テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#復讐
すっこ
2,432
652
#短編集
りすぐみ
108
#恋愛
ばたっちゅ
4,526
「はぁ?何が「元気?」よ!たったそれだけ?そんなの元気に決まっているわよ、ろくでもない男と別れられたんだから!!」
期待通りのジェニの反応に、思わず藤子は笑ってしまった、心が温まる、彼女はいつだって藤子の味方になってくれる
「どうして、今頃私の様子を探ろうとしているのかしら・・・」
藤子は眉間にしわを寄せた
「一言だけの短いトークを送って、私が返すかどうか確かめようとしているとか?」
「つまりそれって「北の国から野郎」はあなたと寄りを戻したいって考えてるんじゃない?」
「あり得ないわよ、私は本当にこの12か月色々考えたのよ、人生のこの大事な時点で、仕事を辞めて、結婚の約束も出来ない男を追いかけて北海道へ行くほど、私はバカではないわ、そもそも北海道行きの話が出た事からみても、二人の関係に対する考え方が、彼と私ではまったく違ってたんだもの」
信二と別れて以来、ジェニに今まで感情を何度かさらけ出したことがあった、ジェニが優しく藤子に言った
「もしかしたら彼の事で何か心に引っかかってるとか?わかるわよ、インスタとかLINEとかの友達のSNSでは、結婚や子供が生まれた話ばかりの報告、嫌でも目に入ってくるわ、もしかしたら・・・あの時北海道へ行ってたら、今頃あなたは私に「子供が出来ました」って写真を送って来てるかもしれないものね」
突然心配になり、藤子がジェニに身をかがめて声を落とす
「私達・・・仕事ばかりしてる「イタイ女」じゃないわよね・・・?」
「もちろんあなたは「イタイ女」なんかじゃないし、私もそうよ、多分・・・」
むむむっと二人で顔を近づけて見つめ合った、そしてジェニが言った
「ねぇ・・・アルマーニのスーツのクリーニング代いくらだと思う?」
「そんな恐ろしい事考えたこともないわ」
「働こう!」
「うん、働こう!」
二人はそれから、今月のカードローンの支払いがどうとか、得意先の納期がどうとか、相変わらず私情と仕事をごちゃ混ぜに口に出しながら、どんどん仕事を片付けていった
そしてジェニが得意先に出向く時間になって、藤子が手土産の折り菓子を持たせ、送り出した
ジェニがエレベーターに向かって去って行こうとする時、ふとピタリと彼女が入り口で止まった
「藤子・・・」
「うん?」
「12か月前、あなたが信二を追って北海道に行かなくて、神崎広告代理店に残ってくれたこと、私がどれほど感謝してるかわかる?」
クスッ「なぁ~に?突然・・・クライアントが待ってるわよ、さぁ行って!」
「ありがとう」
そう言って、ジェニは、はにかんで颯爽と去って行った
ジェニは藤子を元気にするビタミンだ、とても気分が良くなった、藤子の方こそジェニに感謝した、夕方の終了時間前・・・メビウスオフィスビルの窓から大阪市内の綺麗な夕焼けが見える・・・
みんなは珍しく・真紀ちゃんまで営業に出向いて・オフィスでは藤子がポツンと一人デスクに佇んでいる
そこでスマホのラインの画面をじっと見る・信二のメッセージに「既読済み」の表示がされている、藤子はデスクのカレンダーを見てあと3日であのイタリアンレストランで最後に信二に会ってから、ちょうど12か月1年になることに気が付いた
あのイタリアンレストランで別れてから・・・お互い一回も会わなかった、藤子の方は意地になっていて、絶対自分から連絡を取るものかと思っていた
そして最後に信二から電話があったのは、彼が北海道に行く1週間前だった・・・その時に双方合意の上でお互い電話もメールもしないと言った、それなのに信二は今更LINEメッセージで合意事項を変更しようとしている
普段なら決断が早い藤子も、どうすべきか考えている、心のどこかでは、もう彼をブロックして削除してしまいたいという思いもあった
しかし、ひょっとしたら、何か悪い知らせがあるのかもしれない、その場合、返事しなくて後で後悔することになるのも嫌だ
