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「偶然だな。新しい彼氏?」


昭人は九年付き合った私をサックリ振っておきながら、悪びれもなく話しかけてくる。


彼の言葉を聞いただけで、尊さんは目の前の男性が何者なのか理解したようだった。


昭人は私が持っているヴァンクリの紙袋を見て、軽く目を見開く。


「凄いな。そんな高額なプレゼントをしてくれる男を、一年足らずで釣り上げたのか」


「……っ、そんな言い方しないで。これは違うの……っ」


まさか、返そうと思って持ってきた紙袋が、こんな誤解を生むとは思っていなかった。


「俺と別れて良かったんじゃないか? お幸せに」


嫌みっぽく言われ、私はギュッと唇を引き結ぶ。


その時、尊さんが昭人に挨拶をした。


「こんばんは。君が朱里の元彼くん?」


昭人は尊さんの挨拶の中に牽制めいたものを感じ、皮肉げに笑う。


「そうですけど、もう何も関係ないのでお気にせず」


一年も前にフラれたのに、再度彼にハッキリ言われてズグンと胸が痛んだ。


「やだ。その人、元カノさん? 綺麗な人」


昭人と腕を組んでいる女性は、私を見て微かに優越感の混じった表情で言う。


百五十センチぐらいで小柄な彼女は可愛らしく華奢で、確かに小動物系だ。


肩ぐらいのピンクブラウンの髪には緩いパーマがかかり、ファーのついたベージュのコートにチュールスカートを穿いていて、守ってあげたくなる印象がある。


それに引き換え、私はフワフワした服装が似合わない。


今日の服装は袖がレースになっている黒のトップスに、バックスリットが入ったグレーのタイトスカート、靴は黒いブーティーだ。


アッシュブラウンの髪は緩く巻いているけど、仕事の時はきっちり纏めている。


身長は百六十八センチあるし、彼女とは本当に対象的だ。


イメージで言えば、私はブルベ冬のクールな感じ、彼女はイエベ春のフワフワ可愛いタイプだ。


加えて私は可愛いタイプとは言えず、学生時代は、『上村って黙ってると怒ってるように見える』と言われたぐらいだ。


ずっと家庭環境で悩んでいたから、そういう雰囲気があったのは否めないけど。


そんな事を考えていると、昭人は彼女さんに返事をした。


「元カノだけど、もう関わりがないから安心して。俺は|加代《かよ》一筋だから」


昭人のデレデレした顔を見て、いまだ心の底にあった未練が薄くなっていく。


まだ何パーセントかは「ヨリを戻せたら……」と思っているけど、この表情を見ると「昭人の心の中に、私はもう住んでいないんだな」と痛感したからだ。


「お幸せに」


私は努めてにこやかに二人を祝福する。


けれど無理に笑おうとしたからか強張った表情になり、昭人はそんな私の表情を見て、少し不安に言った。


「頼むから邪魔するなよ?」


言われた瞬間、ブチッと何かが切れた。


「~~~~っ! 頼まれても邪魔なんてしない! 自惚れるのも大概にしてくれる!? あんた、仮にも九年付き合った彼女を何だと思ってるの? 私はそんなみっともない真似なんかしない! ふざけんな!」


いまだに元彼に未練を抱き、嫉妬する浅ましい女扱いされ、私はブチ切れて大きな声を上げる。


周囲の人が驚いてこちらを見たけれど、これだけは譲れなかった。


「確かに未練はあったけど、なんでしつこくせず引き下がったっか考えなかった!? あんたの事がまだ好きだったから、せめて邪魔をせず、私の見えないところで幸せになってほしいから沈黙を守っていたんでしょう!?」


怒鳴った瞬間、加代さんはわざとらしく「やだ、こわぁい」と怯えて身を引き、昭人は彼女を庇うように前に出た。


「熱くなるなよ。加代が怖がってる。お前はただでさえ見た目が恐いんだから、少しは言動に気をつけろって」


「っ~~~~!!」


あまりの怒りに、涙がこみ上げた。


私が怒っているのは、嫉妬してるからじゃない。


未練はあるけど、人としてやってはいけない事は分かっているのに、昭人は別れた途端、私を〝嫉妬から自分たちの幸せを壊すかもしれない相手〟とみなしたのだ。


こんな侮辱ってない。


「っあんた……」


私がさらに何か言おうとした時、尊さんが私の前に進み出た。


大きな背中に遮られて昭人が見えなくなった私は、勢いを削がれて口を噤む。


「……田村昭人くんだっけ? 仮にも元カノなんだから、朱里を侮辱するのは、それぐらいにしたら? 君の人格が疑われるよ」


尊さんはいつもと変わらず飄々と言い、昭人は「なっ、……べ、別に俺は……」と言い訳を始める。


けれど尊さんは昭人に反論を許さず、微笑んだまま言葉を続けた。


「君は朱里を悪者扱いしてるけど、君こそかなり性格が悪いじゃないか」


「そんな事ない。いきなり何言ってるんだ」


昭人はムッとして反論するが、尊さんはなおも続ける。


「君の言う通り〝もう関わりがない〟なら、わざわざ足を止めて話しかけなければいいじゃないか。彼女さんだって、元カノを見たら快く思わないはずなのに、君はわざと足を止めて朱里に話しかけ、彼女を煽って怒らせ、上手く悪者に仕立てあげた」


「な……っ、ち、違う!」


赤面した昭人は焦って周囲を見回すけれど、尊さんはそれを無視してせせら笑う。

部長と私の秘め事

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コメント

4

ユーザー

尊さん、サイコー😎👍️ 9年も付き合っていた元カノを侮辱するような こんな最低男、さっさとやっつけちゃって!👊😠

ユーザー

せせら笑う尊にゾクゾク♥️🖤

ユーザー

好きだわー❣️このくらい言ってくれる男だったら間違いなく頼れる人だもんネ(*´∀`)ノ

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