫君がいた、いない、までは、良いが、入内という事が、かかわっているとなると、守恵子の名前が、出るのは防げないはず。
しかも、喋るのは、タマ。加減、そして、家の事情というものがわからない。
正平の前で、何を言い出すことかと、守孝は、警戒していたのだ。
「それで、守孝様は、正平様に、あやかし、などと、言って気をそらせた……」
「うん、まあ、それもあるが、こやつの正体も、知りたくてな。なあ、家司《しつじほさ》よ」
守孝に、呼ばれた正平は、顔色を変えた。
「な、何をおっしゃっいますやら」
と、笑っているが、体は小刻みに震えている。
「えっ?!それって、どういう……」
紗奈は、またまた、言葉に詰まる。
家司、と、いうことは、大納言家の家臣ということ。
しかし、正平は、方違えに来ている、右兵衛佐《うひょうのすけ》の役職に就く者。
「あの、守孝様?」
紗奈は、わからぬと、守孝を見た。
「ホホホホ、私の特技を忘れたか?」
「あ、そうだ!守孝様は、禁中に出入りする者の、役職と名を覚えるのが特技だった!!」
常春が、叫ぶ。
「え?!初耳です。守孝様、そんなこと、出来るんですか?!」
禁中に出入りする、と、言っても、一人二人ではない。全てを、覚えるとなると、これは、ほぼ、不可能に近い事ではないかと、紗奈は思うが、得意げに、ホホホホと、笑っているということは、できるのだろう。
「守孝様、どうして、また」
「だから、言ったであろう?紗奈。公達は、雅なだけではないのだよ。結局、出世せねばならぬのでな。と、なると、有力者の名前は当然覚えておかねばなるまい?そして、その、とりまき、どこの派閥、などなど、気にしておったら、出入りしている者の、役職と名前を、覚えてしまったのよ」
「じゃー、どうして、床舐めとか、白い毛のふわふわとか、あやかしがお好きなわりに、その名前は、覚えてないのですか?」
紗奈の、突っ込んだ質問に、守孝は、しれっと、あやかしに、興味はないからなぁ。と、言いきった。
「ええええーーーー!!!じゃ、じゃ、タマは、騙され、もて遊ばれていたのですかっ!!!」
タマが、今にも泣きそうな声を出す。
「いや、もて遊ぶとかではなく、遊んでいただけのこと。と、言うことで、タマは、暫く控えておきなさい」
守孝の、都合良い命に、タマは、しゅんとして、小さく丸まった。即座に、一の姫猫が、寄り添い、ペロペロ、タマの体を舐める。
「タマが、なぜ、気落ちしてるのかわからないけど、取りあえず、猫ちゃんに任せておいて、守孝様、では、と、いうことは、もしかして……」
「そう、右兵衛佐《うひょうのすけ》に、正平という者はおらぬし、そもそも、自らの名を名乗るに、右兵衛佐《うひょうのすけ》正平、などとは、言わぬ。氏も、名乗るはずなのだ。つまり、適当に作った名であるということと、私達より、先に止まっていた、牛車《くるま》には、暗闇で分かりにくかったが、ここ、内大臣家の紋が描かれておったのよ」
まっ、そうゆうことから、正平は、一体何者かと、あやかし、などで、釣ってみたのだと、守孝は、言う。
「なるほど。自邸の牛車《くるま》を置き、来客と、思わせていたわけですか」
常春は、納得しつつ、しかしと、守孝へ、問うた。
「では、正平様が、家司、と、どうして、お分かりになったのですか?」
「なんとなく、だな」
はあ?!
なんとなく、って?!
「じゃー!正平様が、家司とは、限らないじゃないですかっ!!」
紗奈の抗議の後に、正平が、観念したかのように、ポツリと言った。
「私は、このお屋敷の、家司でございます」
そして、家令《しつじ》様を、お呼びいたしますと、立ち上がった。