―それとも私が恋しいのかしら?―
まさか!彼は自分を捨てたのだ、でもどういう意図で連絡してきたのかが気になる・・・なので思い切って返事を返してみることにした、およそ1年経って受け取った連絡であること、二年付き合い、同棲して私を捨てた相手に送るメッセージを考える
―連絡ありがとう―
と打って、すぐさま削除する
―なんでありがとうよ?いつもの友人や得意先にする社交辞令じゃないのよ―
いいかげん「良い人」の自分をやめたかった、はっきり言って彼から連絡が来ても何のときめきもなかった
向こうの意図が分からず、むしろモヤモヤさせられている、だったらブロックして削除すればいい、でもそれも自分が彼と向き合う準備が出来なくて逃げてる様に捉えられてもシャクに触る、どっちみち一年前に正式に顔を見て別れを告げずに、電話で二人の関係をうやむやにしてしまった自分へのツケが今頃回ってきているのだ・・・
なので藤子はもう一度メッセージを考えた
―久しぶり私は元気で忙しく過ごしているわ、北海道で成功することを願っている―
・.。. .。.:・
これでよし!読み返すと簡潔で良い文だ、馴れ馴れしすぎることも無く、爽やかにお互いの道で成功しましょうと、近況を報告しつつ、こちらの成功もほどなく醸し出している
藤子は満足して「送信」のマークを押した
プルルルルルルル♪「わぁ!!びっくりした!」
30秒もしないうちに着信音が鳴った
藤子は驚きを隠すことが出来ずに思わず着信を取った
『また、君の声が聞けて嬉しいよ』
電話の向こうで信二が言った、思わずデスクの時計を見た、今は午後4時過ぎ、当たり前だけど北海道も日本なのだから同じ時刻だ
「まだ仕事中なんでしょ?」
『そうだよ』
信二が陽気に答える
『今、クラアントに新しい登記の説明をしに、会社に伺ってきた所なんだけどさ、社長が富良野にラベンダー畑を持っているんだ、それでラベンダー畑の中に会社があってね、週末になると遊びに来るといいって言ってくれたんだ』
信二はよほど嬉しかったのだろう、ペラペラと話し続けた
「しかも、その母屋がすごいんだ、本当に豪華でね、昔の別荘を改良したもので、緩やかな緑の丘陵地帯に建っていてね、すごく素敵なんだ、きっと君も見たら気に入るよ
藤子は目をしばたいた
―うーーーーん・・・これをどう解釈したらいいのだろう―
「北海道の暮らしは、あなたにはとても合っているみたいでよかったわね」
藤子は、突然この会話は非現実的に思えた
『全てって訳でもないさ、第一君がいない』
―ああ・・・やっぱり―
悪い知らせじゃなくて、彼は私と寄りを戻したがっている
「信二・・・気を悪くしないで欲しいのだけど、一体何しに電話をかけてきたの?私はまだ仕事中なのよ?忙しいから切るわ」
ここは遠回まわりをしないでハッキリ言うのが一番だ
『古い友人に挨拶の電話を入れることが悪いことなのかい?』
信二は無邪気に言った
「挨拶なら先ほどのLINEメッセージで十分のはずよ」
『君がどうしているか知りたかったんだよ、LINEだけで全て分かる人なんていないだろう?』
藤子は髪を掻きむしった、どこかの時点でもっと早くハッキリしておいた方が良かったのかもしれない、この電話が終わったら信二をブロックしよう
コメント
1件
やあ、星キラリさん。第62話、読み終えました。 ジェニとの軽妙なやりとり、すごく好きです。仕事の話と私情がごちゃ混ぜになる感じ、オフィスもののいいところが出てましたね。特に「アルマーニのスーツのクリーニング代」から「働こう!」への流れは、笑えてじんわり来ました。 それにしても、信二からの突然のLINE。12ヶ月の空白を経ての「久しぶり」は、藤子の心の揺れが痛いくらい伝わってきました。最後の「ブロックしよう」という決断、彼女の成長を感じます。 設定の細かいとこ、気になりますね。例えば「イタリアンレストランで最後に会ってからちょうど一年」という数字の象徴性とか。「電話で別れをうやむやにしたツケが今頃…」という一文も、後々効いてきそうな伏線のような。 続き、楽しみにしてますね。