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「……私のことを、気にかけているのですか?」
「あっ…と、その……」
それはそうなんだけどと思いながらも、伝えるべき言葉が咄嗟には思いつかなくて、下を向くしかなかった。
「言いにくいことなのですか?」
全てを見通すような瞳で、真っ直ぐに見つめられる。
「……わからないんです」
ようやく口を開いても尚、そんな風にしか言うことのできない私に、
「わからないと言うのは……?」
彼が束の間、不思議そうな表情を浮かべた。
けれど、好きかどうかがわからないだなんて言ってもいいんだろうかと、黙り込んでいる僅かな隙に、
「……まだ、答えが出せないことを気にされているのですか?」
彼はこちらの気持ちを冷静に見抜いて、私はこくりと小さく頷いて応えた。
「それなら、前にも焦らなくていいと言ったでしょう」
彼はそう口にすると、ひと息を置いて、
「だがいずれは……」と、私の顔をじっと見つめた。
「……いずれは私が、そんな風に感じられなくなるくらいに、君を好きにさせてあげますから」
言いながらテーブルの上に置いていた私の手に、彼がスッと手の平を重ねて、思わずびくっと顔を上げると、メガネ越しの切れ長の瞳とかち合った。
「……もう、引っ込めたりはしないんですね」
言われて、「あっ…」と急に恥ずかしくもなって、手を引こうとすると、
離さないとばかりに強く引き戻され、彼のしている重厚感のある金属製の腕時計がテーブルに当たり、ガチッと鈍い音を立てた。
「……いいでしょう? このままでも」
音にひるんだ私の手をぐっと掴み直し、彼が唇の端で薄く微笑う。
「……以前よりは、私を好きになっているのですよね?」
顔を近づけわざと声をひそめるようにして囁きかけられると、重ね合わされた手の熱さと相まって、一層ドキドキと気持ちが高ぶって感じられるようだった。